第49話 欲張りで純粋な独占欲
学校に着くと登校中よりも視線を集めている気がする。さっきまでは珍しい物を見ているような感じだったけど、今は見られているというよりは見下されてる感じか? いくつかはそんな感じの視線があった。
下駄箱の所で千衣子と別れてからは尚更だ。
なんだってんだ?
よくわからないままで教室に入る。
すると、先に学校に着いていた茜が真っ先に俺の所に来た。
「翔平! ちょっと早く来て!」
「んあ? どうした茜」
「いいから!」
血相を変えてきた茜に連れられてベランダに向かう。そこには美桜と、何故か泣きそうな顔の和野がいた。
そして完全に窓を閉めると茜がこう言った。
「翔平と東雲さんの事が噂になってるよ!」
「なんで? あぁ、一緒に来たからか。けど、そんな騒ぐ程の噂に普通なるか?」
「違うよっ!」
まぁぶっちゃけ、付き合ってる事を茜以外の奴に言ってないから、一緒に登校すればそれだけで勘違いした目で見る奴もいるとは思っていた。千衣子はそれをわかってるのかわかってないのか知らないけど。
だけど違うってなんだ? 他にどんな噂があるんだよ。
「前に朝から変な事言ってきた三人組覚えてる? その人達が翔平の事を悪く言ってるみたい」
「悪くって?」
「はいはーい! それは美桜から言いまーす!なんかね?【深山は目立たない子を捕まえて貢がせようとしている】ってね。それと、深山の事を気になってた女子は逆に【深山の弱みを握って付きまとってる】とか言ってるみたいよん。ただ一緒に登校しただけでこんな早く広まるなんてSNSって凄いよねぇ……」
「なんだその少女マンガとラブコメの修羅場を足したような急展開は」
マンガでよく見る定番のパターンだと、千衣子がメガネを取って髪型変えて登校してうわぁ凄い美人! とか、俺が生徒が集まってる中で愛を囁いて大円団! とかなんだろうけど……さて、どうしようか。
そして気になる事がもう一つ。
「それで、和野はなんでそんな凹んでんだ?」
「……お前にはそんな嫉妬とかやっかみの噂が流れたというのに、俺の噂はほとんど【和野? あぁ、顔はいいよね。顔は】ばっかりなのは何故だ……」
「「「………」」」
「ぢっぐじょぉぉぉぉ!」
和野はベランダから出ていってしまった。
さて、話を戻そうか。てか、これはアレだな。千衣子には悪いけど、美桜にも付き合ってる事は言っておこう。心配してくれてるんだし。
「あのな美桜、実は俺と千衣子はもう付き合ってんだよ。先週から」
「え、えぇぇぇっ!? そうなの!?」
「あぁ、茜にはもう言ってあるんだけどな」
「え、そうなの? 茜君!?」
「あ、あはは、実は聞いてたんだ。ごめんね美桜ちゃん、隠してて」
「ぶぅ、後でプリン奢ってもらうから」
……茜君? 美桜ちゃん? お前らそんな呼び方してたっけ? え、ちょっと待った。この土日で何かあったのか!?
「なぁお前ら──」
「それで翔平はどうするの?」
さ、遮られた……。まぁ、後でちゃんと聞かせてもらうか。
「どうすっかなぁ? こういうのって勝手に収まるのを待つしかない気もするんだよな。今回は俺だけど、これが別の奴でもこういった噂って流れるだろ?」
「そうだけど、翔平は怒ってないの?」
「そりゃムカつくけどな。ただ、実害がないからなんとも。あ、でもこの噂はきっと千衣子の耳にも入ってそうだな。それで嫌な思いをしてるのは勘弁ならん。マンガにあるように夜中に校庭に入って、愛してるとか白線で書いてみるとか?」
「「それはない」」
揃って否定するなよ。
さて、ほんとにどうしてくれようか……。
とりあえず千衣子にメッセ……はやめとくか。もし噂を聞いてなかったら変に気苦労かけそうだ。後で二人の時にちゃんと会って話した方がいいな。
そんな事を考えながら今は昼休み。
俺の予想も出来ない事が起きた。
それはいつも通りに飯を食おうしていた時、一瞬教室がザワっとなると一気に静まり、次の瞬間──
「み、深山君……」
俺の隣に顔を真っ赤にした千衣子が来た。
「千衣子!? どうし──」
「い、一緒に食べたくなりました。いつもの場所に行こ?」
千衣子はそう言うと俺の袖を掴んで引っ張る。俺はすぐに空いた手で弁当を掴むと、そのままの状態で千衣子に引っ張られて「わりぃ!」と茜達に言うと廊下に出た。
すると今度は、引っ張っていた袖を離すと腕にしがみついてきた。胸の感触がヤバい。
は? え? 千衣子さん!? そんな事するタイプでしたっけ?
思わず顔を見ると、今までに見たことが無いくらい赤く染まっている。
そりゃそうだ。教室から廊下までずっと視線を集めているんだから。
そして歩き出す。おそらく向かう先はあの空き教室だろう。
「ち、千衣子? どうしたんだ?」
俺は思わずそんな事を聞く。
すると小さな声でボソッと、
「う、噂なんて全部嘘です……。ちゃんと私の……彼氏なんです……」
そう呟いた後、
「深山君は! 私の彼氏だもんっ!!」
こっちを見てる奴らに聞こえる程の声でそう言い放った。
そして更に集まる視線の中、俺達は階段を上がっていく。
──誰か俺の熱くなった顔を冷やしてくれ。
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