第88話 水着美女と眼福

 それにしても、眼福というかなんというか……この世の天国って感じだ。

 この程度で天国とか言っちゃいけないんだろうけどさ。

 だって目の前に、超絶美少女三人が水着を着てるんだぞ。

 しかも、あの清坂純夏と、天内深冬と、月藏ソフィアだ。

 俺のため、なんて言ったら傲慢だろうけど……そう思ってしまうのも無理はないだろう。

 いやぁ、揺れる揺れる。

 ソーニャの用意してくれたベッド型の浮き輪に捕まり、遊んでいる三人をぼーっと眺める。

 そんな俺に視線に気付いた純夏が、俺の方に歩いてきた。



「カイ君、ぼーっとしてどうしました? もしかして、私らの水着に見惚れてましたか? いやん。カイ君、えちちですね。でもカイ君にならいくら見られても大丈夫というか、むしろもっと見てほしいというか……ぽっ」

「勝手に話を進めて勝手に盛り上がらないでもらえます?」



 いや、確かにその通りなんだけどね。でもここで肯定すると変態っぽいから、言わない。



「カイ君も一緒に遊ばないっすか?」

「うん。俺は久々のプールだから、もうちょっと浮かんでるよ」

「やっぱりジジくさいっすよ。若いぴちぴちギャル三人を独占してるんですから、もっとはしゃいで狼になってもいいと思いますです」



 狼になっちゃダメでしょ。取り返しのつかないことになるから。

 あと、そんなに胸を強調しないで。ようやく落ち着いてきたんだから。

 俺はプールの縁に用意されていたドリンクケースから、ジュースを取り出して純夏に渡した。



「時間を忘れて楽しむのもいいけど、水分補給もしっかりね」

「あいっす」



 一応ソーニャからは、プールの中でジュースを飲むのはオーケーとは言われている。

 けど、なんとなく悪いことをしている気分になるからか、純夏はプールサイドに上がってジュースに口を付けた。



「んくっ、んくっ、んくっ……ぷはぁ~! うみゃい!」

「そいつはよかった」



 腰に手を当てて、豪快な飲みっぷりだなぁ。

 俺もプールサイドに座り、ジュースを飲む。

 空は快晴。目の前にはプライベートプールが広がり、美少女三人が戯れている。

 ……なんもしてないのに勝ち組気分になるな。本当に何もしてないのに。



「何もしてなくないっすよ」



 ……純夏?



「え。今、声に出してた?」

「出してないっすけど、カイ君が何を考えてるかなんてわかるっす。その反応だと、私が言ったことを考えてたみたいっすね」



 まあ、うん。その通りなんだけどさ。

 俺、そんなにわかりやすかったかなぁ……?

 傍に立っていた純夏は、俺の隣に座ってこっちを見上げて来た。

 近い。けど、触れていない絶妙な距離感だ。



「カイ君は、私らを助けてくれたじゃないっすか」

「助けたって……大げさだよ。それに、あの状況なら誰だって、普通助けると思うけどな」



 それが偶然俺だっただけ。例えばこれが悠大でも、三人のことは助けただろう。

 本当、偶然に偶然が重なっただけだ。

 だからこの状況が、俺のおかげだなんて思ったことがない。

 でも純夏は違うみたいで、苦笑いを浮かべて首を横に振った。



「でもカイ君、よく考えてみてください。普通嵐の日に、外で号泣している女の子を拾って、今まで手を出さずにいられますか?」

「そ、それは……」

「ずっと添い寝をしたり、ハグをしたり、キスをされたり……そんな状況で、その辺の男が自我を保っていられますか? 人の家庭の事情に巻き込まれ、面倒だからといって全部を投げ出さずにいられると思いますか?」

「…………」



 正直……思わない。

 いや、世の中の男がみんなそうとは思わないけど、ちょっと邪な心が顔を出すこともあるだろう。

 改めて考えるとよく我慢できてるな、俺。



「カイ君はみんなに好かれるだけの人徳と人望があります。だから、何もしてないなんてことはないんです」

「……そうか、な」

「はい。カイ君がそれを否定するなら、私らがカイ君を肯定しますから」



 お、おぉ……? なんか感動……あの純夏から、こんなセリフが聞けるなんて。

 この数週間、勉強を教えたかいがあるな。

 ……いや、茶化すのはよそう。

 純粋に……うん、嬉しい。認められたのも嬉しいし、褒められたのが……嬉しい。

 なんとなく気恥ずかしくなって純夏から視線を逸らす。が。



「おりゃあ!」

「てやぁ!」

「おぶ!?」



 ななななななんだ!?

 いきなり顔面に掛けられた大量の水。

 見ると、いつの間に用意したのか、メカメカしい水鉄砲と携えた天内さんとソーニャがいた。



「くぉるぅあ! そこ、いちゃつくなー!」

「ヨッシー、私らと遊べ―!」

「わ、わかった! わかったからぶべ!?」



 やめてその水鉄砲! 普通に痛い! 痛すぎるって!?

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