第29話 ギャル友と〇フレ

「「…………」」



 一難去ってまた一難というか。

 俺と清坂さんの間に、微妙な空気が流れている。


 清坂さんのご両親は、たまには連絡しろと言っていた。

 帰ってこいではなく、連絡しろ。

 それは、別に帰ってこなくてもいいと言っているようなものだ。


 一体清坂さんの家は、どんな家なんだ……?



「えーっと……き、清坂さん。無理に言わなくてもいいからね。俺は大丈夫だから……」

「はい……ごめんなさい。もう少し待って欲しいっす」



 俺の服の裾を握り、俯く清坂さん。

 安心させるよう、そんな清坂さんの手をそっと握る。



「二人とも。ちょっといい?」

「「っ!?」」



 あ、天内さん……! そうだ、天内さんは残ってたんだった。



「えっと……とりあえず、二人ともありがとう。二人のおかげで、拗れる前に謝れた」

「い、いやいや、気にすんなし。親友のピンチに駆け付けないやつはいないよっ」

「俺は成り行きだから、うん。そ、それよりご飯食べない? ファミレスとかさ。俺、奢るよ」

「い、いいっすね! ゴチんなりまーす!」



 俺らの関係に疑問を持たれる前に、なんとか話を誤魔化そうとする。


 が。



「ところで、なんで二人一緒にいたの? なんで純夏、男物のシャツ着てんの? なんで二人とも仲いいの? 純夏が家出してるのは知ってたけど、パイセンとの関係はなんなの?」



 はい、がっつり詮索されましたね。まあ誤魔化せるとは思ってないけど。

 清坂さんを見ると、汗をダラダラ流して目を泳がせていた。



「そそそそそそれはぁ〜……」

「純夏……パイセンと付き合ってんの?」

「ち、違うっ! つつつつ付き合うとかないから!」



 バッサリ!

 まあ恋愛感情とか持ってたら、ソフレなんて出来ないけど……それでもこうまでバッサリ言われると、かなり深いダメージを負う。



「じゃあなんで?」

「あー……うー……それはですね……」

「清坂さん、もう誤魔化すの無理じゃないかな」



 ここまで疑問を持たれたら、俺らの関係がバレるのも時間の問題だ。

 なら説明した方が、後々いざこざしなくて済むだろう。



「せ、センパイ……はぁ、そうっすね。深冬に秘密にするの、心が痛んでたんで……深冬、説明するよ」

「うん」



 清坂さんと天内さんがベンチに座り、飲みかけのココアを片手に説明した。


 家出してること。

 訳あって、俺の家に居候してること。

 そしてソフレであること。


 その一つ一つを、天内さんは黙って聞いていた。



「……これが今の私の現状。黙っててごめん」

「なるほど、添い寝フレンド……ソフレねぇ」



 天内さんは腕を組んで何かを思案している。

 すると、突然ジャンプするようにベンチから立ち上がり──






「何それめっっっっっっちゃ羨ましい!!!!」






 ──そんなことを言い出した。

 天内さんはずいっと俺に近付くと、俺の手を握った。



「男女のエッチな肉体関係もなく、ただ傍にいるだけで安心する関係! 不純のようで純粋で、純粋だからこそ不純! とってもエモい!」

「そ、そう……?」

「そうだよ! すごくすごく! 羨ましい!!」



 そんなに羨ましがるような関係か……?



「でも純夏が安心するのもわかるなぁ。パイセンと肌が触れ合ってるというか、手を繋いでるとスーパー安心するもん」

「でしょ!? 流石深冬、わかってんじゃん!」

「わかるわかる! わかりまくり!」



 清坂さんと天内さんが、キャッキャ言いながら俺の手を握ってきた。


 何これ何これ何これ何これ何これ?

 一体どういう状況だ? なんで鎧ヶ丘高校一年の二大美女にサンドイッチにされてるんだ、俺?


 どゆこと。これ、どゆこと?



「あっ、なら深冬もセンパイのソフレなる? 三人で一緒に寝よ!」

「はぁ!?」



 何言ってんの!? 何言ってんの!?

 そんなの許されるはずないじゃん!?



「んー。それもいいけど、流石に男の家に寝泊まりはお母さん許さないんだよねぇ〜」



 あ、よかった。そうだよね。あのお母さんがいるのに、そんなこと出来るはずないよね。ちょっと一安心。



「でも、別の関係ならいいかもっ」

「え?」



 別の、関係……?



「パイセン、ハンズアップ!」

「えっ。こ、こう?」



 唐突に言われてしまい、思わず言われた通りに手を上げてしまった。



「えい」



 ムギュッ。なっ、抱きつ……!?



「ふおぁ……おちちゅく……」

「あああああ天内さんっ!? 一体何を!?」

「ほらほら、パイセンもギューッ、だよ」

「出来るか!?」



 状況についていけないんだけど!



「な、なるほど……そういうことね、深冬。流石私の親友」

「でしょ?」

「何が!?」



 清坂さんも分かってるみたいだし、状況についていけてないの俺だけ!?



「センパイ、センパイ。これはハフレっす」

「……ハフレ?」

「ハグフレンド。お互いにハグするだけの関係で、狙いはソフレと同じ人肌を求めるものっす」



 そんなものまであんの!? 〇フレ多すぎじゃない!?



「その通り! パイセンは今日から、私のハフレ。いいね?」

「良くないけど」

「ありゃ、恥ずかしい? ならパイセンの家で練習しよっか。ほら、ゴーゴー!」

「センパイ、行くっすよ!」

「え、俺の家!? てかこの関係は決まってんの!?」



 俺の抗議は虚しく公園に響き。

 清坂さんと天内さんに手を引かれ、家に着いてしまった。

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