第59話 元々イケメン。オシャレをして更にイケメン。だってこれからデートだもの

 今日は日曜日。

 僕は朝から翔平の家に来ていた。

 しかも九時とか十時じゃなくて、今の時刻は七時。ほんとに朝なんだよね。


「おい茜、動くなっての」

「あ、ごめんごめん」


 そして今は、翔平に髪型を整えてもらってるところ。なんでかと言うと、今日は翔平と東雲さん。そして僕と美桜ちゃんの四人でダブルデートに行くから。

 この前、翔平の部屋に来て話してた事が本当になったんだ。てっきり冗談だと思ってたのに。

 それで今はその準備をしてる。服も自分のと翔平のを組み合わせてコーディネートしてくれた。

 なんでこんな早くから準備してるかと言うと、翔平曰く「邪魔が入るから」だって。よく分からないけど、目が真剣だったから僕は頷くしかなかった。

 ただ、二階に上がってきた時、香帆ちゃんの部屋の前に机とか置いてあって、ドアノブがロープで縛られてるのを見て何となく察したけど。


「よし、完成だ。……しっかしまぁ、あれだな。しっかりセットすると本当にイケメンだなお前は。いや、元々だけどさ」

「そ、そんな事ないって! でもありがとね。美桜ちゃんもそう思ってくれるかな?」

「ん? 美桜はもう……あ、いや、それは会っての反応を楽しみにしとけ」

「え、なにそれ? 気になるんだけどぉ!?」


 翔平が気になる事をいうから聞き返したその時、隣の部屋から声が聞こえてきた。声っていうか叫び?


『えっ! ちょっとドア開かないんだけどぉ!? な、なんで!? ちょっ! まっ! トイレに行きたいのにぃぃぃ! あ……やばいやばい! あぁぁぁぁぁぁっ!!』

「あ、やべ。まさか休みの日にこんな早くに起きるとはな……。家を出る前に解放する予定だったのに……。茜、音を立てずに待ってろ」

「うん……。てか翔平は鬼だね。最近、香帆ちゃんの叫び声しか聞いてないような気がするよ……」

『耐えて! 耐えるのよ香帆! 乙女の尊厳がががががっ!』

「これもまた愛の形だ。つーかそれを言ったらお前ん家だって似たようなもんだろうが。物理的に」

『んひっ! ちょ……あかん。気を散らさないとまじであかん……。お湯を沸かす物。それはやかん。やかんからは何が出る? ……あぁぁぁぁぁ! 気の散らし方間違えたぁぁ!』

「ん、それについては何も言えないや……」


 僕がそう答えると翔平はドアを開けて廊下に出ていった。するとすぐに何かを引きずるような音の後すぐに、バタンッ! と、勢い良くドアが開く音が続き、それと同時に香帆ちゃんの声も聞こえた。


『しょう兄ちゃんのギガアホ! メガアホ! テラアホォォォ! 今度しょう兄ちゃんのパンツ全部にエアーサロン○ス吹きかけてしっとりさせてやるんだからぁぁぁ!』

『そんなことしたらお前の偽乳製造パット全部捨ててやる』

『おにぃぃぃ!』

『ん? なんだい妹よ。おにぃぃぃちゃんだよ?』

『そっちお兄じゃないっ! ムが付くムカつく鬼の方! ってそれどころじゃないのよ! トイレトイレ────お父さん早く出てえぇぇ!』


 本当に翔平の家はいつも楽しそうだなぁ……。

 と、そこで翔平が少し急ぐように部屋に戻ってきた。


「よし茜、香帆がトイレに入った! 少し早いけど今のうちに行くぞ! 朝飯は駅前のカフェでとるってことで!」

「え、あ、うん」


 僕と翔平はお互いに自分の財布とスマホを持つと玄関に向かう。靴を履き、玄関のドアノブに手をかけたところで──


「ま、間に合った……。良かった……ってあれ!? しょう兄ちゃんこんな早くにどこ行くの!? しかも茜君も……え、うそ、やばい。何その格好と髪型。超カッコイイ……」


 トイレからお腹を掻きながら香帆ちゃんが出てきた。だけど、名前はわからないけどなんかスケスケなの着てるから僕はすぐに目を逸らす。本当は僕だって男だから気にはなるけど、やっぱこういうのは見ちゃダメだしね。他に好きな人もいるんだし。


「げ、見られた。茜行くぞ!」

「わ、わかった!」

「待って! 香帆も行く! 茜君待って! そして抱いてぇぇぇぇ………………」


 翔平に合わせて少し早歩きをすると、どんどん香帆ちゃんの声が遠ざかっていく。

 最後の方なんて言ったんだろ? 全然聞こえなかったや。


 駅前のカフェに着くと、僕達は窓際のテーブルに座った。その後、軽くサンドイッチとコーヒーを頼んで時間を潰してると、窓の外にこっちに向かってくる美桜ちゃんを見つけた。


 薄めのオレンジで膝丈くらいのワンピースに、白いカーディガン。頭にはワンピースと同じ色のリボンを付けていた。


「可愛い……」

「へぇ……。茜が女子見てそんな事言うの、アニメ以外で初めて聞いたかもな」


 なんだよ。うるさいなぁ。しょうがないじゃないか。……好きなんだから。

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