第53話 【黄昏の窓際令嬢】

「あ~、なんかすまんな? うちの妹があんなんで」

「う、ううん……。僕も悪かったから。そうだよね。家にいたらあんな格好でいてもおかしくないよね。ちゃんと確認しておけば良かったよ」


 なんだその高すぎる理解力は。いやいや、おかしいのは香帆だぞ。いくら家の中でもあれは無い。俺も引いたから茜はおかしくないぞ。まじで。

 俺は気を取り直して、転んだ拍子に落ちた茜の眼鏡を拾い、それを渡しながら言った。


「とりあえず俺の部屋行こうぜ?」

「そうだね」


 部屋に入ると同時に俺が用意した飲み物を茜に渡し、茜も買ってきたお菓子をガラステーブルの上に広げる。ちなみにこのテーブル、ガラスが二枚重ねになっていて、一枚目をずらすと小さなマスの収納スペースが九つあり、そこに小物をいれておくとそのままインテリアになる。俺のお気に入りだ。今は時計と香水の空瓶とか入れている。


「で、茜に聞きたい事なんだけど──」


 俺が話そうとしたその時、コンコンと部屋のドアを叩く音がする。

 無視する。


 コンコンコンコン


 さらに無視


 コンココンコンココココンココン♪


 イラッ!


「ねぇ、翔平。これ香帆ちゃんじゃない?」

「そうだな。はぁ。ったくあの野郎……」


 俺は一度大きくため息を吐くと、立ち上がってドアを勢いよく開けた。


「おわっ!」

「お前コンコンうるせぇよ! なに!?」

「せ、せめて茜君に言い訳をさせてぇぇぇ」

「言い訳? なんの?」


 茜がするならまだしも、なんで香帆が?


「いいよ翔平。香帆ちゃんどうしたの?」

「や、やっぱり茜君ってやさしいっ! あのねあのね! さっき見たみたいな下着自分で欲しくて買ったんじゃないからね!? あれは友達と悪ふざけで買っただけなの! 普段は白でフリルとリボン沢山ついたやつとか、ピンクの水玉とか、水色と黄色のストライプとかだからね!」


 嘘を付け。

 ノリノリで「これで香帆も大人のお・ん・な!」とかって言いながら買ってきたじゃねえか。そして、なんのカミングアウトだよ。そんな情報いらねぇよ。


「あ、あはは……」


 ほら、茜も苦笑いじゃん。


「何言ってんだお前。昨日なんか黒のレ……んぐっ!」

「お黙りなさいっ!」


 だからお前はどこの令嬢だよ。最近ちょいちょいそんな言葉使うけどさぁ。


「あはは。それより、僕こそぶつかっちゃってごめんね? 痛くなかった? 」

「え、あ、うん。全然大丈夫。それに、茜君だったらいつでも触っても……いいよ?」

「あはは、そんな冗談は簡単に言っちゃだめだよ? 香帆ちゃん可愛いんだし」

「か、かわっ……可愛い!?」

「うん? 僕は可愛いと思うけど?」


 お、おぉ……。茜よ……。お前いつの間にそんな事を言うようになったんだ……。ほら見ろよ。香帆の奴耳まで真っ赤じゃねえか。

 なんだ? 何が起きてる!? 最近茜の周りには女しか集まってないぞ!?

 でも茜の事だから多分特に何も考えないで言ってるハズ。

 けどこれ、言われた方は多分……。


「あ、茜君……嬉しい……。ホントに嬉しい……」


 ほらな? 完全に落ちてるわ。

 しかも目は少し潤んでいて、顔は真っ赤。キュッと握られた両手は胸元に。左足はまっすぐに立ち、右足は少しカカトが浮いて膝も内側に若干曲がっている香帆。あれだ。よくあるラブコメヒロイン立ちだ。

 なんで俺の部屋でラブコメムーブ起きてんの?

 ちょっと? 俺の事視界に入ってる? おーい!


「だからそんな事言っちゃだめだよ? 勘違いする人だっているかもしれないんだから」

「じょ、冗談なんかじゃないの。香帆は茜君のことが──」

「僕はちゃんと好きな人いるから、そんな事はしないけどね」

「──好……え?」


 あ……。


「好きな……人?」

「うん、同級生なんだけどね。まだ、最近やっと名前で呼べるようになった位なんだけどね」

「そ、そうなんだー。あははー」


 うわぁ……棒読みだ。

 まぁ、あれだ。香帆、ドンマイ。


「それに、翔平にも彼女出来たし僕も頑張らないとなぁ」

「あっ! お前それっ!」

「……は? しょう兄ちゃんに彼女? え、なにそれ。香帆、初耳なんだけどぉ!? え、ホントに? 嘘でしょ!?」


 茜ぇぇぇぇ! 何で言っちゃうかなぁ! まだ言って無かったのに。天然か? 天然なんだな? 知ってたけどさっ!

 まぁいいか。別に隠す事でもないし、いい機会だ。


「これが嘘じゃないんだな。いるぞ。彼女」

「う、裏切り者ぉぉぉ!」

「なんでだよ!?」

「いいもんっ! いいもんっ! 香帆モテるもん! 学校でも【黄昏の窓際令嬢】って言われてるくらいだもん! バカぁぁぁぁっ! 恋人がダメなら二番目になってやるんだからぁぁぁ!!」


 そんな事を叫びながら部屋を出ていく香帆。

 いやちょっと待て! なんでそんな風に呼ばれてんだ!? めっちゃ気になるんだけど!

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