第52話 穢れなき純白
あれから千衣子を駅まで送り届けた後、家に帰るとすぐに茜に電話した。
理由は簡単に分けて二つある。一つは茜と美桜の名前の呼び方が変わった理由が聞きたい。もう一つはただ単に千衣子がどれだけ可愛いのかを惚気けたかっただけ。
まぁ、さすがにこれは冗談だけどな。
「うわぁ……」って顔をされるのが簡単に予想出来るし。
『もしもし?』
お、繋がった。
「おぅ、今時間大丈夫か? 聞きたい事あってさ」
『大丈夫だよ。それに僕も翔平に言いたい事と聞きたい事あってさ。良かったら、今帰ってる途中だから家に行ってもいい?』
「おう、いいぞ。じゃあ待ってるわ」
『わかったよ。ついでにお菓子買っていくね』
「おっけー! 助かる! 飲み物はこっちで用意しとく。鍵は開けとくから」
「うん」
そう言って電話を切った後、俺は軽く部屋を片付けてから下に降りる。
冷蔵庫から缶コーヒー二本と、適当な炭酸飲料も手に取って二階に戻ろうとすると、夕飯を作っていた美帆さんが声をかけてきた。
「あら、誰か来るの?」
「あ、うん。今から茜が来るんだよ。お菓子はあいつが買ってくるから、俺は飲み物用意しようと思ってさ」
「そうなの。なら久しぶりに夕飯も一緒にどう? って聞いてみて? 今日はお好み焼きにするつもりだったから」
「おっ! やったね。じゃあ来たら聞いてみるよ」
そして再び二階に戻ろうとした時だ。
「お待ちなさいっ!」
そうだ。
つーかお前はどこの悪役令嬢だよ……。そしてソファーの上に立つな!
「……なんだよ」
「聞いたよ~? 茜君が来るんだよね? 香帆も一緒に遊ぶっ!」
「却下」
「なんでよぉぉぉぉ!!」
当たり前だろうが。お前がきたら話どころじゃなくなるにきまってんじゃねぇか。だから却下だ却下! それに……
「パンツ丸出しの妹はちょっとな……」
「んなっ!?」
多分リビングで着替えようとして、その途中でスマホに夢中になって忘れたんだろう。ソファーの背もたれにはスカートがかかっていて、上は制服のまんまだが、下は純白のフリルとリボン付きのパンツだった。
「うんうん。お兄ちゃんはそれぐらいのが年相応でいいと思うぞ」
「ち、違うもん! 今日はたまたまだし! 香帆にはもっと大人っぽいのが似合うんだから! 赤いレースのとか、紫のも持ってるんだから!」
「美帆さん、俺のお好み焼きは紅しょうがと揚げ玉がたっぷりでお願いします」
「そう言うと思って買ってきてるわよ~」
「あぁぁぁぁぁっ! またそうやって香帆の事スルーするんだからぁ! 待ってて! 見せて上げるからっ!」
香帆はそう言うとダッシュで階段を上がって行く。そしてすぐに降りて来ると、上下共に真っ赤な下着姿の香帆がリビングに入ってきて変なポーズを取った。
「どうっ!? セクシーでしょう?」
圧倒的に胸が寂しい。けどそんなことは言わない。ただ、俺と美帆さんは同時にため息を吐くだけ。
「「はぁ……」」
「言葉も出ないってことね? ふふん♪」
なんでそんな解釈になるんだ?
その時、玄関のチャイムがなる。多分茜だな。
さすがに香帆のこんな姿を見せる訳にはいかないよなぁ。香帆だって女の子だから恥ずかしいだろうし。
「茜が来たみたいだな。香帆、早く着替えろ」
「わかってるわよっ! もうっ!」
すると香帆はプリプリ怒りながら二階に上がるためにリビングを出た。
……あ。そう言えば鍵開けてたんだった。
「おじゃましまぁ──へ?」
「あ、茜君いらっしゃ──あぁっ!」
見事に鉢合わせたようだ。
なんなんだろうな? 茜の奴、昔っからこういうのが多い気がする。ラッキースケベっていうやつ? なんかずるい。今回は別にずるいとは思わないけど。
「あ、ごめん香帆ちゃん! 見ないからっ! いだっ! わ、わわわっ!」
ドスン!
「……っ! ひゃあっ!」
俺が廊下に出ると、下着姿の香帆に茜が床ドン状態で覆いかぶさり、茜の顔は香帆の胸にダイブしていた。
なんでそうなる? 不思議すぎて原因を探すと、何となく分かった。
茜の足元に帰ってから片付けてなかった香帆の通学カバンが倒れている。
多分こうだ。
香帆の姿に驚く。そして目を隠す。足元のカバンにつまずく。転ぶ。ドーン。
なんでやねん。
「あ、茜君のえっちっちぃぃぃ~!」
香帆は叫びながら茜を押し退けると、二階に向かって尻を振りながら一段飛ばしで登って行った。
なんでやねん。
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