第92話 そろそろ夏が………くるっ!
「わぁ! びっくりした。な、なんの声!?」
床に座り込みながら髪をかきあげ、汗で濡れて肌に貼り付いたシャツを煩わしそうにしながらとぼけた顔で俺を見上げながら尋ねてくる茜。
そんな姿を見た女子生徒達は、鼻息を荒くしながら胸の中には留めておけない興奮を声に出して吐き出す。
「あんな子おりましたの!? ワタクシとしたことがリサーチ不足でしたわ!」
「待って待って待って! 汗でおでこにくっついてる髪とか色気がヤバい」
「怪我してるかも! 私が保健室に連れていく! そして……」
「ズルい! 私がついてくもん! そのあとは……」
「ワタクシに任せていただけるかしら? それから……」
「うふふ……」
「エヘヘ……」
「おほほほほほ……」
とまぁ、時々お嬢様がいるけど概ね女子の反応はこんな感じ。あれだ。茜が初めて髪上げて眼鏡外した状態で教室に来た時の全校生徒版だな。茜は表情を見た感じ、頭の上にハテナが浮かんでそうだけど。
「細かいことは気にすんな。それより大丈夫か? 怪我は?」
「翔平って説明が面倒くさくなるといつもそれ言うよね。あと、怪我はないよ。ただ眼鏡はどこにいったのかな? 何も見えないんだよね」
「待ってろ。今拾って──あ」
「ん?」
拾って渡してやろうと思い、眼鏡が飛んで行った方を見て言葉に詰まる。
なぜなら白間くんが今にも泣きそうな顔で茜の眼鏡だったものをその手に持っていたから。
「ご、ごめん三枝くん。わざとじゃないんだ。走っててたまたま足を下ろしたところに君の眼鏡が……ごめん」
「あー上手い具合に踏んじまったか」
「いいよいいよ。白間くん気にしないで。しょうがないからさ」
「うん……」
さてどうするか。眼鏡がないと茜はほんとに何も見えない。だから今は視界が全てぼやけて見えてるだろう。その証拠に俺の方をみながら白間くんに話しかけたからな。
「茜、お前コンタクトは持ってきてるか?」
ダメ元で聞いてみる。朝から眼鏡で学校に来たから望みは薄いけど、もしかしたら……。
「うん。一応なんかあった時のために鞄に入れてあるけど」
よしっ!
「なら美桜、お前彼女なんだから一緒に取りに行ってやれ」
「へっ!?」
俺はコートのすぐ横から見ていた美桜の所に茜を連れいくと、美桜の手を取って茜の手を繋がせる。
「ちょっ! 深山!? え? まっ……手ぇ!?」
「翔平!?」
「審判! つーか先生、ちょっと待っててもらってもおっけ? 見えないまんまで続けるのは危ないっしょ?」
「ん、まぁたしかにな。三枝、早く行ってこい。そして早くその繋いでる手を離せ。こっちは35歳で独り身だと言うのにまったく……」
おいおい。本音隠せよ。
「だってよ。美桜、茜を頼んだぞ」
「わ、わかった! いこっ! 茜くん」
美桜は返事をすると茜と共に体育館を出ていく。
これでよし。ついでにこれで茜に彼女いるのも周知の事実になったわけだし、変にちょっかい出そうとしてたヤツらへの牽制にもなっただろう。
それにしても……
「あれだけ聞こえてた黄色い声援が一気に静かになったな。自分で言うのもあれだけど、俺、結構凄かったと思うんだけどなぁ」
茜が戻ってくるのを待ちながらぼーっとしていると、そんなことを思ってしまう。茜のイケメンインパクトによって空気と化した俺の活躍。その事にすこーししょんぼりしていると、隣から千衣子が俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫です。翔平くんちゃんとカッコよかったですよ? 私的に一番です」
「そう言ってくれるのは千衣子だけだよぉ〜」
「だからそんな凹まないで頑張ってください。あ、そうですそうです! あのですね? 今日の体育祭終わったら夏に着る水着見に行きません? 私の選んで欲しいなって」
「行くぅぅぅ!!」
今日イチ元気な声が出た。
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