第93話 ビキニ姿が見たいがどうすればビキニを買ってくれるのか。それが問題だ

「ショッピングモールに来た俺達。目指す先は未だ足を踏み入れたことの無い未開の地。その先に何があるのか? 期待と希望を胸に、一歩ずつ確実に近づいていくのであった」

「いきなり何を言ってるんですか?」

「ちょっとドキュメント番組っぽく言ってみた。ほら、なんか知らないところに行く系だとこんな感じでナレーション流れるじゃん?」

「まぁ、たしかに……」

「東雲さん、翔平はいつもこんなだから深く考えるだけ無駄だよ」

「そだね。馬鹿だもんね」

「やっかましいわ」


 というわけで俺は現在、千衣子、茜、美桜の四人でショッピングモールに来ている。

 ちなみに四人とも制服姿。体育祭が午前中で終わって、そのまま来たからだ。

 ちなみに体育祭の結果だが……うん、負けた。いくら俺と茜が頑張ったところで経験者がいるクラスには勝てないって。


 まぁ、割れた眼鏡の代わりにコンタクトに変えて、更に前髪をピンで止めた姿で戻ってきた茜への女子生徒の声援のせいで、負けたのに勝ったような雰囲気だったけど。

 相手のチームからの恨みがましい視線が痛かったので、「なんかスマンな」と、一応心の中で謝っておいた。あとは知らん。だって俺の頭の中では勝ち負けなんて既にどうでも良く、千衣子の水着のことで埋め尽くされていたから。


 どんなのが似合うのだろうか? 色は? 形は? やっぱり性格的におとなしい感じのになるのか? でも、あのスタイルの良さを隠すのも勿体ない。

 ということはやはりビキニか。ビキニだな? うん、ビキニだ。

 でもきっと恥ずかしがって拒否されてしまうだろう。いったいどうすればビキニを買ってくれるだろうか。そんなことばかり考えていた。

 我ながらしょうもない。

 そして、それは目的の店の前に来た今でも続いていたけど、最終的には千衣子が選んだやつなら何でもいいかと考えをまとめた時だ。


「でも別に私はここに来るの初めてではないですよ?」

「なんだって?」


 まさかの千衣子のその言葉に、俺は驚きと戸惑いを隠せず、思わず足を止めてしまう。


「前にも来たことありますもん」


 初めてではない。それはつまり──


「だ、誰だ!? 俺より先に千衣子の水着姿を見たヤツは! そんな話聞いたことない! 初耳だ! 俺が初めての彼氏だって言っていたのに! 俺が初めてだと思ってたのに! 誰と来たんだよォ!」

「ちょっ! 声が大きいですよ! 誰も水着だなんて言ってないじゃないです!」

「……ん? どゆこと? ここ、水着売り場だろ? ほら、ここの看板にも【新作水着入荷! 】ってあるし」

「それそうですけど、ここに置いてるのは水着だけじゃないんです。翔平くんって妹さんと買い物とか行かないんですか?」

「あー妹とっていうか、家族では行くけど俺は基本一人でうろついてるからな」

「はぁ……ならわからないですよね」

「???」


 千衣子が何を言っているのかわからず、首を傾げる。すると千衣子は俺達にだけ聞こえる声量で言った。


「ここ、下着も売ってるんです。それに一緒に来たのは……」


 そこまで言ってチラッと美桜の方を見る。すると美桜も何かに気付いたようで、「あぁ!」とでも言いそうな顔になると口を開いた。


「バカ深山。ここに一緒に来たの美桜だし」

「そうなのか」

「そうそう。深山が好きそうなのどれかなー? って聞かれ──」

「美桜ちゃん!? なんで言っちゃうの!」

「あ……」

「千衣子お前……俺の為にそんな……」


 まさか! 彼女が彼氏の為に好みの下着の柄を相談するという、俺的憧れシチュエーション第八位をやってくれていたなんて……!


「や、その……だって、ほら……もうっ! 美桜ちゃんだって三枝くんが我慢できなくなるような凄いの買うんだ〜って言いながら物凄く物凄いの買ってました!」

「んぇっ!? ちいちゃんいきなりなにを!?」

「え、美桜ちゃん……もしかしてあの……」

「わーわーわー! もしかしてとか言わないの! そーゆーとこしてるってバレるでしょ!」

「あ、ごめん」

「いや、今更だろ」

「ひ〜ん! 茜くんのばかぁ!」

「ご、ごめん!」


 むしろ泊まったり二人で抜け出してたりしてて、バレてないと思ってたのかよ。

 まぁいいや。それよりもだ。


「なぁ千衣子。もしかしてその時買ったのって……この前のアレ?」


 先週のデートのときに見た、少し透け感のある扇情的な下着を思い出して聞いてみる。

 すると、千衣子は少しだけ顔を赤くしながら俺の耳元で小さく一言。


「…………ばか」


 それだけ言って、繋いでいた手を強く握った。

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