第51話 誰にも邪魔できない空間

 俺達は今、教室に戻る為に二人一緒に歩いている。

 ちなみに千衣子は俺の袖を摘んだままで、俯きながら俺の少し後ろを歩いている。耳まで真っ赤にしたままでだ。


 あの後、予鈴が鳴った瞬間に我に帰った千衣子は、自分がしでかした大胆な行動に気が付くと、初めて見るくらいにテンパっていた。


「あ、わ、私っ! えっ!? おいでとか何しちゃってるの!? しかも自分で胸に深山君の顔埋めちゃったり……それに自分からキスとかって……え、え? ええっ!? 嘘でしょ!? もうやだぁぁぁ……」


 控えめに言って最高でした。俺、絶対忘れない。気分は最高潮だ。だから周りから向けられている視線すら何も気にならない。

 噂? なにそれ? はっはー! そんなんどうでもいいわっ!

 さて、千衣子がここまでしてくれたんだ。俺も俺なりのやり方で周りを黙らすとするか。


 元凶に報復? 文句を言う? 噂の否定の為に動く? そんな事するわけないだろ?


 もっと簡単な方法があるだろ?

 とりあえず今日の放課後から行動開始だな。


 ◇◇◇


 そして教室に戻ると茜と美桜が心配そうな顔で近くに来た。


「翔平、大丈夫? ケンカとかになってない?」

「なってないなってない。むしろその逆だな」

「逆? 何があったの?」

「悪いがこれは誰にも言えない。言わない。生涯の宝として俺の胸に刻み込んだままにする」

「……あ、うん。なんかもうそれで何となく分かったかも。すっごい顔がニヤけてるし」


 ん? そうか? そんなに顔に出てるのか?

 まぁいいか。


「茜くん、もう放っておいていいんじゃない?」

「そ、そうだね……」


 あっ! そうだ! この二人に何があったかも気になるんだった!

 いきなり名前呼びに変わってんだもんな。きっと土日で何かがあったはずだろ!


「なぁ、茜──」


 ~~♪


 そこでチャイムが鳴り、同時に先生が入ってきた。午後の授業の始まりだ。

 あ、また聞き逃した。放課後はやることあるから、夜にでも電話してみっかな?


 ◇◇◇


 ……という訳で放課後だ。俺は最後のチャイムが鳴ると同時にバッグを掴み、茜達に「じゃあなっ!」と片手を上げて挨拶するとすぐに隣のクラスに向かう。そう、千衣子のいる教室だ。


 俺は躊躇すること無くドアを開け、まっすぐ千衣子の元に向かう。目の前まで行くとやっと気付いたみたいで、顔を上げて俺を見るとびっくりしたような顔をした。


「……! え、深山君? どうして?」

「一緒に帰りたくて迎えに来た」

「ひぅっ!」


 俺がそう言うと途端に頬を染める。

 同時に教室内も少しザワつくが、知ったこっちゃない。

 千衣子が帰り支度が終わって席を立つと、俺は空いてる方の手を握る。


「ふえっ!?」

「いや?」

「え、あの……イヤじゃないですけど……恥ずかしい……」

「じゃあ帰ろうか」


 俺達はそのままで教室を出ていく。途中で三人衆がこっちを見てるのに気付いたけど、それも無視した。


 下駄箱で一度手を離したけど、靴を履き替えてからまたすぐに繋ぐ。しかも今度は恋人繋ぎで。


「深山君、あの……手が……あぅぅ」

「こっちの方が、繋がってるって感じがしていいなぁって思ったんだけど、まだ恥ずかしい?」

「恥ずかしいけど……私もこっちの方が好きです……」


 そう言うと俺の手をギュッと握り返してくれた。白く細い少しひんやりした指。だけど俺には一番暖かく感じる。


 そして校門を出て少し歩いた辺りで千衣子がこんな事を聞いてきた。


「あの、さっきのはいきなりどうしたんですか?」

「どうって?」

「ほら、い、一緒に帰りたくて……って……」

「あぁ。それはアレだよ。千衣子と同じ理由だよ」

「私と?」


 どうやらホントに分かってないらしく、「なんだろ?」って呟きながら首を傾げていた。いちいち可愛いのはなんなんですかねぇ!?


「俺も千衣子を誰にも盗られたくないから、俺の彼女だ! って所を見せつけてやろうと思ってな」

「っ! そ、そんな心配しなくても私なんて誰からも相手になんて……」

「俺がいるじゃん。俺は千衣子が一番可愛いと思ってる。他にもそう思う奴が出てくるかもしれない。だからそんな奴が出てくる前に……って感じかな? まぁ、独占欲的な?」


 千衣子の可愛さは俺だけが知っていたい。誰にも譲らない。重いか? 違うよな。誰だってそう思うはずだ。

 すると俺の手がさっきより強く握られ、千衣子が横から見上げるように俺を見てきた。


「そ、それってもしかしてヤキモチ……ですか? 私の事、独占したいんですか?」

「好きだからなぁ……」

「あ、あの、大丈夫ですよ? 私も深山──し、翔平君の事だけしか見てないですし、大好きですから。だから……私の事、独占しちゃっていいですよ?」


 ここで名前呼びはズルいだろ。

 しかも独占しちゃっていいとかって……。


「その代わり……」


 ん? なんだ?


「私も翔平君のこと、ずーっと独り占めしちゃいますね?」


 え、ずっとって……え?

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