第82話 酔っ払いと反省

 その後何事もなく二人でアイスを食べ、日が傾くまでゲームをして時間を潰すと、俺はソーニャの家を後にするべく玄関にいた。

 なんだかんだ、こんなにゆっくり遊べたのは久々な気がする。

 もう少し遊んでいたい気もしたけど、これ以上帰らないと後が怖い。

 まあすでに怖いんだけど。

 帰ったら何を言われるか……。



「じゃ、行くわ。夏休みの補習、頑張れよ」

「いやなこと思い出させてくれるね、ヨッシー」

「事実だからな」

「ひどい人。まあほしゅーが終わったら、私も遊びに行くから」

「おう」



 狭くとも住みよい我が家ですが、喜んで。

 手を振るソーニャに手を上げて答えると、夏の日差しが眩しい外に出る。

 西日が眩しい。でも夏の香りがして、気持ちいい時間だ。



「あ、そうだ。ねえヨッシー」

「え? なん……ん!?」



 いきなり頬に触れた感覚と、近くなったソーニャの顔。

 間違いなく、頬にキスされた。



「お、おま。ここ外だぞ……!」

「別にいーじゃん、キスフレなんだし? それに外って言っても、誰も見てないって」

「だ、だからって……!」

「これから二人とイチャイチャすんでしょ? なら私にもイチャイチャさせてよ」



 ぐ……そう言われると何も言い返せない。

 いや、俺からイチャイチャしに行ってるわけじゃないんだ。ただ向こうがくっついてくるだけで……。

 ……やべえ、もしかして俺、圧倒的クソ男街道を突っ走ってないか?



「さ、行った行った」

「……おう。またな」

「ん、まったねー」



 ソーニャの見送りで、門を出て外に出る。

 和風モダンな感じから、景色が一気に住宅街に変わった。

 はぁ……なんか落ち着く。

 どうして俺の周りの女の子は、こうも俺の心臓をドキドキさせてくるんだ。

 ため息とともに、スマホで時間を確認する。

 十七時。帰って飯の準備をするにはちょうどいい時間だ。

 因みに機内モードにしてるから、みんなからの着信はゼロ。

 今これを解除する勇気は俺にはない。だって怖いし。



「まあ、家に帰る以外行くところもないんだけどな……」



 しゃーない。とりあえず帰ろう。

 俺はスマホをしまうと、少しゆっくりなペースでみんなの待つアパートへと戻っていった。



   ◆



「ただいまー」

「! カイ君!」

「ほべ!」



 み、みぞおちにダイレクトアタック……!

 こんな直接的な飛び込み、久々に食らったぜ……。

 下を見ると、純夏が涙目で腰に抱き着いて俺を見上げていた。

 ちょ、そんなところに胸を押し付けないで……!



「うううううう! カイ君カイ君カイ君カイ君! なんで連絡くれなかったんすかー!」

「ご、ごめん。通知来ないようにしてた」



 でもまさか、こんなに心配してくれてたとは。

 とにかく純夏を落ち着かせようと頭を撫でながらリビングを見る。

 と、天内さんが申し訳なさそうにこっちを覗いていた。



「か、海斗君。あの、その……」

「あー……まあ、反省したなら俺は気にしてないからさ。二人はもう反省したんだよね?」

「う、うん。……変にはしゃぎすぎて、ごめんなさい」

「なら俺はいいからさ。……それより元凶の二人はどこいった」



 二人は被害者みたいなものだ。それよりあの酔っ払いどもからの謝罪が欲しい。



「あ、二人ならこっちに」



 まだいるんだ。やれやれ、年上だろうがなんだろうが関係ない。ちょっと強めにがつんと……。

 そう思いリビングに入ると……お、おぉ……?

 まず目に飛び込んできたのは、正座をして申し訳なさそうにしている二人。

 次に、異様なまでに片付いたリビングだった。

 そういえば、キッチンのシンクの中も綺麗に片付いてたし、掃除もされていた。

 まさか、反省して掃除でもしてた、とか?



「えっと……よ、吉永。今日は本当にごめん。……ごめんなさい」

「ごめんなさい、海斗君。大人としてやってはいけないことをしてしまいました……」

「……はぁ。本当ですよ、全く。これを機に、ちょっとは自制心を覚えてください」

「「はい……」」



 この二人に対しては、許すとか言わない。

 ちょっとは反省してほしい。



「はい、それじゃあこの件はおしまいです。部屋も片付けてくれたんですよね。今回の件はそれでチャラにします」

「わ、わかった」

「本当、ごめんなさいね」



 二人は今回のことが相当堪えたらしく、しゅんとしたまま部屋を出る。

 少し強く当たりすぎたか?

 ……いやいや、ここで甘やかすのはダメだ。ダメなものはダメだと学ばせないと。

 俺は冷蔵庫に入っていたジュースで喉を潤わせると、リビングのソファーに座った。

 はふ……濃い一日だった。



「それよりカイ君、いいっすか?」

「ん? どうしたの?」






「ツキクラ先輩と随分楽しそうにしてたっすけど……そっちの説明、してもらっていいっすか?」






 …………。

 どうやら俺の夏休み初日は、まだ終わらないらしい。

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