第61話 UFOキャッチャーは財布キャッチャー
さて、今日のダブルデートなんだが……特に決めていないっ! ノープラン! 無計画!
俺が千衣子の私服が見たいだけ……じゃなくって、茜と美桜をくっつける為に思いついたようなもんだしな。もちろんその事は千衣子にも伝えてある。
とりあえずこの二人の微妙な距離感をなんとか縮めたい。物理的にも、もちろん精神的にも。
とは言っても、俺達もまだ付き合ったばかりだから偉そうな事も言えないな。参考にもならないだろうし。
「にしても千衣子可愛いな。可愛いよ千衣子!」
「み、深山君……声にでてますよぉ……」
「ん? 胸の内におさめるつもりだったけど漏れてたのか。まぁ、聞かれて困るもんじゃないからいいけど」
「わ、私が困りますってば!」
顔を赤くしながらプリプリ怒ってる千衣子も可愛い。そんなに袖を引っ張らないで。いや、やっぱりもっと引っ張って。それ可愛いからずっと見ていられるもの。
「ところで翔平。みんな集まったけど、どこ行くの?」
「じゃ、俺達はデートを楽しむから」
「「嘘でしょ!?」」
いや、お前らほんと息が合うな……。
「嘘だよ。とりあえず、ゲーセンでも行くか!」
「あ、私ゲームセンターあまり行った事ないんです。小さい頃にお姉ちゃんに数回連れて行ってもらったくらいで」
「僕も久しぶりかも」
「美桜も~」
「ほんじゃいきますか」
それから俺たちは駅を出て少し歩き、大通りにあるゲームセンターに向かった。そこは二階建てになっていて、一階ではメダルゲームにスロットゲームやUFOキャッチャー等が音と光を放っている。
二階には格闘ゲームとプリクラの機械が所狭しと並んでいた。
俺たちはその中でも最初にUFOキャッチャーに向かった。
理由は簡単。千衣子と美桜はぬいぐるみに。茜はアニメキャラの景品に夢中だからだ。
「おい茜、美桜のやつクマなんだかタヌキなんだかよくわからんぬいぐるみめっちゃ見てるぞ。ここで取ってプレゼントとかしてやったらどうだ? お前UFOキャッチャー得意だろ?」
「あ、うん! そうだね。得意かどうかは別にしても、それはいいかもしれない」
「だろ? 俺は千衣子の欲しいやつでも狙ってくるか……」
「じゃあ……」
「「健闘を祈る!」」
と言うわけで俺は、千衣子が見つめている景品の前に来た。これは……なんだ? イヌ? キツネ? フェレット? 種族がよくわからない耳を生やした生き物のぬいぐるみがいた。
「なぁ千衣子。これ、欲しいのか?」
「はい……。これ、可愛いです。凄くフワフワで……」
「ふ~ん。ちょっとやってみるか」
あくまで自然に、特に下心や目的もないけど少しやってみようかな? くらいの雰囲気を全身から出しながら俺は財布から小銭を出す。
内心は俺が取ってあげて喜ぶ姿と、スゴーい! って目で見られたいという欲望が渦巻いている。それはもうグルグルと音を立てて巻き起こっている。
──三千円ほど使ったところで波ひとつ立たない穏やかな海になりました。
「深山君……もうそろそろ止めた方が……」
「ふぅ……これはあれだな……。きっとアームが弱すぎだな」
「みたいですね。今気付いたんですけど、ずっとグラグラ揺れてます。あ、でも私も一回やってみますね……あ、あ、あ! 深山君深山君! 引っかかりましたよ! そのままそのまま……やったぁ♪ 深山君取れましたー!」
「おぉぉぉっ! すげぇ! やったじゃん!」
結果、千衣子が一発で取りましたとさ。
くそぅ……。俺が取りたかった……。
そういえば茜のほうはどうだ? あいつ、まじで得意だからな。
そして俺はぬいぐるみを胸に抱えた千衣子を連れて茜達がいる方に向かう。そのぬいぐるみになりたい。
「これ……あげるよ。僕が持ってても仕方が無いし。美桜ちゃんこれずっと見てたでしょ?」
「茜君、ホントにいいの? 嬉しい……」
ラブコメってた。
あぁぁぁ! それ俺が彼女に言いたかったセリフベスト三十七位くらいかもしれなかったやつ!
「うん……喜んでくれるなら全然いいよ」
「ありがとねん♪ でも──もう六個目だけど?」
いやいやいや、取る量がエグいわ!
結局俺が取れたのは、下に散らばっている景品等を掬って前後に可動する台の上に落とし、欲しい物を押し出して獲得するタイプの物──の、景品獲得を邪魔してくるプラスチックで出来た透明な石みたいなものだけだった。
「み、深山君? 元気出してくださいね? 私、これも綺麗で好きですよ?」
「俺の彼女は可愛い上に優しい子だ……」
「なっ! 周りに人がいるのにいきなり何いってるんですか!?」
あっはっは。なにを今更!
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