第94話 美少女3人と添い寝

「無理だろ」

「無理じゃないでしょ」



 いやいや、何言ってらっしゃるのソーニャさん?

 さすがに4人で寝るのはまずい。

 純夏1人でもまずいのに、4人で寝たら本当にまずいことになる。



「まあまあ、カイ君。諦めて一緒に寝ましょ?」

「わがままはダメだよ、海斗君」

「え。これ俺がおかしいの? 俺がマイノリティなの?」



 男女が入り交じって雑魚寝って、身の危険を感じるものでしょ。というか感じて、お願い。

 いくら俺がチキンで何も出来ない男だとしても、何かの拍子がある。

 あるのだが……。

 3人をぐるっと一瞥する。

 俺が一緒に寝ると信じて疑わない目で、俺を見つめていた。



「ぅ……と、とにかくダメ。俺はソファーで寝る」



 純夏との添い寝は仕方ないにしても、天内さんとソーニャをそれに巻き込む訳にはいかない。

 それに、俺はさっき少し寝たから、今は眠くない。

 だからちょっとくらい寝付けなくても問題ないんだ。

 そんなことを考えていると、純夏が「あ」と声を上げた。



「それなら、私がカイ君とソファーで一緒に寝るっす!」

「ならウチもー」

「私もソファーで寝よーかな」

「なんでそうなるの?」



 みんなのことを考えて、俺が1人で寝るって言ってるのに。



「じゃあ床で……」

「じゃあ」

「ウチら」

「も床で」

「君たち仲良くなりすぎ」



 いつ打ち合わせしたの。息ぴったりすぎでしょ。



「ヨッシーが寝るところで私たちも寝るよ」

「つまり、ウチらの睡眠不足と肌荒れは海斗君に掛かってるってこと」

「カイ君、観念した方がいいっすよ!」



 自分を人質に交渉するのはやめなさい。

 けど、このままじゃ暖簾に腕押しというか、堂々巡りというか……とにかく埒が明かない。



「ぐぬっ、ぬ……はぁ。わかったよ……」

「「「やったー!」」」



 くそ、喜び方かわいい。怒るに怒れん。



「じゃあ、俺は端っこで……」

「何言ってるんすか。カイ君は真ん中! そんで私が右ー!」

「じゃー、私が左かな」

「ウチはハフレとして真上で」



 どんな寝方!?



「待って待って待って! それだけは本当にダメ! マジで! ダメ!」

「そんな! カイ君、今更そんなの──」

「シャーッ!!」

「ひぅっ……!」



 自分でもびっくりするくらいの威嚇声を出してしまった。

 3人とも涙目で怯えてるし。

 でもわかってくれ。これだけは譲れない。

 問い。美少女で挟まれて、更に上に乗られたらどうなると思う?

 答え。取り返しのつかないことになる。

 だからダメ。無理です。



「なので俺は端で、隣が純夏は決定です」

「えー!」

「ヨッシーそりゃないよ!」

「だって俺、純夏いないと寝れないし」



 もう諦めたから開き直るけど。

 でも改めて口にすると、恥ずかしいな。



「でへへぇ〜。カイ君、私がいないと生きていけないんだ〜」

「そこまで言ってない」

「似たようなもんっすよ」



 ……そうかも? 寝れないと睡眠不足で死ぬし。



「ぐぬぬっ、ヨッシーめぇ〜……!」

「……パイセン。ツキクラパイセン。ちょっとこっち来て」

「え、なにアマナイさん?」



 天内さんに呼ばれ、ソーニャと2人で部屋の隅に向かう。

 なんだろう。聞かれたらまずい話かな。



「ごにょごにょごにょ……」

「! そ、それはいーのかな……?」

「大丈夫大丈夫っ。ウチに任せて……!」

「わ、わかったよ」



 あ、終わったっぽい。

 振り向いた2人は、怪しい満面の笑みを浮かべている。

 何か企んでるな、この2人……。



「しょーがないからそれでいーよ。キヨサカさんの隣はアマナイさんで、その隣が私ね」

「純夏、一緒に寝ようねっ」

「う、うん……?」



 あの純夏もたじたじである。

 不安だ。ちょっとだけ。

 緊張しつつ、ソーニャのベッドに近付く。

 いや、でけーな。気にしてなかったけど、4人が横に並んでも全然余裕だ。



「いえーい! でっけー!」

「ダーイブ!」

「ちょ、2人とも……!」



 いくらなんでもベッドに飛び込むな。



「気にしないでいーよ。楽しーなら何より!」

「いや、甘えさせたらダメ。悪い時は悪いって言うの」

「え、お父さん?」



 誰がお父さんだ。



「カイ君、すげーっすよこのベッド! マジふかっす!」

「沈む! 沈むよ! あはは!」

「あー、はいはい。……おぉっ?」



 確かにめちゃめちゃ沈む。これが金持ちのベッドか。すげぇ……。

 と……そこで気付いた。

 このベッドから、ソーニャの濃い匂いが漂ってくる、と。

 …………。



「やっぱり俺ソファーで……」

「「「は?」」」

「な、なんでもないですぅ〜……」



 圧には勝てなかったよ。

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