第86話 三人でソーニャ家

   ◆海斗side◆



 結局、天内さんがなんで怒っていたのかわからず、そのまま機嫌がよくなった。

 女心と秋の空とは言うけど、今回ばかりは本当にわからない。

 ハフレだからハグを求めてるのかと思ったんだけどなぁ……まあ、もうすぎたことだから、別にいいか。



「よしっと。二人とも、準備できた?」

「もち!」

「ろんっす!」



 振り返ると、二人とも肩掛けバッグを手にうきうきとしていた。

 わかる。今年初めてのプール……しかもソーニャの家のプライベートプールだ。

 これでテンションが上がらない方がどうかしている。

 因みに純夏の今日のファッションは黒いミニスカートに、白い肩開きのシャツ。頭には空色のつばが広い帽子。モノクロでかっちりしつつも、オシャレを忘れていないって感じだ。

 逆に天内さんはベージュのハーフパンツに、黄色いダボッとしたロングティーシャツを着ている。

 思いの外、露出が少ない。天内さんのことだから、もっと露出を増やすと思ったんだけど。



「やん。海斗くん、視線がえっちぃ」

「ご、ごめん」

「謝るってことは、そういう目で見てたんだ。まあ海斗くんにだったらいくらでも見られていいんだけど」



 なまめかしく、腰をくねっとさせる天内さん。

 ダボッとしているシャツだから、体のラインが見えない。なんか……申し訳ないが、ちんちくりんに見える。



「海斗くん、今失礼なこと考えなかった?」

「気のせいです」



 気のせいじゃないけど。ごめんなさい。

 と、純夏がぐぬぬって顔で俺たちを交互に睨みつけて来た。



「わ、私だってイチャイチャしたいのに……! でも遅刻しちゃうしぃ……!」

「い、イチャイチャなんてしてないよ。ほら二人とも、もう行くよ」

「は、はいぃ……!」

「あーい」



 二人を伴ってソーニャの家に向かう。

 当然二人はソーニャの家を知らない。だから家に向かうこの道も初めてみたいで、キョロキョロと周りを見渡していた。



「な、なんだかすごそうな家ばかり並んでるっすよ、カイ君……」

「ここ、高級住宅街じゃない? この辺だと有名だけど……あってるの? 迷ってない?」

「ああ、間違いないよ。ほら、見えて来た」



 突き当りに見える和風モダンの家。その前には、ソーニャが日傘を手にこっちへ手を振っていた。



「ヨッシー、キヨサカさん、アマナイさん。いらっしゃい」

「悪いなソーニャ。暑い中待たせた」

「ぜーんぜんっ。楽しみで勝手に出て来たのは私だしね」



 そう言ってくれると助かる。

 ソーニャが門を開けて中に入り、その後を俺たちが潜る。が。



「ん、あれ? 純夏、天内さん?」



 門の前でぽけーっとしている二人。

 どうしたんだろう。まさか熱中症?



「……いやぁ……これは、なんと言うか……」

「でっけ~……よそーがいすぎるよ、海斗くん」



 あ、そういうことか。確かに最初に見たら驚くよな、これは。



「ほら、二人とも。プールが待ってるんだから、早く行くよ」

「プール!」

「行く!」



 二人は目を輝かせて門を潜り、ソーニャへとついて行く。

 俺も三人について行くと、『男』と『女』と書かれたのれんが掛かった部屋に案内された。



「ほい、ここが更衣室ね。着替えて反対側の扉から外に出たら、目の前にもうプールがあるからね」

「わかった。そんじゃ、また後でな」



 三人と別れ、のれんを潜って部屋に入る。

 更衣室らしくかごが容易され、それ以外にも冷蔵庫には自由に飲んでいいらしいジュースや、食べ放題のアイス。他にもフルーツの盛り合わせも用意されていて、至れり尽くせりだ。

 そして反対側に扉があり、そこにも『プール』と書かれたのれんが掛けられている。



「まさかこれ、昨日の今日で用意したのか?」



 だとしたら、その行動力はどこから……だって昨日まで補習だったろ、あいつ。

 この行動力を少しでも勉強に活かしてほしいところ。

 持ってきた水着をかばんから取り出し、服から水着に着替える。

 一人しかいないけど、念のためにタオルを腰に巻いて。いつなんどき、油断はできん。



   ◆???◆



「「「チッ」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る