第82話 一線を超えた後に彼女の態度が少し変わるのって悶えるよね?ね?

「さて、義弟へのサービスタイムは終わりだよ。他の生徒に見せるつもりはないからね」


 芽衣子さんはそう言うとわざと短くしていたスカートを元の長さまで伸ばしてから再び俺と千衣子に目を向けてくる。


「今からそっちに行くから待っていてくれ。…あれ? ハシゴが倒れてるじゃないか。ちいちゃんちょっとそこのハシゴを直してくれないか? 降りれないんだ」


 千衣子に向かってお願いする芽衣子さん。だけどその千衣子はさっきから俺の背中を軽く抓っている。


「お姉ちゃんのがサービスになったんですか? なんですぐ目を逸らさなかったんですか?」

「ち、違うって。いきなりの事でびっくりして体が動かなかっただけだってば」

「…………見たいなら私の見ればいいじゃないですか」

「へ?」


 びっくりした。昨日までの千衣子ならそんな事言わなかったのに。


「おーい。聞いてる? お姉ちゃん降りれないんだ。だんだん怖くなってもきたし、他の生徒にも凄くジロジロ見られてるんだ」


 千衣子は更に抓ってくる。


「翔平くんが見ていいのは私のだけです。……バカ」

「か、可愛い……」

「怒ってるのに可愛いってなんですか? そこはまずごめんなさいですよね? 私以外のを見たんですから」

「あ、はい。ごめんなさい……」

「今度からは見ないでくださいね?」

「はい。見ません」


 んん〜? いつもなら照れてるはずなのになんか違う。前より遠慮が無くなってるような?


「ねぇ、義弟くん? 聞こえてる? ねぇ」


 それにこんなに嫉妬を表に出してこなかったよな? いや、それは嬉しいんだけどなんだろう。この頭が上がらない感じは。


「ちいちゃんと義弟に無視された。泣きそう」

「ほら翔平くん、行きましょう。遅刻しちゃいます」

「あ、おう」


 そして、俺は千衣子に背中を押されながら校舎に入っていった。


「え? 待って? 本当にそのまま行っちゃうのかい!? ほ、ほら! 先生がこっち見てる! こっち来てる! あ、アーーーーッ!」


 ◇◇◇


「あ、翔平くん」

「おっと。どした?」


 お互いの教室に別れる時、急に袖を掴まれて引っ張られる。


「今日のお昼、いつもの教室に来てください。一緒に食べたいんです」

「…………」

「黙っちゃってどうしたんですか?」


 思いっきって聞いてみるか。


「いや、いつもなら恥ずかしがってそういう事言うのは俺からだったのになぁって思って」

「あ、確かにそうかもしれないですね……。でも、私をそう変えたのは翔平くんですよ?」

「俺?」

「はい。それに……」


 そこで千衣子は背伸びをして俺の耳元までくると小さく呟いた。


「(あんなに恥ずかしい思いをしたんですから、もうこのくらい平気ですよ♪)」


「っ!?」

「それじゃあまた後で」


 そう言って教室に入っていく千衣子。


「いや、ここ廊下なんだけど……」


 それから俺は冷やかしの声と謝りながら先生に連れていかれる芽衣子さんの声を聞きながら教室に入っていった。

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