第89話 風呂と内緒話
◆
「ぶはぁ〜……つっかれたぁ……!」
「ウチも〜」
「ふふ。喜んでくれてうれしーよ」
プールサイドのリクライニングチェアに寝そべっている三人。
大きなパラソルが開いていて、濃い日陰を作っている。
……目のやり場に困る。
いや、眼福ではあるけどプールの中じゃない分、全身が顕になっていて……うん、たまりません。
なるべく三人を視界に入れず、椅子の上にあぐらをかいてアイスを食べる。
燦々と照りつける陽射し。
蝉の鳴き声。
遠くに見える入道雲。
そして種類の違う水着美女。
贅沢で最高の夏だ。
純夏はぐぐぐーっと伸びをすると、にへっと笑みを浮かべた。
「高校生の夏って最高……! もうずっとこうしてたい」
「つっても、ウチら中学ん時も楽しんでたっしょ」
「好きな人と一緒の夏は格別なんです〜」
「あ、それはわかる」
と、二人揃って俺を見て来た。
そういうことナチュラルに言うのやめて。恥ずかしいから。
「ぬふふ。私はちゅーがくからヨッシーと一緒だったからねん。まだせーちょーしきってないヨッシーの写真とかたくさん持ってるよ」
「「見たい!」」
「だめ」
「それじゃ、後で見せてあげるよ」
「「やったー!」」
おかしいな。俺、今だめって言ったよね。
中学の頃の俺ってめちゃめちゃちんちくりんだから、あまり見られたくないんだけど。
ソーニャを白い目で睨むと、てへっとウインクしてきた。くそ、可愛い。
「まあいいじゃないの、海斗くん。ウチらの中学の写真見せてあげるから。ほらっ」
「お、可愛い」
スマホの画面に映っているのは、黒髪の純夏とダークブラウンの天内さん。
今よりも幼いし、メイクもほぼしていない。
それでも、この頃から完成された美貌を持っている。
「これいつの?」
「中二のときかなー。ウチら、超仲良し」
「ぶい」
純夏が俺に向けてピースを向ける。
確かに、これだけでもめちゃめちゃ仲良いのがわかるな。
それにしても……黒髪ストレートの純夏、普通に可愛すぎる。
空色の瞳も神秘的だし、目元も今より少しくりっとしている。
清純というか、清楚というか……そんな印象の女の子だ。
「たった数年前なのに、こんなに変わるんだな」
「カイ君っ、今の私らと昔の私ら、どっちが好み?」
「そりゃ今の方で……あ、いやなんでもない」
なんでもないから、そんなニヤニヤ顔を向けないで。
「むぅ〜……ねーヨッシー。私はー?」
「お前は昔から変わらないだろ」
「ひど!」
いや、マジで身長が伸びた以外なんも変わらないんだよな、ソーニャって。
俺が伸びた分だけ一緒に伸びたからか、身長差も昔から一緒だし。
「変わらないってことは、ツキクラ先輩って昔からめっちゃ可愛かったんすか?」
「あー……まあ、そうなる」
それは隠しようのない事実だし。
「ちょっ、ヨッシーなに恥ずかしーこと言うの! ばか!」
「す、すまん」
なんで事実を言っただけで怒られてるの、俺。
「カイ君ってこういうところあるよね……」
「わかる〜」
「まったく、ヨッシーは……!」
いつの間にか俺だけ敵に。
何このアウェイ感。
◆純夏side◆
「にゃ〜……お風呂サイコー……!」
十六時まで遊び倒した私たちは、ツキクラ先輩の家の大風呂に来ていた。
大風呂というだけあり、シャワーは三つ。湯船も三人が足を伸ばしても問題ないくらい広い。
最高すぎませんか、ツキクラ先輩のおうち。
「ウチ、もうここに一生住む……」
「私も住みたい……できることならカイ君と一緒に」
「あはは。そー言ってもらえると、私もうれしーよ」
体を洗ったツキクラ先輩が、湯船に脚を入れる。
うわっ。すっごい綺麗な体……病的に痩せてるわけでもないし、無駄な脂肪が付いてるわけでもない。
本当に同じ人間なのかな。神様ずるい。
「そ、そんなに見られると恥ずかしーんだけど」
「いやいや、見ちゃいますって」
「ツキクラパイセン、本当に綺麗……!」
「でへへ。照れますなー」
くぅっ、照れてる顔もめちゃめちゃ可愛い……!
本当、こんな可愛い人と同中で惚れないなんて、カイ君ってどういう神経してるんだろう。
「……まさかカイ君って、女の人に興味ないんじゃ……!?」
「えっ、まさか……!?」
「あはは! それはないよ。だいじょーぶ、ヨッシーはちゃんと女好きだよ」
ほっ、よかっ……いや待って。それはいいんだろうか。
「でもツキクラパイセン。海斗くん、ウチらに全然手を出してこないだけど」
「それは負い目じゃないかな」
「負い目?」
「二人との出会いは聞ーたけど、なんか弱みにつけ込んでる感じがするんじゃない? ヨッシー、めちゃ優しーから、そーいうところで歯止めが掛かってるんだよ、きっと」
「「ありうる……」」
カイ君、マジで優しいからなぁ……困ったもんだ。
別に弱みとか思ってないし、むしろ手を出してもらった方が嬉しいんだけど。絶対拒まない自信がある。自信しかない。
むぅ、どうするか……。
「で、二人はどーしたい?」
「え、どうってなんすか?」
「ヨッシーとどーなりたい? 付き合いたいの? エッチしたいの? 結婚したいの?」
こ、これまたズバッと聞いて来るっすね、ツキクラ先輩……。
「因みに私の場合、私がヨッシーと付き合えたら、他の誰かがヨッシーと付き合っても問題ないと思う派」
「……どういうことっすか?」
「ウチらまだおバカだから、簡単に説明してほしいんだけど……」
「私の言ったことが全てだから、ちゃーんと考えて」
考えてって……うーん?
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