第48話 二人の目線。周りの視線。

 月曜日。

 いつもより早く家を出る。もちろん一人で。

 向かう場所は千衣子との待ち合わせ場所の駅だ。早起きして髪もセットしたし、昨日は早く寝たから眠気も無い!

 楽しみすぎて心無しか歩くのも早く……いや、めっちゃ意識して早歩きしてる。

 彼女を迎えに行って一緒に登校する事は俺の夢であり憧れだったから遅れる事は絶対に許されないっ!


 ──早く着きすぎた。なんてこった。これもきっと足が長いせいだ。……くそっ! そういえば一人だからボケても誰も突っ込んでくれないんだった!


 ふぅ。さて、約束の時間まで後三十分はあるな。とりあえず近くのファーストフード店でコーヒーでも買うか。


 そう思って適当に目に付いた店に入ると、同じ制服を着てる奴も何人かレジに並んでいた。顔は見たことあっても名前はわからないけどな。とりあえずその列の最後尾に並んで、壁に掛かっているメニューを見る。初めて入ったけど、どうやらミルクティーも置いてるみたいだな。千衣子に買っていくか。


「あれ? 深山じゃない?」

「あ、ホントだ」

「なんでここに? 初めて見るよね?」

「しかも一人? おはおは♪」


 ……誰だ? ってこいつら二条の取り巻きのポニーテール佐藤とツインテール石田に、明乃の友達のサイドテール田中とパーマ井上じゃねぇか。なんで四人が一緒に? 仲良いのか? 教室では話してる姿とかを見た記憶無いけど。なんだろうな? 影でコソコソって感じなのかね?

 とりあえず声掛けられたからには挨拶は返すか。


「よう、おはようさん」

「ねぇねぇ、深山の家ってこっちの方だったの? この時間に初めて見た気がするんだけど?」

「いや、ちがうけど。ちょっとな」

「ふぅ~ん。三枝君は一緒じゃないの?」


 コイツらも茜目当てかよ。まったく……。


「残念だけど俺一人だな」

「え? 別に残念じゃないけど? あたし的には深山の方がタイプかな? ってぐらいだし。あ、ちょうど良かった! 深山って今フリー?」

「好きな人はいるな」

「えぇ~ざんね~ん!」


 取り巻き軍団の中の一人、パーマ井上がそんな事を言ってくる。フリーだと言って嘘は付きたくないから適当に濁す。あぁっ! 早く彼女いるって言ってしまいたいっ! てか、いきなりそんなカミングアウトされても困るわ!

 そこで列が進み、他の三人がパーマ井上に声をかけた。


「ちょっと留詩亜るしあ次ウチらの番だよ! 早く早く」

「あ、ごめんごめん! 加未来かみら沙久里さくり羅唯那らいなもあたしの事置いてかないで~!」


 …………!?

 お、お前らの下の名前初めて知ったぞ……。


 やがて俺の順番になり、自分の分のコーヒーと千衣子のミルクティーを頼む。ミルクティーは紙袋に入れてもらい、俺は窓際で駅の方を見ながらコーヒーを飲む。

 ……おいおい、なんかすげぇ彼氏っぽくね!?

 これだよ! こんな感じに憧れてたんだよ!


「てかさぁ、マジで綾芽ありえなくない?」

「たしかに! けど、それ言ったら紫織もだよ」


 再びカップに口をつけたとこで、少し離れた席からそんな声が聞こえる。胸糞悪いな。あの四人組、わざわざ早い時間に集まって悪口言ってんのかよ。いつも一緒にいるのは見せかけだったのか?

 せめて誰もいない所で話せよな。気分悪いわ……。


「だよね! 綾芽も紫織もホントに……可愛いよねっ!」

「「「ねっ!」」」


 ん?


「だってさぁ? 聞いて聞いて! 綾芽なんてさ? 本当は助けられた時から三枝だって気付いてたのに声かけられなくてさ? 三枝のイメチェンきっかけになんとか! って感じなんだよ! 気付いて無かったなんて嘘までついてさ? 三枝が困ってるのにお弁当だって暴走しちゃって、なんてゆうか不憫可愛いっ! こないだなんて意味不明に水着姿の写真送ったんだって! まだ寒いのに!」


 ポニーテール佐藤がそんな事を言う。

 んんん?


「紫織だって凄いからね? 入学した時から三枝の事を気になってた所に、清楚モードで迷子になってホテル街入ったところで、変な男に連れていかれそうになった時に助けられたから、あれからずっと王子様呼びだからね!? コスプレ喫茶のバイトだって、三枝がオタって知ってからテナント経営してる親に懇願して始めたのよ? そしてコスプレ写真を山程送ったらしいわよ」

「はぁ……二人とも尊いわぁ……」


 サイドテール田中もそれに対抗するようにそんな事を言い、ツインテール石田も同意した。

 え、あの二人そうなのか? そうだとしたらとんでもないヒロインムーブなんだけど。俺、変な誤解してたの心の中で謝罪するんだけど。

 そこでパーマ井上が言った。


「けどそれさ? 事情を知ってるあたし達は二人が可愛いのはわかるけど、周りから見たらただのウザイ手の平クルンクルン女子だよね?」

「「「そこがいいんじゃないっ!」」」


 あ、三人揃った。


「三枝がそれを知った時の!」

「ギャップ萌えから来る!」

「トキメキがっ!」

「「「あぁぁぁぁぁぁ~~!!」」」


 小学校の卒業式かよ。

 うん。まぁ、こういう友情もあるんだな……。

 まぁ、もう遅いけど。

 あ、そろそろ時間だし千衣子の迎えに行こっと。


 ◇◇◇


 店を出て駅に行くと、ちょうど電車が来たところだった。改札の近くで待っていると、人混みの中を歩いてくる千衣子の姿を見つけると同時に目が合った。その瞬間僅かに微笑む顔が可愛くてやばい。


「お、おはようございます」

「おはよ。コレ買っといた」


 そう言って紙袋からミルクティーを渡す。

 千衣子はそれを受け取ると、びっくりして視線が俺とカップを何度も往復する。


「あ、私が好きなやつ……。ありがとうございます。じ、実はこういうの憧れてたので凄く嬉しいです。へへ……」


 ハニカミ千衣子が可愛い。超可愛い。


「実はさ、俺も憧れてたんだよな。ちょっとカッコつけすぎかもと思ったけど、喜んでくれたなら良かった」

「そんなことないですよ~。ふふ、もしかしてテレてます? なんか珍しくて新鮮です♪」


 そんな勝ち誇ったような顔で下から覗き込むな。抱きしめたくなるだろうが。

 さて、俺もやり返すか。言葉でな。


「この前の千衣子の頬にキスする為の作戦の時程ではないけどな?」

「ちょっ! それを言うのはズルくないですか!? って思い出しました! 聞いてくださいよ! あの時、お母さんも縁お姉ちゃんも私に嘘のメール送って二階から覗いてたんですよ。酷くないですか!? もうほんとに恥ずかしくって……。しかも怒ってるのにずっとニコニコしてるんですよ?」


 知ってる知ってる。

 怒ってる声聞こえたし。


 そんな千衣子の愚痴や、休みに何をしていたかとかを話しながら俺達は学校に向かって歩きだした。

 何故かやたらと視線を感じるけど、多分見たことない俺が歩いてるからだろう。

 そしてその視線の中に、ウニ、ギト、ノリの三人もいた。さすがに前みたいな奇抜な髪型にはなってはいない。つーか、なんであんなに睨んでくるんだ? 俺と千衣子を交互にみては、コソコソと話して、早足で立ち去って行ったのががなんか気になる。


 なんだろな?


 まぁ、とりあえず隣で一生懸命喋る千衣子が可愛いからいいか。

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