第43話 同棲するのを簡単に親が許すわけがない
~和野 景馬視点~
まったくさぁ……。
こっちが真剣に話してるのに、翔平といい茜といい更には美桜まであんな死んだ目で見なくてもいいじゃんか。
同棲だぜ? 同棲! アニメやラノベでよくある展開で一度ならず何度でも憧れるシチュエーションだろ?
しかも年上のお姉さまだぜ!? 手取り足取り……うっへっへ♪
更に、昨日おっぱい先輩にフラれて傷心の俺にはダイレクトヒットだぜ!
さて、今日は両親が引越しの準備するって言ってるから俺も手伝わなくちゃあいけない。
一緒に行くか? って言われたのを断固拒否して手に入れた夢の一人暮らし! 手伝わないわけがないのだ!
「たっだいま~」
「あぁおかえり景馬。ちょうどさっきまで
「なんですとっ!?」
「ちょうど入れ違いになったわね」
「くっ! もっと早く帰って来てたら……」
なんたる失態!
ちなみに麗流さんってのが俺の面倒を見てくれるって言った人で、大学二年生の弾け飛びそうなダイナマイトボディにパーマのかかった金髪! 艶やかな赤い唇に妖艶な吊り目のお姉さまだ。昔からの幼なじみで、よく遊んで貰っていた。今でも会えば話するし、可愛がってもらえてたんだ。
そんな人と入れ違いだなんてっ!
まぁいい。いずれは同棲なのだ。焦る必要は無いのだ。
──そう思ってた時期がありました。
両親が海外へと飛び立って行ったのが昨日のこと。
そしてその日の夕方、スーパーの袋と大きなバックを持って麗流さんはやってきた。
「けーまくん。来たわよぉ~♪」
「麗流さん! 待ってました! 上がって上がって。それはもう自分の家のように! あ、荷物持つね!」
「もうっ! けーまくんったら。ご両親いなくてさみしくないのかしら?」
「そりゃあもう麗流さんが居てくれたら全然!」
「ふふふっ、嬉しっ♪ 今からご飯の準備するからね?」
んぉぉぉぉ!! これはあれか!? 実は前から好きだったパターンなのか!?
翔平に茜すまん。俺は一足先に大人になるぜ……。
俺はキッチンの椅子に座り、テーブルの上に麗流さんの手料理が並ぶのを待つ。どんなの作ってくれるのかな? 肉じゃが? カレー? それともちょっと凝った料理だろうか?
そう思っていると、目の前にさっき持っていたスーパーの袋が置かれた。
「色んなの買ってきたからけーまくんが好きなの選んでね? 私は残ったのでいいから」
そう言われて袋の中身を出すと、スーパーの弁当と惣菜がテーブルの上を埋めつくした。
ふむ。麗流さんも大学生生活がいそがしいんだろうな。無理はさせられないし手料理は今度に期待しよう。俺も色々手伝わないと。
「じゃあ俺はこれで」
「うん。なら私はこれね」
二人でそれぞれ一つの弁当を選ぶ。
「これだけあったら一週間位は持ちそうだよねぇ?」
……!?
い、一週間!? う、麗流さん? これ、賞味期限ってのがあるんですけど!?
うん、多分聞き間違いだろう。うん。
そして食事が終わると今度は顔を赤く染めながら麗流さんはこう言った。
「あのね……けーまくんはもうお風呂入った?」
「ま、まだだよ。ちょうど沸かしてるときに麗流さん来たからさ」
「そうなんだ。じゃあ入ってきちゃう? 私もその後イイかな?」
「も、もちろん! じゃあパパッと行ってくる!」
「ちゃんと綺麗にしてきてね? ちゃぁ~んと♪」
「う、うんっ!」
おいおいおい! 俺どうなっちゃうの!?
──ふっつうにお風呂からあがりますた。乱入イベとかもなかった。
「じゃあお風呂借りるね? 覗いちゃやぁよ?」
そう言ってお風呂に行く麗流さん。
……これはフリなんだろうか? フリだとしたら覗きに行ったとしても許されるんだろうけど、フリじゃないとガチで怒られるよな?
うん、辞めとこう。きっと近いうちに起こるラッキースケベに期待しよう。
麗流さんがお風呂に行ってから約三十分後。廊下から物音がすると、リビングに俺ん家に来たままの格好の麗流さんが入ってきた。
あれ? パジャマじゃないの?
「お風呂ありがとね。温まったわぁ~~♪ 私のウチ浴槽壊れてて最近シャワーばっかりだったのよぉ」
「あ、そうだったの?」
「そうなの。だからこうして足を伸ばして入れたのは久しぶりなの。ありがとねぇ」
ぶっちゃけ、麗流さんちの風呂事情よりも俺には気になる事がある。
麗流さんの胸が……しぼんでる? 風呂に入る前よりボリュームが無いような……。気のせいか? いや、気のせいじゃないな。明らかに小さくなっている。どういうことだ?
そんな事を考えてると、麗流さんがバックを持ってこう言った。
「じゃあ私帰るわね? あんまり夜更かししないのよ?」
「えぇっ!?」
「どうしたの? そんなにびっくりして」
「いや、てっきり泊まっていくものだと……」
はぅわっ! つい本音がっ!
「あはは、あははははは! もうけーまくんったら。そんなわけないじゃない。いくら面倒を見るからって泊まったり一緒に住んだりする訳ないでしょ? 普通そんなの簡単に親が許すわけないでしょ? 私のお母さんも遅くなる前に帰ってきなさいって言ってたしぃ」
「なん……だとぅ!?」
「それにもう高校生でしょ? 自分の事は自分で出来るようにならないとダメよ? もう、ホントにどんな事考えてたのかなぁ? ダメなんだぞぉ♪ そんなのはアニメや漫画の中だけにしときなさいよ?」
「んなっ!?」
ぐぅぅぅっ! 夢も希望もねぇっ!
「ふふふ、じゃあまたね? 合鍵は貰ってるから、時々ちゃんと掃除とか洗濯してるか見に来るからね?」
「う、うん……」
「じゃあバイバイ♪」
そういうと麗流さんは玄関から姿を消した。
そして俺は一人ぼっちになる。
ぬぉぉぉお!! 俺が見たアニメとか茜に進められたラノベではこういう時は絶対に同棲開始になってラブラブイチャイチャになっていたのにっ! これが現実かっ!!
はぁ……。そうだよな。所詮は創作。そんな都合いい事なんて起きないよな。
俺は意気消沈しながら洗濯する為に脱衣場に向かう。
すると脱いだ服を入れる籠に見覚えの無いものがある。こ、これは!?
麗流さんの胸部装甲じゃないかっ! でっかっ! 見てみるとフックの裏に文字が書かれたタグみたいなのを見付ける。もしかしてここには!?
そしてそこを手に取って見てみると、思った通りサイズが書いてあった。
Eだとぅ!? け、けしからんっ! だが素晴らしいっ! けどあれ? 風呂から上がった時そんなに大きかったか? 昨日フラれた先輩はDだったけど、それより無かったような……。
するといきなり装甲の一部が下に落ちた。
壊したか? って思ったけどそれは違うようだ。
床に落ちたのを手に取ると、それはレモンのような形で中に液体が入っている。なんだこれ?
と、その時──
「けーまくん? 何を見てるのかな?」
「んをっ!?」
「いい? 今見たことは忘れるの。分かった?」
突然現れた麗流さんはそう言うと俺の手から胸部装甲を取り、俺が頷いたのを確認するとトイレに行くと、再びダイナマイトボディに戻って静かに立ち去って行った。
なんてこった。偽乳だったのか……。まぁ、それはそれで……うん。
そして翌日。バイトが終わって家に近づくと部屋に明かりが付いていた。
麗流さんが来ている!? そうか! 昨日あんなに弁当買ってたもんな! あれには麗流さんの分も入ってたんだ!
テンションが上がって急いで鍵を開けて中に入る。玄関には女物の靴。キタコレ!
「ただいまっ!」
「こりゃ景馬っ! 冷蔵庫が弁当ばっかりでねぇか! こったのばっかり食ってっからおがんねぇんだ! 今日からばあちゃんが同棲すっからな! おめのとっちゃとかっちゃさ頼まれてだんだ!」
家にいたのは婆ちゃんだった。
同棲とか言うのやめてくれ。せめて同居にしてくれ。
俺はすかさずスマホを出して父さんにコール。
「どうした?」
「婆ちゃんいるんだけど」
「頼んでおいたからな」
「なんで?」
「当たり前だろう? 金だけ送って子供を一人で置いてくなんて薄情な事をする親だと思ったか?」
「そうであって欲しかった……」
「残念だったな? 麗流ちゃんとイチャイチャ出来なくて」
「んなっ!?」
「ふはははは! お前の考える事はお見通しよ! なんと言ってもお前は俺の息子だからなっ! まぁ、がんばれよ? じゃあな」
そして電話は切れた。
──ふっ。
ラブコメの主人公になりたいぜ……。
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