第73話 疑惑と真相

 制服に着替え、俺、純夏、天内さんは学校に向かった。

 悠大とソーニャは途中まで一緒だったが、学校が近くなると駅の方に歩いていった。

 無言で歩く俺たち。

 天内さんは事情を知ってるから不機嫌だが、純夏は場の空気の悪さにソワソワしている。



「か、カイ君。どうしちゃったんすか……?」

「ん? うん……ここまで来たら、教えてもいいか」



 下駄箱で靴を履き替え、職員室に向かいながら二人の方を見る。

 純夏はきょとんとし、天内さんはバツが悪そうに目を逸らした。



「……実は、テストの点数で呼び出しがあったらしい」

「テストの点数、っすか? も、もしかして悪すぎて呼び出しが!?」

「いや、逆」

「逆?」



 と、そこで職員室に着いてしまった。



「まあ、後は先生から。さ、二人とも」

「……はーい」

「あ、はい……?」



 二人が職員室に入り、俺も後からついて行く。

 と、険しい顔をした女性の先生が二人を呼んだ。



「清坂、天内。こっちだ……って、吉永?」

「どうも、ご無沙汰してます」



 この人は巻屋先生。俺の一年の時の担任だ。

 成績の善し悪しに関わらずちょっと厳しめの先生だが、授業の進め方や教え方は、頭一つ抜きん出てうまい。

 俺も一年の頃はよく助けられた。



「どうして吉永が?」

「まあ、ちょっと成り行きで。テストのことで、二人に話があるんですよね?」

「まあ、そうだが……とりあえず場所を移そう」



 巻屋先生の後に続き、空き教室に向かう。

 ソワソワしてる二人と巻屋先生が対面に座り、俺はその間に座った。



「清坂、天内。来てもらったのは他でもない。定期テストの点数についてだ。答案用紙は明日以降渡すが、学年順位は今伝えておく」



 二人の前に小さい用紙が差し出される。

 そこに書いてある順位が。


 清坂純夏:32位

 天内深冬:29位



「「ぶっ!?!?」」



 うわっ。二人ともよそ様には見せられない顔になってるよ。

 それにしても、こんなに順位が高くなったのか。ちょっとしたコツを教えただけなのに、これは凄いな。

 用紙を見て固まってる二人を前に、巻屋先生は話を続ける。



「最近二人は学校もサボらず、授業も真面目に聞いているのは知っている。が、教師の中にも懐疑的な者もいてな。短期間であまりにも上がりすぎじゃないかという意見が出ている」

「そ、それって、カンニングを疑われてる……的な?」

「端的に言えばそうなる」

「そんな!」

「純夏」



 純夏が激昂して立ち上がると、天内さんが肩に手を添えて宥めた。

 やっぱり天内さんは、お母さんの方から聞いていたみたいだ。まあ、納得はしてないみたいだけど。


 巻屋先生は腕を組み、そっと嘆息する。



「入学してから学校もちょくちょくサボり、授業も聞かず、前回のテストは下から10位以内。そんな問題児二人がいきなり高得点を出したんだ。疑われるのも無理はない」

「し、してないし! カンニングなんてそんな……!」

「私もしてない。海斗君、信じて」



 二人は縋るような目を俺に向けてきた。

 わかってるよ、そんなこと。



「二人が頑張ってきたことは、俺がよく知ってるから。大丈夫」

「カイ君……!」

「海斗君……」



 二人は目を輝かせて満面の笑みを浮かべる。

 さて、ここからは俺が二人に助け舟を出してあげよう。



「巻屋先生。実は約一ヶ月、俺が二人に勉強を教えてたんです」

「……吉永が?」

「はい。勉強のコツを含め、みっちりと」



 巻屋先生は俺と二人を交互に見て、そっと目を閉じた。

 俺の成績の良さは巻屋先生も知っている。

 それにソーニャに勉強を教えてるのも知っているから、嘘とは言われないだろう。


 待つこと数分。

 巻屋先生はそっとため息をつき、目を開いた。



「別に私は、君らを信用してないわけじゃない。手のかかる子たちだが、私としてはそっちの方が可愛いからな」

「じゃあ何故?」

「体裁ってやつだ。言ったろう。教師の中には二人のことを怪しんでいる者もいると。呼び出しと、学校に来たという事実さえ見せれば、あとは私の方でどうにかしようと考えていた。まさか吉永が関わっているとは思わなかったがな」



 なるほど、そういうことか。

 さっぱりとした性格の巻屋先生だが、生徒思いのいい人だ。その事もあり、生徒からも信頼を得ている。

 事実を知った巻屋先生は、険しい表情を崩して微笑んだ。



「吉永が教えていたと言えば、他の教師も納得するだろう。すまないな、三人とも。手間をかけた」

「俺は大丈夫ですよ」

「私はちょーっと納得いかないですけど、カイ君が許すなら許します」

「私もー」



 こら、調子に乗らないの。



「って、そういやこうやって呼ばれたの初めてですけど、ソーニャってどうなんです?」

「あ……あー、あいつはなぁ……」



 え、何その微妙そうな顔。

 巻屋先生は頬を掻いて目を逸らすと、残酷な現実を突きつけた。



「……現国が、な?」

「「「…………」」」



 あー……うん。これは本人には言わない方がいい……かも。

 どんまい、ソーニャ……。

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