第30話 ギャルとギャル友と家

「おおっ、ここが純夏とパイセンの愛の巣! なんかエロい匂いがする」

「そ、そんなことしてないしっ!」

「ほんとかー?」

「ほんとーだし!」



 清坂さんと天内さんが、目の前でイチャイチャしている。

 なんだこれ、どんな状況だ?

 なんで俺の家に、トップカーストの中でも超勝ち組の二人がいるんだ?


 しかも一人はソフレで、一人はハフレ?

 なんの冗談だろう、これは。


 余りの状況に困惑していると──ムギュッ。天内さんが抱きついてきた……!?



「パイセン、何ボーッとしてんの?」

「な、なんでもないっ、けど……! 天内さん、そんな唐突に抱き着かないで……!」

「抱き着いてないし。ハグだし」



 同じじゃねーか。

 清坂さんに助けを求め、視線を向ける。

 と、清坂さんはそれに気付き、サムズアップした。



「深冬、深冬。あんまし飛ばしすぎると、センパイが狼になっちゃうよ。ちょっとずつちょっとずつ」

「むー……それは確かに困る」



 清坂さんの言葉に納得したのか、ようやく離れてくれた。

 し、心臓に悪すぎる。あと色々爆発しそう。


 とりあえず二人をソファーに座らせ、マグカップに甘々ミルクコーヒーを入れて差し出した。



「それにしても、パイセンいい部屋に一人暮らししてるね。ねね、私もこれからここに入り浸っていい?」

「入り浸るって……」

「純夏も同じじゃん? それに私は夜になったら帰るし。ガッコー終わったあと、外で遊ぶと金かかるからねー」



 まあ、毎日五百円使ったとしても、一ヶ月で一万五千円。高校生には高すぎる値段だ。



「センパイ、私からもお願いするっす。絶対迷惑かけないようにするんで……!」

「お願いパイセン!」

「ぐ……むぅ……」



 た、確かに、清坂さんを家に泊めている以上、一人でも二人でも変わらない……か?

 それに、二人は凄く可愛い。ここで突っぱねて夜遅くまで外で遊んで、もし変な輩に絡まれたりしたら……。


 いやまあ、変な輩と言ったら、俺もある意味では変なやからなんだけどね。

 問題は俺の理性が試されるだけなんだが……。



「わ……わかった。いいよ」

「「いえーい!」」



 二人が嬉しそうにハイタッチした。

 はぁ……外に放り出して、危険な目に合われるよりマシか。



「じゃ、パイセン。早速シャツ借りるねー」

「は?」

「いやー、やっぱ部屋着はダボシャツに限るっしょ。今は持ってきてないし、パイセンのでいいやと思って」



 良くない良くない良くない!

 え、清坂さんといい天内さんといい、ギャルってパーソナルスペース皆無か!?



「はい深冬。これセンパイのシャツ」

「ありがとー」

「清坂さん、何さりげなくシャツ渡してんの?」



 って、俺の話聞いてます?


 二人は俺を無視し、寝室に入ってゴソゴソ着替え始めた。

 が、直ぐに扉が開く。

 そこには、さっきまで着ていた服を脱ぎ散らかした二人が。

 男物のシャツのせいでワンピースのようになってるけど、二人の胸がデカくて超ミニのワンピースみたいになっている。


 こ、こいつら、俺を男として認識してないのか……!? 流石の俺もキレそうだぞ……!



「せっ、せめて下にハーフパンツを履けぇ!!」



   ◆



 つ……疲れた。精神的にも肉体的にも疲れた……。

 ベッドに横になる俺。

 清坂さんと天内さんは、ダボダボのシャツにダボダボのハーフパンツを着て、俺の蔵書を読み漁っている。


 夢中になりすぎて完全に無防備。胸元もハーフパンツの奥も。

 そんな二人に背を向け、色んなものがバレないように丸くなった。



「パイセン、どしたん?」

「お、お構いなく」

「そ? んー。にしても腹減ったにゃあ……なんか作ろうかな。キッチン借りるよー」

「え? 天内さん、料理できるの?」

「お母さんが夜遅くなる時あるから、少しはね」



 …………。



「清坂さん」

「うっ。頑張りましゅ……」



 まあ、得意不得意は人それぞれだから。


 天内さんがキッチンに向かうと、軽快な音がこっちまで聞こえてきた。

 音だけでわかる。相当慣れてるな、天内さん。


 ん……ぁれ……なんだろう。一気に眠く……。

 トントントン。包丁がまな板を叩く音……懐かしい……。


 …………。


 懐かしい、、、、……?

 なんで俺、懐かしいって思ったんだ?

 この音、自分以外で聞いたことがない。

 実家で? でも覚えてる限り誰、も家では料理をしなかった……はず……あぁ、なんだが眠気が……。


 寄せては返す、揺りかごのような眠気。


 その微睡みに逆らうことなく、ゆっくりと意識を手放した。

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