第45話 いきなり親バレあたふた!
さぁ! 今日は休みだ! 俺は休みだからって惰眠を貪らない。勿体ないからなっ!
それに今日は予定もあるし。
起きてから朝飯食って二階の廊下と階段の掃除もした。
よし、美容院に行かないと。
髪が伸びてきたのもあるけど、休み明けの月曜は千衣子を駅に迎えに行って一緒に登校だから、気合い入れてかねぇと。
茜に貰った割引券もあるしな。
ちなみに茜には昨日の帰りに彼女が出来たことは言ってある。ビックリはしてたけど、「良かったね」ってそれだけ言ってくれた。
その時にこの割引券を貰ったのだ。
茜が言うには、こないだのペンキ被り事件で会ったあの乳揺れお姉さんがくれたらしい。なんでもそのお姉さんの家で経営してる美容院らしく、割引券を束で貰ったとか。「大学が休みの日はここでバイトしてるからいつでも来てね? 髪切らなくても来ていいからね?」って言われたとかなんとか。
だから今日は試しにそこに行って見ることにした。割引して貰えるならその差額が俺の手元に残るしな。
というわけで電車に乗ってやって来ましたその美容院。
名前は【EAST CLOUD】 うん。割引券に載ってる名前と同じだからここだな。
店に入ると見覚えのある人が案内にやってきた。あの乳揺れお姉さんだ。
「いらっしゃいませぇ……って、あれ? あれあれ? どこかで見た事あるような? むむ?」
「どうも。友達からこれ貰ってきたんですけど大丈夫ですか?」
そう言って俺は割引券を見せると、お姉さんははっ! とした顔になって俺を見てくる。どうやら思い出してくれたようだ。
「あぁっ! これ、こないだの子に上げた特製のやつじゃん! 君、もしかして私が脚立から落ちた時にいた子?」
「はい」
「そっかそっか! 全然おっけぃよ? ちなみにあの子は一緒じゃない……みたいね?」
言いながら俺の後ろを見たりするけど残念ながら俺一人だ。
「まぁ、こないだ切ったばかりだからしょうがないっか。それにしてもあの子は変身させがいがあったなぁ。 元が良いから尚更ね♪ さて、今日は君をカッコよくしてあげないと! こっちの椅子に座って待っててね。今準備するから」
言われた通りに案内された椅子に座る。隣には手には閉じた雑誌、顔には口元と鼻の部分だけ穴の空いたタオル……おそらく蒸しタオルかな? を乗せたジャージの女の人がいて、それ以外に客はいないみたいだ。まぁ、朝一で来たからそんなもんだろう。
少し待つとシザーバックを付けたお姉さんが戻って来た。
「じゃあ始めよっか! どんな感じにする? ちなみに君の名前は?」
「深山です」
ガタタッ! バサッ!
俺が名乗った瞬間、隣から何かがぶつかったような音と何かが落ちた様な音がする。
なんだろうかと思って下に視線を向けると、床には雑誌とタオルが落ちていた。そのまま顔を上げるとそこには──
「あれ? 千衣子?」
「み、深山君!?」
急いでメガネをかけた千衣子がいた。
なんだ。千衣子はここの美容院使ってたのか。会えると思って無かった休日だから結構嬉しい。
「あれ? 君はこの子の事知ってるの?」
お姉さんがそんな事を聞いてくる。知ってるも何も……
「俺の「待っ──」彼女です」
「あぁっ……!!」
千衣子が何かを言おうとしたけど、それはもう遅かった。俺が彼女だと言い切った後、千衣子は小さく叫びながら両手で顔を覆ってしまった。
あれ? 言っちゃマズかった? 別に学校じゃないし頻繁に会う訳でもない他人だから良いかな? って思ったんだけど。
何故かお姉さんも千衣子の担当をしているスタイル抜群の綺麗なおばさんも固まっている。
けど、その理由はすぐに分かった。
「へぇぇぇ……。ってことは、二人は【恋人】ってこと?」
「え、えぇまぁ……」
「なるほどねぇ……。あ、そうそう! 自己紹介するの忘れてたわね。はじめましてこんにちは。私は東雲 縁。ちいちゃんのお姉ちゃんなの」
……はい?
「そして、今ちいちゃんの担当をしてるのが、【東雲
「へっ!? ち、千衣子……?」
状況が飲み込めないままで千衣子の事を見ると、両手で顔を覆ってままで頭を横に振ってイヤイヤしている。指の隙間から見える顔も、耳までも真っ赤になっていた。
はっ!? まじで!?
そしてその肩にお母さんっと呼ばれた店員さんがそっと手を乗せてニコニコしながら口を開いた。
「なるほどね……。珍しく千衣子の方から髪を整えて顔もパックとかやって頂戴! って言ってきたのはそういうことだったのね?」
「ふぁっ! そ、それを何で今ここで言っちゃうのよぉ! お母さんのバカぁぁぁぁ!」
これはアレか。二人とも同じ事考えてたって事だよな? なんか嬉しいのと同時に猛烈な恥ずかしさが襲ってくるんだけど!?
てかお母さんにお姉さんって! はっ! こないだの電話で言ってた一番上のお姉さんってのがこの人か! つーか、家族みんな胸が……おっと、これ以上はやめとこう。
「それにしてもちいちゃん、せっかく彼氏と会えたのにジャージ姿とはなんて間の悪い……」
「……あぁっ!」
そこで目線を下ろして自分の格好に気付いた千衣子がまたしてもあたふたする。必死に隠そうとするけど流石に無理だった。
そんな千衣子にお母さんが耳元で何かを呟くと、顔を赤くしたままコクンと頷き、椅子に背中を預けた。
一体何を言ったんだ?
つーかテンパり過ぎて千衣子と全然話せてないや。
「じゃあ深山君もはじめよっか! どんな感じにする?」
「えっと──」
それから俺のカットが始まった。その途中で千衣子の方は全部終わったみたいなんだが、母親と二人でどこかに行ってしまった。
そして俺の方もシャンプーの後、乾かして貰った後に軽くワックスを付けてもらって終わりだ。
「はい、完成! うんうん、いいねっ!」
「ありがとうございます」
「こちらこそどう致しまして♪ あ、ちょっと待っててね」
俺が会計をしようとすると、縁さんは奥の方に行ってこう叫んだ。
「ねぇどう? そっち終わったぁ?」
何がだ? そしてその叫びに対して母親の返事と千衣子の悲鳴が聞こえた。
「バッチリよ。今連れていくから」
「ひぃん! やっぱり無理無理無理っ!」
「いいから来なさい! さっきは自分で頷いたじゃないの」
「ひぃぃぃん……」
そんな声と一緒に奥から出てきたのは、今の季節に合った水色のワンピースに、白いカーディガンというシンプルな感じの服を着た千衣子だった。いつもおさげにしている髪はストレートに下ろしていて、片側に編み込みが一本。それがまた似合っていて可愛い。
相変わらず顔は赤く、メガネの奥の目は俺と目が合う度に逸らし、キョロキョロした後にまた目が合うと逸らす……を、繰り返している。
手も落ち着きが無く、前で組んだり後ろで組んだり、髪の毛先を握っては離し、頬に手を当てては「か、顔熱いぃぃ……恥ずかしすぎるぅぅ……」と小さく呟いている。
そんな姿を見て俺の口から出た言葉はただ一つ。
「可愛い……」
「……!」
自分の語彙力の無さにびっくりするけど、ホントそれしか言えなかった。
え、この子が俺の彼女? まじで? 幸せすぎんだけど。
「あ、ありがとうございますぅ……」
そんな事を言いながら上目遣いで俺を見てくる千衣子の姿に俺は目が離せず、自分の顔も赤くなってる事に気付けなかった。
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