第115話 思い出の場所で
飲み始めてから数時間が経ち、2人は完全にできあがっていた。
酒瓶や酒缶を片っ端から空けている2人を見て、深々〜〜〜とため息をつく。
花本さんは予定通りとはいえ、白百合さんには飲ませるべきじゃなかった……いやまあ、飲ませなくても結局飲んでたんだろうけど。
部屋の時計は、すでに18時半を指していた。
どんだけぶっ通しで飲んでるんだ、この人ら……。
でも、時間的にはそろそろだな。
「2人とも、そろそろ夏祭り行きますよ」
「んぉ〜? もーそんな時間か」
「よーし、行くどー!」
相当酔ってるのか、2人はふらふらとした足取りで部屋を出る。
あぁもう、そっち行くな。白百合さんはビール瓶置いていきなさい。
頑張って2人のことをコントロールし、夏祭りが行われる神社まで誘導する。
……途中、何度か2人ともリバースしたのは見なかったことにしよう。2人の名誉のためにも。
そうして歩くこと30分。ようやく目的の神社にたどり着いた。
本来なら10分で着くのに、だいぶ掛かった。
花火は19時半からだから、まだ余裕はあるけど。
「あ! おーい、カイくーん!」
と、その時。神社の前にいた3人の美女が、こっちへ向かって歩いてきた。
言わずもがな。浴衣姿の純夏、天内さん、ソーニャの3人である。
ソーニャは、薄紫色の蓮の花が散りばめられた、レトロモダンな浴衣。
天内さんは、花と金魚が美しい、空色を基調とした浴衣。
最後に純夏は、純白を基調とし、鮮やかな青いアサガオが咲き誇った浴衣だ。
「みんな、よく似合ってるよ」
「えへへ〜。そんな、照れるっすよ」
「ま、ウチらに掛かればざっとこんなもんだよね」
いえーい、とハイタッチをする2人。テンション高いなー。
2人を見てると、ソーニャが俺に近付いて耳元で囁いてきた。
「2人から聞ーたよ。また何か企んでるんだってね」
「人聞きの悪いこと言うな。流れでそうなっただけだから」
「ヨッシーていつも流されてるよね」
事実なだけに、否定できない。
「それより、青座さんは?」
「あのモデルの人? それなら、お腹空いたって先にお祭りに向かったよ」
「げっ、マジか。この人混みで見つけられるかな……?」
「よゆーでしょ。美人だから、見つけやすいって」
……それもそうか。
みんなを連れて、境内に入っていく。
境内には屋台が乱立していて、あちこちから美味そうな匂いを漂わせていた。
相変わらずの賑わいだ。お祭りって、見てるだけでわくわくする。
「ふおおぉ〜……! すっげぇ〜……!」
「ウチ、こんなでかいお祭り初めて来たかも……!」
純夏と天内さんは、かなりテンションが上がっている。
ソーニャも目を輝かせて、あちこち見渡していた。
……って、あれ? 白百合さんと花本さんは……あ。
「おっちゃん、ビール!」
「私もー!」
「まだ飲むのか、あの人ら」
いい加減、アル中でぶっ倒れるぞ。
たこ焼きをツマミに、美味そうにビールを飲む2人。
純夏たちも、好きにあれこれと大量に買い込んでいる。
タガが外れるのはわかるけど、あまり買っても食べきれないでしょ……。
花本さんたちから目を離さず、純夏に近づいて話しかけた。
「純夏。青座さんがどこにいるかわかる?」
「んー。多分人目に付きにくい場所じゃないっすかね。あの人、モデルなのに目立つのが嫌いっぽいんで」
人目の付きにくい場所……となると、この辺ではあそこかな。
屋台が並んでいる参道と神社の間には、少しだけ空きがある。
基本的にそこには何もないから、一般客は近寄らない。いてもイチャついてるカップルくらいだ。
確かにあそこなら、青座さんくらい美人でもゆったりできるだろう。
白百合さんに目配せすると、グッとサムズアップしてきた。どうやら覚えてくれてたらしい。
「カレン、ちょっといいですかー?」
「おー? なんだよ、しらゆり?」
「ちょっと時間ください。大した時間は取らせないので」
「んー?」
白百合さんが、花本さんを連れて境内の奥へ行く。
俺たちはそれを、一定の距離を保ってついて行った。
天内さんは俺の腕に抱きつき、心配そうな顔をしている。
「うまく行くかな……?」
「それは、花本さんと青座さんによるかな」
少なくとも、花本さんは仲直りしたいと思ってるし。
あとは青座さんがどう転ぶか……。
人混みの中を歩くことしばし。
ここまで来ると祭囃子も喧騒も落ち着き、少しだけ静かになった。
そして──そこに、青座さんがいた。
ビールをすでに3本も空けていて、ほんのり顔を赤くしている。
「ぇ……智香?」
「智香、お久しぶりでーす」
「っ……か、カレン……? それに、白百合も……どうして、ここに……?」
ここで再会するとは思わなかったのか、花本さんと青座さんの目が見開かれる。
お膳立ては済んだ。
さあ、花本さんは素直になれるか……?
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