第70話 ギャルとテレテレ

 請け負ったのはいいんだけど、俺も和也さんのことを思うと他人事じゃない。

 よく考えると……いやよく考えなくても、今の俺は和也さんと同じ境遇だ。

 俺、このままじゃ和也さんたちと同じ運命を辿るんじゃ……。


 内心滝のような汗をかいていると、桔梗さんは清々しい笑顔を浮かべた。



「はぁ〜……なんだかスッキリしました。今までずっと、一人で溜め込んでいたので」

「そ、それはよかったですね」

「はい。ありがとうございます」



 やめて! そんな晴れやかな笑顔を向けないで!

 良心がずきずき抉られるぅ……!



「ああ、そうだ。メッセージアプリのIDを交換しましょう。何かあったら直ぐに連絡出来るように」

「……わかりました」



 スマホを操作し、桔梗さんとIDを交換する。


【☆KIKYOU☆】


 …………。



「きつ」

「は?」

「いえなんでも」



 思わず声に出てしまった。てへ。

 見た目は確かに若い。でもこれは流石に……いや、よそう。

 咳払いをしてスマホをしまう。さて、そろそろ帰るか。



「今日はありがとうございました。疑問が解決出来てよかったです」

「私も、久々に若い子とお話出来て楽しかったです。活力を貰えました」

「若い子って……桔梗さんもお若いじゃないですか」

「あら。褒めても何も出ませんよ」

「本音ですよ。桔梗さんはお綺麗です」



 よくよく話してみると、桔梗さんってめちゃめちゃいい人だ。

 純夏とは接し方がわからないだけ。ならお互いに素直になれば、いつかは仲良くなれる日が来るだろう。

 二人が笑い合う未来を想像しながら帰り支度をする。

 が、桔梗さんは俺を見つめて固まっていた。



「何か?」

「……なんか、和也さんみたいだなと思って」



 ドッッッキーーン!!



「ハハハ、ソンナワケナイジャナイデスカ」

「そうですかね。……ふふ、そうですね」



 ふぅ。あ、危なかった……今、俺と純夏の関係を詮索されるのはまずい。

 俺らの関係をスッキリさせるまで、絶対桔梗さんに知られちゃダメだ。



「そ、それじゃあ失礼します」

「はい。生活費は後で振り込んでおきますね」



 手を振る桔梗さんから、逃げるようにして家を後にする。

 バレなかったか? ……バレてないよな、多分。

 複雑な家庭なんだな、清坂家ってのは。

 ……とりあえず帰ろう。純夏も起きてるかもしれないし。

 少しだけ清坂家を振り返り、足早に純夏の待つ家に帰って行った。



   ◆



「ただいまー」

「カイ君!!」

「エルシャダイ!?」



 み、みぞおちに衝撃が……!

 痛みを堪えて衝撃の原因を見る。

 玄関前に押し倒される俺の上には、純夏が乗っていた。

 一人が不安だったのか、目には涙が溜まっている。



「カイ君っ、カイ君! いったいどこ行ってたんすか!」

「ご、ごめん。ちょっと買い物に」

「お、起きたら一人でっ、ざびじがっだっすぅ〜!」



 ちょ、ガチ泣きじゃないっすか。

 とりあえず純夏の頭を撫でる。よしよし、いい子いい子。

 ……まあ、あんなことがあったんだ。それに起きたら一人だったら、そりゃ怖くもなるか。

 でもとりあえず起きて欲しい。ここじゃ人目に──。



「あら? 海斗君、それに純夏ちゃん」

「あ」

「え? あっ、清楚ギャルさん」



 久々に見た気がする、白百合さん。

 今帰りなのか、肩にはトートバッグ。片手には酒とつまみの入ったビニール袋。

 そ、そういえば、月曜日は大学早く終わるんだっけ。


 白百合さんは俺らを見ると、にやにやと口元を緩めた。



「あらあら、昼間からお盛んね」

「ち、違っ……!」

「でもそういうのは家の中でした方がいいですよ。人前で興奮するなら、話は別ですが」

「だから違いますから!」



 純夏を抱っこして、部屋の中に緊急避難。

 はぁ、ギリギリセーフ……いや、ギリギリアウトか?



「す、すみませんです、カイ君。私のせいで……」

「いや、大丈夫だよ」



 まだみぞおちは痛いけど。

 リビングに移動してソファーに座ると、純夏は隣に座ってきた。



「どうしたの?」

「あ、その、えと……わ、私、カイ君に慰められて、嬉しくて……頭の中とか血が、ぐわーってなっちゃって……!」



 あ……あ、あー、告白のことか……!

 そうか、そうだよ。告白されてたんだよ。

 いや忘れてないよ? 忘れてないけど……。


 チラッと純夏を見る。

 純夏も俺をチラ見する。



「「…………(テレテレ)」」



 な、なんか凄い照れる。

 これ、これからどう接したらいいんだろう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る