第42話 腐れ縁と勉強

   ◆純夏side◆



「で? パイセンがツキクラ先輩って人と勉強会するんだって?」

「そうなんだよぉ!」



 結局一時間目を丸々サボった深冬に、私はさっきのことを相談していた。


 ツキクラソフィア。漢字はわからない。

 入学してから、一年生の間でも話題になるくらいの超美人。いや、超が十個ぐらいつくほどのスーパー美人さんだ。


 お母さんがロシア人、お父さんか日本人のハーフらしい。

 プラチナホワイトの髪と青い瞳。

 長身で長い手足。

 でもおっぱいは私の勝ち!(ここ重要)


 ちょっと見ただけだけど、あの人絶対センパイのこと好きだ。センパイのことを好きな私が言うんだから間違いない。

 センパイを見るあの目、間違いなく恋してる。


 深冬は幼馴染みで親友だ。

 だから一緒の人を好きになっても、むしろ一緒にいれて嬉しい。


 でもツキクラ先輩は……ちょっと違う。

 わがままなことを言ってるようだけど、なんか納得が行かないんだ。

 ……私って、嫌な女の子なのかな……?



「ふーん。なら突撃しちゃえば?」

「やだ。センパイに嫌われたくない」

「即答かよ」



 当たり前じゃん、何言ってるの?


 センパイは優しい。でも邪魔しちゃったら、私のこと嫌いになっちゃうかもしれない。

 センパイに嫌われたら、私は生きていけない。


 でも……あうあうあうっ、複雑なんだよーっ!



「よしよし。いー子いー子」



 深冬が私の頭を撫でてくる。

 すごく安心する。深冬って、本当にママの才能あるかも。とてもオギャりたい。



「まあ、ツキクラ先輩と勉強会してもさ、結局は最後は純夏の勝ちじゃん? なら心配する必要なくない?」

「はっ、確かに! 深冬天才じゃん!」

「ははは、もっと褒めたまえ」



 そうだ。どれだけ一緒にいても、ツキクラ先輩は放課後の数時間だけ。

 家に帰ったら私がいっぱいお世話して、いっぱい添い寝してあげられる。


 ふふふ。ツキクラソフィア、敗れたり!






「ところで深冬。手洗った?」

「洗ったわ」



   ◆



「それじゃあ定期試験前、恒例の勉強会を始めるぞ」

「おなしゃす!」



 放課後、教室に残った俺とソーニャ。

 クラスメイトは早々に帰り、今は二人きりだ。

 最初の頃はソーニャと二人きりの環境にどぎまぎした。

 何せ中学の頃から絶世の美女ともてはやされるくらい、整った容姿をしていた。


 が、今はそんなことはない。


 というか、どぎまぎする余裕がないくらいソーニャはアホだ。

 一度基礎を覚えれば問題ないが、それまでがめちゃめちゃ大変なのだ。


 とにかく完全下校までの十八時半まで、みっちり教え込む。

 そう息巻いてると、ソーニャが楽しそうに声を押し殺して笑った。



「どうした?」

「ん? いやー、今だけはヨッシーは、私だけを見ているなと思って」

「まあ、今はソーニャ以外いないからな」

「そゆことじゃないんたけどー……まあいーや」



 何が言いたいんだ、こいつは。



「じゃあ、今日の数学と化学の小テストの結果見せて」

「あれはお空の彼方へ消えていったのだよ」

「捨ててんじゃねぇ。あの範囲から試験に出るって先生も言ってたろ」

「あいたっ!」



 ソーニャの脳天にチョップをかますと、「虐待だ! でーぶいだ!」と騒ぎ出した。クソ喧しい。



「はぁ。じゃあ俺の小テスト見せるから、そこから復習するか。どうせ問一しかわかんなかったんだろ?」

「何故わかったし」

「わかるよ。何年一緒にいると思ってるの」



 頼むから成長してくれ。はぁ。



「……ん? 顔赤いぞ。大丈夫か?」

「え!? そ、そう……? あははっ、きょーはあちちだからねっ」

「確かに、もう夏だもんなぁ」



 夏休みか……何して過ごそう。金には困ってないから、バイトを増やすつもりはない。

 となると、いつも通り勉強漬けの毎日かな。

 ……あ、いや。清坂さんもいるし、多分天内さんも入り浸るか。


 ……騒がしくも、楽しいし夏休みになりそうだ。



「ねね、夏休み遊ばない?」

「あー……どうせ暇だしな。いいよ」

「やり!」

「その前に夏の補習にならないように勉強しろ」

「……補習?」

「赤点一科目につき三日」

「ひぇっ」



 さすがのソーニャも絶望を感じたのか、顔面蒼白になった。

 さっきまで赤かったのに、忙しいやつだ。



「夏に遊びたかったら、頑張って勉強するんだな」

「お、おすっ……!」



 ソーニャは気合いを入れ、勉強に取り組み始めた。

 全く、手のかかる……まあ、手のかかる子ほど可愛いっていうけど。


 四苦八苦しているソーニャに勉強を教えつつ、俺も俺で勉強を進めていった。



   ◆深冬side◆



「へぇ、パイセンって同級生相手だと、あんな感じなんだ」



 純夏と一緒にパイセンの様子を見に来た。

 それにしてもツキクラ先輩、相変わらず美人すぎ。遺伝子が違いすぎる。

 パイセンも気を許してるのか、教えてる時の口調がちょっとキツめ。だけどツキクラ先輩は嬉しそうだ。

 ありゃあ、間違いなく恋してるね。



「まあ、あれなら心配ないでしょ。パイセン、鈍感だしさ」

「…………」

「……純夏?」



 さっきから純夏が静かだ。

 やっぱり好きな人が超絶美人さんと二人きりで、気が気じゃないんだろうか。全く、純夏もうぶいね。



「……ねえ、深冬」

「なに?」

「勉強してる?」

「してるわけないじゃん」

「……さっきセンパイ、赤点一科目につき三日の補習って言ってたような」



 ……………………………………………………。



「「勉強しないとっ!」」



 私と純夏はどちらが言うでもなく、鞄を持ってパイセンの家に向かってダッシュしたのだった。

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