第38話 間違えてビデオ通話にする奴はホントにいる

 俺は駅の近くで千衣子と別れた後、コンビニに寄ってから家に帰ってきた。

 いつも玄関に履き散らかしたまんまの香帆の靴を揃えてからリビングに入ると、美帆さんは夕食の準備中。香帆は制服のままソファーで寝転び、無駄に大人びた黒いレースのパンツ丸出しで雑誌を読んでいる。引っぱたいてやろうかと思ったけどやめといた。

 今日の俺は優しさに溢れているのだ。


「ただいま」

「翔平くん、おかえりなさい」

「おか~~」


 二人がそれぞれに返事を返す。それと同時に手に下げていたビニール袋からコンビニで買ってきたスイーツ(笑)を出すと、二人に渡した。


「これ、なんか新発売だったから買ってきたんだけど、良かったら二人で食べて」

「あら、ありがとう~~。おいしそうねぇ」


 美帆さんはキラキラした目でそのスイーツ(笑)を見ている。普段はほとんどこんな風に買ってきたりしないんだけどな。今日のはなんか買ってしまった。

 うん、わかってる。明らかに俺は浮かれているのだ。彼女が出来たんだもの! しょうがない!


 さて、喜んでくれた美帆さんをよそに香帆は顔だけ上げてこっちを向き、目を開いてワナワナ震えている。


「しょ……しょう兄ちゃんが帰りにスウィーツのお土産!? な、何が目的なの!?」

「なんもねぇよ。つーかさ、いい加減着替えろよ。制服シワになるぞ」

「わ、わかってるもんっ!」


 俺がそう言うと、香帆はようやく起き上がった。そして現状に気づいたようだ。


「……ってあぁっ! スカートまくれてるじゃん! パンツ見たでしょ!? 変態! も、もしかしてそのスウィーツを餌に香帆に変な事するつもり!? ちょっと前までならそれもまぁいいかな? って思ってたけど、今は茜君一筋だからダメよっ!」

「あ、美帆さん。俺、着替えたら風呂洗って来るね」

「はい、よろしくね。その頃には夕食も出来てると思うから、お風呂沸く間に食べちゃいましょう」

「最近香帆の扱いが雑っっっ!!」


 何言ってんだ。むしろこれが日常だろうが。

 さて、風呂掃除っと──。


 ◇◇◇


 あと後、風呂の掃除を終えてリビングに行くと、美帆さんの言った通りに夕食がテーブルに並んでいた。

 それを食べながら美帆さんと一緒に香帆をイジり、たまに褒めて調子に乗った所でまたイジったりしていた。


「ごちそうさま」

「はい、おそまつさまでした」

「これを……これを食べれば香帆もお母さんみたいな胸に……これを……くっ!」


 なんかカリフラワーを目の前にして、【くっ香帆さん】になってる。香帆はいつもコレ残すから美帆さんが、「学生の頃、これが好きでたくさん食べてたら胸がねぇ……」って適当に言った事を信じてるようだ。頑張れ!


 俺は自分の使った食器を洗うと、そのまま風呂へ。スマホは防水ケースに入れて持ち込む。

 体や頭を全部洗って入浴剤を入れた浴槽に体を沈めると、スマホを手に取ってメッセアプリを開いた。

 千衣子の名前をタップしてメッセ作成。


『今日告白受けてくれて嬉しかったよ。今は何してた?』


 それだけ送ると、返事はすぐ帰ってきた。


『わた』


 ……わた? どゆこと?

 さっぱりわからなくて首を捻ってるとまたすぐに新しいメッセが届いた。


『すいません。途中で送ってしまいました。私もです。今は部屋で本読んでました』

『本ってどんな本読むの? ちなみに俺は今風呂。スマホは防水ケース入りだから大丈夫(笑)』

『マンガ本ですね。私もさっきお風呂行ってました』

『マンガって……今日の帰りに言ってた、憧れてるって言ってたやつ?』


 俺がそう送ると返信が止まる。その間に風呂から上がり、脱衣場で着替えてる時に返信が来た。


『はい……。恥ずかしいので、もうその事は忘れて下さい……』


 あと時の千衣子が可愛すぎて忘れられないんだけどどうしよう。

 てか、やっぱりメッセだとちょっと堅苦しい感じするな。千衣子のあの照れてどもる感じとか好きなんだよなぁ。あぁ、声聞きたくなってきた。……よし。


『良かったらなんだけど、寝る前に少し電話しない? このアプリなら無料で話せるんだけど』

『はい。大丈夫です』

『じゃあまた後で連絡するね』

『待ってますね』


 これでよし! 後はやる事やって部屋に行くだけだ。と、その時、廊下へと続くドアが開いた。


「しょう兄ちゃん長い! 香帆ももう入りたいん……だけ……ど?」


 文句を言いながら入ってきたのは香帆。ちなみに俺は下は穿いているが、上半身は何も身につけていない。そしてここは洗面台の前だ。


「お、お、お母さぁぁ~~ん! しょう兄ちゃんが鏡の前でスマホ構えてナルってたぁぁぁ!」


 いや、ナルってたってなんだ? 初めて聞いたわ! 新語作るなよ。


「あら、別にいいじゃない。お母さんだって彼氏に送る為に昔は撮ってたわよ? 今日の下……んんっ! なんでもないわ」

「お、お母さんっ!?」


 美帆さん……。あなた何してんすか……。


 ◇◇◇


『今から電話するけどいい?』


 千衣子にメッセを送る。俺は既に自室のベッドの上だ。

 今日は少しだけ暖かいから、ハーフパンツにロンT一枚だけ。


『いいですよ』


 おっ、返事来た。さて、それじゃあ付き合ってから初めての電話をかけますかね。まぁ、付き合ってからというか、知り合ってから初めてなんだけど。


 ~~♪


 呼出音がする。けど中々出ない。あれ? もしかして操作わかんないか? って思った時だ。


 ピッ


「えっと……これでいいのかな? あの……もしもし? 聞こえてますか? 深山君?」


 聞こえてるよ。聞こえてるってゆーか……。


 ビデオ通話になってんだよぉぉぉ!!

 しかも……いや、ちょっと待って……。

 えっ、まじで? その格好──


 ヤバいんだけど!

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