第42話 イキってるわけじゃない
翌朝、いつも通りに迎えにきた茜と、今日は寝坊しなかった香帆と一緒に家を出た。
茜はなんか疲れた顔をしている。……なんか最近多いな。
とりあえず昨日のメッセの事を聞かないと。
「んで、昨日のまっちんって誰だ!?」
「え、翔平覚えてないの?」
「!?」
茜に呆れたような顔をされた。何故か香帆もびっくりしたような顔をしてカタカタと震えている。
なんだってんだ?
「ほら、覚えてない? 中学校の頃転校して行った野村真知子って子だよ。僕が唯一口喧嘩したあの子」
「あぁ! 常にどっかに包帯巻いてよくわかんない言動してた奴か! お前に眷族? になれとか言ってたよな。キライだしキモイけど我が眷族になればそれは解消されるとかなんとか!」
「よ、よくそこまで覚えてるね?」
「なんか一気に記憶がぶわぁ! って蘇ってきた」
そうだそうだ。いたわそんな奴。一緒に遊ぶわけでもないのに茜の周りをウロチョロしてたんだよな。その時初めてあんなに怒鳴る茜を見たんだった。あれは一体何で言い争ってたんだっけ? それだけがわからん。まぁいいや。
「んで、そいつがどうしたんだ?」
「いや、昨日の帰りにいきなり出てきてね……」
「出てきてって……モンスターにエンカウントしたみたいに言うなよ」
「本当にいきなりだったんだよ……」
そこから聞いた話は凄かった。めっちゃ日本人だったのにいきなりハーフになってたとか、読モだとか自分のモノになれとか……。仲直りしたいみたいな事言われたみたいだけど、とてもじゃないがそうは思えない感じだな。
一体何がしたかったんだ?
「それで、今年の春からこっちに戻ってきてるみたい。まっちんのお母さんが後で僕の家に挨拶に来るって言ってたから、もしかしたら翔平の家にも行くんじゃない?」
「え、なんで?」
「親達は結構仲良かったみたいだし」
「そうなのか。それも知らなかったな。ところで──香帆はなんでそんな怯えてるんだ?」
俺が、珍しく大人しい香帆に視線を向けてそう言うと香帆の肩がビクッとなる。いつもなら茜にベッタリなんだが、今日は俺の背中に隠れるように歩いていた。
「だ、だってその人……。いきなり高笑いしたりするんだもん……」
あぁ……。確かにそんな事もしてたな。確かにあの頃のビビりの香帆には怖かったかもしれないな。
「めんどうな事になんなきゃいいけどなぁ……」
「僕も今回ばっかりはそう思っちゃうね……」
「うぅ、怖い……」
そんな話をしながら歩き、途中で香帆と別れると俺と茜は学校に向かった。
◇◇◇
教室に入ると既に和野と美桜が来ていた。
ちなみに、校門のところで千衣子を見かけてお互いに目は合ったんだけど、ボッと顔を赤くすると早足で校舎の中に入って行ってしまった。恋愛実習生には昨夜の事は大分刺激が強かったみたいだな。
あぁそうだ。後で茜達にも彼女出来たの言わないと。千衣子に許可取ってからな。
「ういーっす。和野も美桜も今日は早いな」
「和野君おはよう。進藤さんもその……おはよ」
俺と茜がそれぞれに声をかけると、返事はすぐ帰ってきた。
「あ、深山ハヨハヨ。えっと……三枝も……オハヨ……」
ん? なんだこの二人。変によそよそしいな。昨日の野村の件でなんかあったのか?
「フッ……。よう。翔平に茜。フッ。俺が今日こんなに早く来たのはな? フッ。訳があるんだよ。……フッ」
「おい。お前さっきから「フッ……」「フッ」てなんだよ。イキってんのか? 辞めとけよ? 流行んねぇから」
「ち、違うわっ! 鼻が詰まってんだよ! ちょっと鼻風邪気味でな……」
「鼻風邪か……。それは辛いな……」
「こんなイケメンなのにな」
「いや、それは関係ない」
本当にこいつは何言ってんだ? 確かに顔はいいけど。それ以外が残念すぎる。まぁ、裏表がない良い奴ではあるんだが。
「んで、その訳ってなんだ? 昨日の願望丸出しメッセに関係あんのか?」
「その通りだっ! てか、丸出しとか言うなよっ! 俺にとっては由々しき事態なんだ」
その通りなのかよ……。
そして俺達が席につくと和野は語り始めた。
「実はな? ウチの両親が来月から海外出向らしいんだ。それで一人暮らしヤッホイって思ってたんだ。そしたら、いきなり近くに住む幼なじみの大学生のお姉さんが来て、「私が景馬君の面倒みるからね?」って言い始めんだよ……」
「お前はどこの主人公だ」
俺がそう言うと和野は複雑そうな顔になる。
なんでだよ。いいじゃん。お前年上好きなんだからそのままイチャイチャラブコメしろよ。
「俺は……どうしたらいいんだ?」
「何を?」
「俺の理性がどれだけ耐えられるかだ。これから一緒に住むようになったらきっと、着替えのタイミングでドア開けちゃったり、うっかり一緒にお風呂イベントとか、たまたま俺と一緒にいただけの女の子への嫉妬イベントとかあるだろ? 俺はそんなことになったら自分を押さえられる自信がないぜ?」
……こ、こいつすげぇな。
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