第63話 男女でプリクラ撮ってる奴らは大抵キスしてると思え!

「えっと……千衣子はちゅうプリ撮りたいの?」

「撮りたいと言いますかぁ~。一番上のお姉ちゃんが、恋人同士なら皆やってる事だから……って言うから……その……」

「それ……完全に騙されてるぞ?」

「んにゃっ! やっぱりぃ! ですよね! 私もそう思ってたんですけど、思いはしたんですけどぉ……」


 あぁ……これはあれか。前の帰り道にほっぺの時と一緒か?


「なぁ千衣子? もしかしてだけど、プリクラの中でのキスとかも漫画本で見て憧れていたとか?」

「っ! ……ちょっとだけ?」


 その時、プリクラ機から声がした。


【おまけでもう一枚撮れるよ! ポーズは自由だよ! いっくよぉ~! 五、四、三……】


 なん……だと!? おまけなんてあるのかよ!

 これはチャンス!


「千衣子っ!」

「ひゃいっ!」

「キスして撮ろう」

「へ、え? ええっ!?」


 時間もないから、俺は千衣子を抱き寄せて目を見る。すると千衣子もわかったみたいで目を閉じて少し背伸びをしてきた。それを確認して顔を近づけ、お互いの唇が触れるか否か──っていうその瞬間、カシャッ! って音がした。


「んむっ! んぁ……もう、深山君ってば……」

「ごめん。でも、俺も彼女と撮るの憧れてたしさ」

「うぅ……うぅ~!」

「ほ、ほら! 落書きコーナーに行けってさ。行こう行こう!」


 俺は顔を赤くして唸る千衣子の肩を押してカーテンの外に出ると、すぐに横の落書きコーナーに入る。さて、上手く撮れてるかな?


「えっと……このペンで落書きする写真を選ぶのか。で、タッチすると拡大されるんだな。オマケのは──これか」

「いきなりソレですか!?」

「いや、だって気になるじゃん?」

「もうっ! ほんと恥ずかしい……」

「まぁまぁ。ってあれ?」

「どうしました?」


 最後のキスの写真を拡大して、二人でその写真を覗く。すると俺はある事に気付く。

 なんと、タイミングがズレていて唇がふれておらず、キスした瞬間が撮れていなかった事に。しかも、千衣子が俺に向かって少し首を伸ばしてるように写っている為、なんだか俺にたいしてキスをねだっているような感じで撮られていた。

 これは……なんか普通にキスしてるシーンよりも、なんかそそるな。千衣子の可愛さが増し増しに写っている。よし、家宝にしよう。


「こ、こ、これは現像するのをやめましょう! こんなのむしろ恥ずかしすぎるじゃないですか! なんだか私が欲しがりみたいに見えるじゃないですかぁ!」

「いやだ! 俺はこれ絶対欲しい。譲れない」

「で、でもっ! ……そんなにですか?」

「もちろん! そんなに!」

「……絶対誰にも見せないでくれます?」

「約束する!」

「うぅ……そ、それなら……はいぃ。──私が思ってたのと違うのにぃ~」


 やったね! ラミネートして保存しないと!

 っと、その前に俺はカーテンから顔だけ出して辺りを見る。見える範囲には茜達は見えない。

 それなら──


「千衣子」

「な、なんですか?」

「もう一回、撮る? 今度はちゃんとキスしてるやつ。ホントはそっちのが欲しかったんだろ?」

「それはその……。えっと……一回だけですよ?」


 俺達はカーテンをくぐり、再びカメラの前に行くと料金を入れた。

 今度はタイミングなんて関係ないように、機械からのアナウンスが聞こえる前からキスをした。


 そしてお互いに唇を離すタイミングが分からないままにキスを続け、その結果──


「ぜ、全部ちゅうプリになっちまったな……」

「もう無理……。恥ずかしすぎて無理ですよぅ。全部深山君のせいです。深山君が私をこんなふうにしちゃったせいです……ばかぁ」


 落書きコーナーに入って画面を見た瞬間、千衣子は耳まで真っ赤にしてしゃがみこんでしまった。



 う~ん。これはさすがに俺も恥ずかしいな……。

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