第37話 幼馴染ざまぁをざまぁしてざまぁする……かもしれない。

 ~茜視点~


 き、緊張するっ! 女の子と一緒に帰るなんて久しぶり過ぎてどうしよう!

 しかもその相手が好きな人って……。


 一緒に帰ろうって誘われてすぐに返事をしたのはいいけど、なんだかいつも教室で話してる時みたいに話せない。

 進藤さんもなんだか顔を上げてくれないし……。って思ってたらいきなりこんな事を聞かれたんだ。


「な、なんかさ? 美桜達だけで帰るのって初めてじゃないかね?」

「そうだね。初めてかも。いつもは翔平とかいたし」

「だ、だよね! なんか照れちゃうよね?」

「照れ?」

「ち、違う違う! て、照れとかじゃなくってさ、なんていうかね? 慣れないなぁ~ってさ?」


 な、慣れない……。確かに二人きりで話したことはあんまり無いかもだけど……。

 うん、これからは学校でもっと話せるように頑張ろう!


「三枝? もしかして怒った?」


 僕が考えながら黙ってたら進藤さんが下から見上げてきた。うっ……! ホント可愛いなぁ。


「いや、怒ってないよ。えっと……そういえばあのゲーム進んだ? 僕はやっとあの章を越えたよ。大変だったぁ……」

「えっ!? 三枝あそこクリアーしたの!? 美桜、全然ダメで石割りまくったんだけど!?」


 そこからは同じゲームの話で少し盛り上がった。進藤さんも同じのやってるって聞いた時から、たまに進み具合とかで話したりするんだ。ちなみにフレンド申請はまだしてない。中々聞けなくてね……。


 やがてゲームの話も落ち着き、今度は進藤さんの今日の髪型の話になった。


「そいえばさ、美桜の今日の髪型でなんか言ってくれたの……さ、三枝だけなんだよね。あのね? 嬉しかったよ。ありがとね」

「あ、いや……ホントにそう思っただけだからそんな……えっと……うん」

「そ、そっか! へへ、まさか三枝とこんな話するとは思わなかったや。それでさ? ちょっとね、ちょっとだけ相談なんだけどさ、美桜が髪伸ばしたら……どうだい? 似合うと思う?」


 進藤さんの髪伸ばした姿……想像してみる。

 ……うん。絶対可愛い。


「僕は似合うと思うけど……」

「そ、そっか! ふ~ん。なら試しに伸ばしてみようかね? 似合わなかったら責任取ってくれたまえよ?」

「せ、責任!?」


 責任って何!? 一体何をさせられるの!?


「へへへ~! 冗談冗談♪」


 そんな事いいながらケラケラと笑う進藤さん。

 はぁ、やっぱり好きだなぁ……。


 僕がそんな事を考えた時だ。


「ちょっと茜、あんた誰の許可を得てメガネなんて取ったのかしら?」


 いきなり後ろからそんな事を言われた。僕と進藤さんが振り返るとそこには、身長も高くて肩ぐらいまでの銀髪に青い目をした綺麗な子が、腰に手を当てて胸を張って立っていた。

 すると進藤さんが興奮して、僕の袖を引っ張りながらこう言った。


「えっ、ちょっと三枝! この子の事知ってるの!? 凄い子なんだよ!?」

「す、凄い?」

「そうだよっ! この子、周防すおう リーサちゃんだよっ! 今SNSで人気の! ハーフで読モもやってるんだって!」


 そう言われると確かに何かで見たことあるような気が……?


「ふふん。久しぶりね、茜。それでどういう事なのか聞かせて貰えるかしら? 言い訳はいらないわ。私ね、貴方の学校に知り合いがいるのよ。それで最近凄いイケメンが現れたって聞いて、名前を聞いたら三枝 茜だって言うじゃない。どういうこと? 私、メガネは外さないでって昔言ったわよね? あなたの素顔は私だけが知ってればいいのにっ!」


 ……ど、どうしよう。ぜ、全然記憶にない。顔もそのセリフも名前も。それなのに……。


「えっ、三枝? もしかして昼に言ってた気になる子ってリーサちゃんの事……なの?」


 なんでそうなるの!? 違うよ! 進藤さんの事だよっ!


「え、違──」

「さすが茜ね。あんな事があった後も私の事をそんなに思っていたなんて……。まぁ、ホントの事を言うと私もずっと忘れてなかったんだから当然だわ! ホントはもう少し有名になってからと思ってたけど、茜の素顔がバレたのならしょうがないわね。虫が付く前に約束通り私の物になりなさい。昔喧嘩して絶交したままだけど、私は許してあげるから」


 僕にも喋らせて!? いやホント誰なの!?

 そんな約束した覚えもないよ!?


「さ、三枝……。そんな将来の約束までした人がいたんだ……」

「進藤さん!? 誤解だって! そんな約束してないから! だから勘違いしないで!」

「誤解って……。そんな事言ったらリーサちゃん可哀想だよ? そ、それに勘違いとか言われても……別に美桜は……その……ただの友達だし……」

「ただの友達なんかじゃないよっ!!」

「……! え、それってどういう──」


 あぁっ! つい勢いで! えっ、これどうしよう!?


「ちょっと二人とも? 何をコソコソ話しているの? もしかしてそこの貴女──」


 銀髪の彼女が何か言いかけた時だ。いきなりワインレッドの色の車が来て、僕達の近くに止まったかと思えば、中から大人の女性が出てきた。


「ちょっとあんた! 撮影抜け出して何してんのよ!」

「ま、マザァ!?」

「マザァ!? じゃないわよ! お母さんでしょ? 何回言ったらわかるのよ。あんたバリバリの黒髪黒目の日本人じゃない! せめてママにしなさい!」

「ち、違うわマザァ! 私はハーフよ! ハーフモデルの周防リーサなの! この髪は遺伝の銀髪なのよ!」

「あんたは馬鹿か! それはSNS上での名前でしょうが! あんたにはちゃんと【野村 真知子】って立派な名前があるじゃないの! まったく、勝手に髪は染めるしカラコンは入れるし雑誌に載るわで学校に許可取るために頭下げたりしてお母さん色々大変なのよ!? ……後で勝手に許可したお父さんも説教しないと……。あの人ホントに娘に甘いんだから」

「いやぁっ! その名前で呼ばないでマザァ!」

「だまらっしゃい!」


 あれ? 野村真知子? その名前は聞いたことあるような?


「もしかして……まっちん? 中学校の時に転校した」


 僕がそう言うと銀髪の子が固まり、叫んでいた人が僕の方を見た。


「あら? あらあらあら? もしかして三枝さんとこの茜くん? あら~大きくなったわねぇ~。そうそう、この子真知子なの。覚えてたのねぇ~。高校に入ると同時にこっちに引っ越して来たのよ。今度ご挨拶に行くってお母さんに言っておいてもらえるかしら?」

「あ、はい」

「よろしくねぇ~。ほら真知子! 行くわよ!」


 そうして引きずられて行くまっちん。


「あ、茜ぇぇぇぇ~! ホントは仲直りしに来たのよぉ~! 後、まっちんって呼ばないでぇぇぇぇ……」


 そんな事を言いながら。

 やがて車のドアが閉まり、そのまま走り去って行った。


「ねぇ三枝」

「……何?」

「まっちんって?」

「えっと……僕や翔平が中学一年の終わりの頃までの幼なじみで、よく僕は虐められてたんだ。それが嫌で一度大喧嘩して絶交して、その後すぐに転校して行った子」


 そう。あの頃、あんなに僕の事をキモイとウザイとかって言ってたのに、いきなり自分の物になれなんて意味が分からない。それとついでに思い出したけどメガネの件だって、「茜の素顔なんて見れたもんじゃないからずっとメガネしてなさい」って言われたんだよな……。仲直りとか今更そんな……。


「好き……とかじゃないの?」

「全然。これっぽっちも」

「そうなんだ……」

「うん」

「……リーサちゃん、野村真知子っていうんだね」

「そうだよ?」

「ハーフじゃ無かったんだ……」

「そうだねぇ……」


 その後、僕達は何とも言えない空気になって、そのままお互いの帰路についた。

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