第1話 陰キャと呼ばれる親友

 ピンポーン♪


 と、玄関から音がする。おっ、来たな。


「カギ開いてっから中に入ってちょっと待ってろ〜!」


 俺は玄関に届く程の声でそう叫ぶと、隣の椅子に置いておいた鞄を掴んで立ち上がり、ついさっきまで食べていた朝食の皿を流し台に放り込む。


「ご馳走さまっと♪」


 そのまま洗面台に行って歯みがきと髪のセット。いつもはちゃんとセットするんだが、今日は寝癖が奇跡的に良い感じにキマってたから、少し跳ねてるところを直すだけで後はそのまんまだ。こういうのたま〜にあるんだよな。わかる?

 そして最後にスマホと財布を制服のポケットに突っ込んで玄関に行くと、そこには小学校からの幼馴染みの【三枝さえぐさ あかね】が立っていた。

 ちょっと長めの前髪と眼鏡。背は俺より少し小さいくらいの……男だ。名前は女みたいだけど。ちなみにその事でからかうと少し怒る。例を挙げると、名前をちゃん付けで呼んだり……とかだな。

 コイツは内気な性格のせいなのか少し猫背なんだが、顔立ちは整っていて、俺から見ても中々のイケメンだと思う。カッコいいってよりはカッコカワイイって感じか? 結構モテるとは思うんだけど、そんな話は聞いたことがない。


「よう茜ちゃん、ぐっも!」

「もう、茜ちゃんは止めてよ。翔平おはよう」

「おぅ、わりぃわりぃ」


 そして俺は【深山みやま 翔平しょうへい】十六歳。つまり茜も同い年だ。


 ハッキリ言っておく。俺は割りとモテる。その自覚もある。友達も多い。カッコいいとか言われた事もあるしな! まぁ……彼女が出来た事はないんだが。良い感じになっても、何故かそこから発展する事がないんだ。解せぬ……。

 っと、そろそろ行かないと。


「さて、今日も学校に行きますか〜!」

「そだね。時間余裕あるけどどっか寄ってく?」

「コンビニ寄っていくか? 昨日遅くまで周回してたから眠くてな。コーヒー買っていくわ」

「おっけ」


 そして二人で玄関から出ようとすると、廊下の脇にある階段の上から降りてくる足音と一緒に声が聞こえた。


「しょう兄ちゃん!」

「……なんだよ」


 茶色のボブヘアーに大きなつり目と小さな胸。そして、パンツが見えそうな短いスカートを履いたこいつは、俺の一つ下の中学三年の妹で、【香帆かほ

 妹って言っても義理のだけど。色々あって半年程前から一緒に住んでいる。まぁその辺の説明は後程。


「ちょっと待って」

「はぁ? 俺達もう行くとこなんだけど」

「いいから! 耳貸して」


 香帆はプリプリ怒りながらそう言うと、俺の耳元に手で囲いを作り、小さな声でこんな事を言う。


「(ねぇ、途中まで一緒に行こうって昨日言ったじゃん。なんで先に行こうとするのぉ? しかもその隠キャと)」


 そうなのだ。香帆は何故か茜の事を隠キャ呼びする。いや、香帆だけじゃない。学校でも一部からはそんな扱いなのだ。実際、陰キャって呼ばれてるのを聞いたこともあるしな。

 暗いとか地味とか存在感が無いとか影で言われていて、まともに話すのが俺ぐらいしかいない。なんでだ? 話せば面白いし、見た目だって良いのに。けど、俺の友達はそんな事言わない奴等だ。まぁ、「茜ってカッコいいけどなんで彼女出来ないんだろうな?」って言うと「う〜ん?」とは言われるが……。


 話を戻そう。それで、前にその影口にイラついて止めさせようとしたけど途中で茜に止められてしまい、結局そのままだ。

 だから俺はこいつの事をそんな呼び方をする奴は気にくわない。


「(アホか! こいつを陰キャ呼びするお前と一緒に行くわけないだろうが)」

「もうっ! 馬鹿しょうへい! あほー!」

「何とでも言え! ほら茜、行くぞ」


 俺は叫ぶ香帆を放置して、茜の背中を押しながら玄関から出て歩きだした。

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