第109話 先輩とちょっと昔話

 タッチパネルで2人分の料理を注文し、一息つく。

 因みに俺はチーズドリアとハンバーグ。花本さんはミートパスタとピザ、あとはワインを頼んだ。

 晩酌の時から思ってたけど、花本さんって見た目に反して結構食うんだよな。小さいから、そんなに食べなさそうなのに。



「おい吉永。今私に失礼なこと考えてなかったか?」

「キノセイデス」



 エスパーですかあなたは。

 俺の周りにいる女性、こんなのばっかだ。

 バレないようにため息をついていると、お客さんが入ってくる音が聞こえてくる。

 すると、出入口に背を向けている花本さんが僅かに帽子を下げた。

 まるでここにいるのを見られたくないみたいだ。



「あの、本当に大丈夫ですか?」

「な、何が? 私はいつも通りだぞ」



 いや全然いつも通りじゃないんですけど。

 誰かに怯えているのか、それとも俺と一緒にいるところを見られたくないのか……後者だったらどうしよう。ちょっと悲しい。泣いちゃう。

 よし、ここは俺のトークスキルでなんとか気を紛らわせないと。



「…………」

「…………」



 …………。

 ……………………あれ、おかしいな。まったく会話が思い浮かばない。

 いつも純夏と一緒にいるから、それなりのトークスキルは身についていると思ったんだけど。

 ……って、俺ほとんど純夏のマシンガントークに付き合ってるだけで、俺から話したことなんてほとんどないかも。

 別に花本さんとは、何かを話さなきゃ気まずさで気が狂うなんてことはない。

 いつもなら無言でもいいんだけどな……。



「本当、気にしないで」

「……え?」



 どんな切り口で会話を広げようか考えていると、花本さんが苦笑いを浮かべた。



「別にさ、ここが嫌ってわけじゃないんだ。むしろ思い出の場所でもあるから」

「思い出……」

「高校の時ね。白百合と、あと他の友達と一緒にここにたむろしてた。ずっとずっと、楽しかったよ」



 当時のことを思い出しているのか、花本さんは遠い目をした。

 友達との思い出、か……俺も悠大とはそういった場所がある。あの場所に行くと、昔のことをいろいろ思い出せる場所が。



「まあ、そのグループでちょっといざこざがあってさ」

「いざこざ?」

「俗に言う、痴情のもつれだよ。グループの女子が別の男子を好きで、そいつが実は私のことを好きっていうね」



 あ……三角関係みたいなものか。なるほど、それは本当に面倒くさい。想像しただけで修羅場すぎる。

 丁度その時、店員さんが料理を運んできてくれた。

 熱々なのか湯気が立ち上ってる。実にうまそうだ。

 花本さんはワインを飲み、そっと息を吐いた。



「結局、そのことが原因でグループは自然消滅。私の傍にいたのは、白百合だけになった」

「へぇ。そっすか」

「いやもっと興味持てよ。人がせっかく過去のことを告白したのに」



 えぇ……そんなことよりお腹空いたんだけど。



「花本さんは、そのことについて根掘り葉掘り聞いてほしいんですか?」

「い、いや、そういうわけでは……」

「ならいいじゃないですか。そんな過去があろうと、あなたはあなたなんですから」



 花本さんがその過去に縛られているなら、俺だってもう少しちゃんと聞くさ。

 でも今までの花本さんを見た感じ、そんなことは感じられなかった。

 俺がこれ以上花本さんの気持ちをかき乱すのは、お門違いってもんだろう。



「……やっぱ吉永って、いい男だな」

「また心にもないことを」

「いやいや、本当だって。高校生のクソガキで、そこまでまともに考えられるやついないぞ?」

「まあ、ある意味で人生経験は豊富ですから」



 親のこととか。一人暮らしのこととか。

 あんまり、あの人たちのことは思い出したくないけど。



「はは。……ありがとな。ちょっと元気出た」

「ならデザート頼んでいいですか?」

「いいよいいよ。じゃんじゃん頼みなー」

「さっすが。ありがとうございます」



 さて、何を頼もうかな。

 メニュー表を見てどうするか悩んでいると、また客が店内に入って来た。



「すっずしー!」

「生き返るー!」

「深冬、純夏。他のお客さんもいるんだから、ちょっと静かに」

「「あーい」」



 ……今なんか、聞きなじみのある名前が。

 ちょっとだけ出入口に目を向ける。



「あ」

「あ」

「あ」



 純夏と天内さんと目が合い、俺らの声が被った。



「えーっ、うそ、カイ君!」

「海斗くん、マジきぐーじゃん!」

「そ、そうだね」



 ジェスチャーで口に指をあてると、2人とも口を塞いで無言でうなずいた。聞き分けがよくて助かる。



「2人はどうしてここに?」

「バイト先の先輩に連れてきてもらったっす」

「安うまだからね、このファミレス」

「へぇ、バイト……バイト?」



 え、2人ともバイトしてたの? しかもこの口ぶりからして、2人とも同じバイト先で働いてるっぽいし。

 と、もう1人の女性に目を向けた。

 目を見張るほどの美人と言うべきか。今まで出会ってきた美女たちとは一線を画しているような、一般人とは思えない雰囲気だ。


 そんな女性が、目を見開いて花本さんを見ていた。



「うそ……カレン……?」

「……智香……?」



 あれ……お知り合い?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る