第41話 ラノベタイトルみたいなメッセ送って来る奴

 突然変な声を出して無言になる俺の彼女。


「ち、千衣子?」

「……は! いえ、その、いきなり画面に深山君の顔がうつったので……」

「あぁ。びっくりしたのか」

「か、かっこよくて……あ」

「お、おぉう……」


 自分の事をノリでカッコイイだろう? とかはよく言ったりするけど……彼女から言われるとなんか恥ずかしいものがあるな。

 まぁ、カッコイイけどなっ!(おい)


「~~~~! もう今日の私はダメダメです……」

「あぁ……。まぁ、その、どんまい? それにほら! 俺もさっき千衣子の姿見た時可愛いって思ったし」

「うぅ~~! ホントですか? そんなこと今まで言われた事ないから自分ではわかりませんっ!」

「ホントだって。千衣子のビデオ通話が切れた時は結構残念だったんだからな?」


 出来ることならもっと見ていたかった。別にさっきみたいな刺激的な格好じゃなくてきっちり着込んでてもいいから顔が見えるだけでも十分だったんだけどな。


「……そ、そうなんですか?」

「もちろん。やっぱ好きな子の事は見たいしなぁ」

「…………」


 俺がそう言うとまた無言になる千衣子。

 すると、スマホの画面が切り替わった。さっきまでは黒い画面で下半分に俺の顔がうつっていたのが、今は【切り替え中】の文字と一緒に時間で減っていくバーみたいな物が現れて、俺の顔は右下に小さく表示されている。


 そしてそのバーがどんどん減っていき、無くなった時。俺のスマホの画面に千衣子の姿がうつった。


 それは、頭に布団を被ったままの姿。モコモコのパジャマはそのままだが、うつ伏せになっている為にボタンが弾け飛んだ所は見えない。

 見えないんだけど──


 胸がっ! 潰れてっ! 溢れてるっ!


 ちょっと待て……。狙ってんのか?

 んなわけないな。これきっと自分で自分の魅力が分かってないだけだ。

 きっと今までそういうことを言う人が居なかったせいで無防備で無頓着なんだ。

 これはマズイ。こんな姿を他の男に見られる訳にはいかない。今はお互いに家だからいいけど、外では気をつけないとだな。 独占欲が強い? んなもん知るか。


「き、今日だけ特別です……」


 ほら可愛い。頬を赤らめながらこんな事言ってくるんだぜ? 目の前にいたら抱きしめ不可避だろ。電話で良かった。


「最高の一日です」


 思わず敬語になってしまう。

 それからいろいろと話してるうちに時計の日付けが変わろうとしていた。


「千衣子、そろそろ寝ようか? もう次の日になりそうだや」

「え、もうですか? ホントだ……。あっという間でしたね。私、こんな時間まで起きてるの久しぶりです。なんだか、こうして話してると会って話してるみたいですね?」


 会って話してたら俺が理性を抑えられてたか心配だけどな! 言わないけど。


「確かにな。 あ、明日起きれる?」

「ふわぁ……えっ!? だ、大丈夫ですよぅ! 多分……」


 俺はいつもこのくらいの時間まで起きてるから慣れている。千衣子は眠そうにあくびをして目をこすっていた。可愛い。


「はは、なんなら起こそうか? 俺、朝は割りと得意だし」

「だ、だだだた大丈夫ですっ! そんな朝から声聞いたらダメになっちゃう……」


 ダメってなにがだよ。ってそれどころじゃない! 絶対言おうと思ってた事があるんだった!


「あのさ、明日駅まで迎えに行ってもいい? 一緒に学校行かない?」

「え、えぇぇぇぇぇ!?」

「ちょっ! 声大きいって! 家族起きちゃうんじゃない!?」

「あ……」


 と、その時スピーカーの向こうからドアをノックするような音が聞こえた。どうやらさっきの千衣子の大きな声に誰かが反応したみたいだ。


「だ、誰か来ちゃった! 深山君、静かにしててくださいね」

「おっけ」


 そんなに距離が無いのか、千衣子ともう一人の声が聞こえる。

 この声は……あの厄介な人か。


『ちいちゃん? さっきの大声はなんだったんだい? お姉ちゃんびっくりして柿ピー全部ばらまいちゃったよ』

『ごめんねお姉ちゃん。なんでもないの』

『なんでもないのに「えぇぇぇ!」ってなるのかい? それにちいちゃんはAぇぇぇ! じゃなくてFぅぅぅ! じゃないか。ほら、去年買ったパジャマの胸の所がパツンパツンでボタン取れてるし』

『ちょっ!? ちょっといきなり何言ってるの!? もうっ! 出ていってよ!』


 そんな声と一緒にバタン! とドアの閉まる音がした。

 おぉ、荒ぶっておられる。

 それにしても、Fか。そうか……。

 すると胸元を隠しながら千衣子が戻ってきた。


「も、戻りました。あの……き、聞こえました?」

「キコエテナイヨー」

「聞こえてるじゃないですかぁぁぁ! お姉ちゃんのばかぁぁ……」

「えっと……ごめん?」

「うぅ……深山君は悪くないので謝らなくてもいいですぅ。お姉ちゃんが……お姉ちゃんが余計な事言うからぁ……。もう寝ますぅ」

「あ、うん。そだね」


 くそぅ! あの人のせいで一緒に登校の返事きけなかったじゃねぇか。


「あの……」

「ん? 何?」

「ら、来週からならその……一緒に学校行きます。おやすみなさいっ」

「あ、お、おやす──」


 俺が言い切る前に電話は切れた。最後に見た顔は耳まで真っ赤だったから色々限界だったんだろうな……。


 千衣子との通話が終わってスマホの画面を見ると、メッセージが二件入っていた。

 一つは茜からの、


『まっちん覚える?』


 ってメッセ。まっちんって誰だ?


 んで、もう一つは和野から


『両親の転勤で俺が女と同棲するかもしれない件』


 ……こいつは何言ってんだ?

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