第72話 不吉な電話

 翌日。今日で連休最終日だ。

 でも明日からの三日間と来週学校に行けば、夏休みに入る。待ちに待った長期休暇だ。

 普通なら長期休暇に思いを馳せ、今か今かと待ちわびる日々。

 なのだが……。



「ねえ、三人とも」

「海斗君黙ってて。今お祈りしてるんだから……!」

「神様仏様カイ君様……!」

「ヨッシー、私らを守って……!」



 純夏、天内さん、ソーニャが俺の前に正座をし、ずっと手を合わせている。

 いや、先生たちのことだから、もう点数は出てるでしょ。今神頼みしても……というか俺に向かって祈るのやめろ。

 こんな時だけ三人とも仲がいいんだから……。


 そっとため息をつくと、それを見ていた悠大が面白そうに笑った。



「ふふ。三人からしたら、シュレディンガーの猫ってところだね」

「教師という第三者が介入してる時点で、矛盾は発生しないと思うが」

「いやいや、結果は本人が見るまでどっちに転ぶかわからないよ」

「まあ確かに、解答欄が一つズレてるとか考えられるけど……」



 流石にそこまでポカをすることはないと思う。

 ……え、大丈夫かな。心配になってきた。



「ちょっ、ヨッシー不吉なこと言わないで!」

「解答欄の一個ズレ……え、私大丈夫かな? 大丈夫だよね!?」

「み、深冬落ち着いて。って、私も心配になってきたんですけど!」



 あ、やべ。かえってみんなを不安にさせちゃった。

 でもそんなに不安にならなくても大丈夫だと思うけどなぁ。


 苦笑いでみんなが手を合わせて祈っているのを見ていると、俺のスマホに着信が来た。

 メールやメッセージではなく、電話だ。

 俺のスマホに電話を掛けてくる人なんて、バイトくらいだけど……え?



「ん? 新しい女の人?」

「ばか、覗くな」



 無理に覗いて来た悠大を押しのけ、ソファーから立ち上がる。



「カイ君、どうしたんすか?」

「あー、うん。ちょっとね。ごめん、電話してくるから、ゆっくりしてて」



 リビングから寝室に移動し、電話に出た。



「も、もしもし」

『あ、吉永さん。突然すみません、桔梗です』



 そう、桔梗さんだ。

 このタイミングで桔梗さんから電話って、一体何が……?



「俺は大丈夫ですけど、何かあったんですか?」

『それなんですけどね、私の方に学校から連絡が来まして』

「学校から連絡……?」

『純夏のことで話があると』



 純夏のことで話!? しかも学校から!?

 別に授業をサボったとかって話は聞かない。

 むしろ最近は真面目に授業に出て、勉強にも前向きに取り組んでいる。

 それなのに、保護者に連絡が行くって相当だろう。一体何があったんだ。



「な、な、なんで、ですか……?」

『それが、ちょっと事情が事情でして……』

「はぁ……?」



 黙って桔梗さんの話を聞く。

 桔梗さんも言葉を選んで、先生から言われたことを淡々と伝えてくる。



「そ、そんな!」

『私もそう思いました。ですので、信用できる吉永さんにお聞きしたいと思いまして』

「当たり前です、純夏さんがそんなことをするなんてありえません」

『……そうですよね。安心しました』



 電話の向こうで、桔梗さんが安堵の息を吐く。

 そうだ、何かの間違いだ、そんなの。



『それでですが、実は今から純夏を学校に来させるようにと言われまして』

「……事情はわかりました。純夏さんにも話しておきます」

『お願いします』



 それでは、と言って、桔梗さんが電話を切った。

 まさかそんなことになってるなんてな……。

 寝室からリビングに戻ると、何やら天内さんも慌てた様子で電話をしていた。



「ちょ、お母さんそれどういうこと!?」



 まさか、天内さんの家にも学校から連絡が……?

 あり得る。そして恐らく、天内さんも学校に呼ばれてるだろう。



「カイ君。なんか慌ただしいですけど、どうかしたんですか?」

「あー……うん。天内さんの電話が終わったら言うよ」

「は、はい」



 天内さんの電話が終わるまで待っていると、しばらくしてため息とともに電話を切った。



「あーもう、最悪……」

「天内さん、もしかしてお母さんから、学校に行くように連絡があった?」

「え? あ、うん。そうだけど……」

「実は俺の方にも連絡があってね。純夏も学校に呼ばれてるらしい」



 俺の言葉にみんなの目が純夏に向けられるが、純夏もきょとんとしている。



「……えっ、私もっすか!?」

「うん。しかも今から」

「今から!?」



 俺もどうかと思うが、先生からそう言われたら流石に無視することも出来ない。



「ぷぷぷー。こーはいたち、何やらかしたのー?」

「な、なんもしてないし……!」

「そーっす! 私ら、呼び出されるようなことしてません!」

「ま、まあまあ、二人とも落ち着いて。ソーニャも煽らないの」



 ソーニャの煽りに、悠大は苦笑いでたしなめた。

 まあ不安になる気持ちはわかる。理由も聞いたが、とても看過できるものじゃない。



「とりあえず純夏、天内さん。学校に行こう」

「えー……はーい」

「せっかくの休みなのにぃ」



 二人は面倒くさそうに立ち上がり、俺も続いて立ち上がった。



「海斗、どうしたの?」

「俺もついてく」

「え?」

「ちょっとことがことでな。悠大、ソーニャ、悪いけど今日は解散ってことで」

「……わかった」

「う、うん……」



 ただならぬ空気を感じたのか、二人とも素直に頷いてくれた。

 さて、どうなることやら……。

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