第83話 甘々シュガシュガ砂糖砂糖な独占欲

「はい翔平くん、あ〜ん」

「あ、あーん」


 というわけで昼休み。俺と弁当を忘れた千衣子は一度購買に寄ってからいつもの場所に来ていた。

 そして隣合って座り、さて食うかってところで俺の手からパンは奪われ、千衣子の細く白い指でちぎられたパンが俺の口の中へと運ばれている。

 まるで小鳥の気分だ。


「おいしいですか?」

「ピヨピヨ」

「…………え?」

「いや、なんでもない……。うん、美味いよ」

「良かった♪」


 何が良かったのかがわからない。シールを集めて応募するハガキに感想でも書くんだろうか。今まではこんなことは無かったんだ。

 それ以外にも気になることがもう一つ。いつもなら恥ずかしがって拳一つ分の距離をとって座るのに、今日は近い。すごい近い。近いというかむしろピッタリとくっついている。おかげで右腕がピクリとも動かせない。俺の彼女にいったい何が起きた?


「なぁ千衣子、あのさ──」

「翔平くん、私、喉が渇きました」

「へ?」

「喉が渇いたんです」

「それならさっき一緒に買ったお茶があるだろ? ほら」

「…………」


 俺がお茶を手に取って渡そうとするけど、千衣子は受け取らずに俺を見上げて目を瞑っている。

 もしかして飲ませて欲しいのかと思って口元に近付けるけど、ふいっ! っと顔を逸らしてしまった。


「えーっと……え?」

「喉が……渇いたんです。唇も渇いてます。この意味、わかってくれますか?」

「え、ちょ、まさか……マジで?」

「…………」


 千衣子は何も言わずに俺を見上げる。

 これってあれだよな? もしかしなくても口移しで飲ませてくれってことだよな。まさか千衣子の方からこんなことを要求してくるなんて思わなかった。だけどこれに応えないで何が彼氏か!

 俺はペットボトルのキャップを開け、口の中にお茶を流し込むと飲み込まずに千衣子の顔を見る。

 肩に手を置くと一瞬ビクッとなるが、千衣子はすぐに目を閉じた。


 そして──


「ん……ふ……んぐ……んぐ……」


 唇を合わせて千衣子の口の中にお茶をゆっくりと流し込んでいく。小さくコクンコクンと喉の奥に流し込んでいる感覚が伝わってくる。

 そして全てを流し込んだ後、顔を離した瞬間に俺の手は千衣子に掴まれたかと思うと、すぐに胸に押し付けられた。


「へ?」

「いいです……よ? したいことしても。わたし、翔平くんがしたいことなら、どこでもなんでもしますから……」

「千衣子?」

「私の下着、み、見てもいいです……よ? ここ、誰も来ませんから」


 今度はブラウスのボタンを外そうとする。だけどその手を掴んで辞めさせた。


「あっ……」

「どうしたんだいきなり。今までこんなことしなかっただろ?」


 あまりにも不自然な行為になにかあったのかと思った俺は、真剣な顔で問い詰める。


「だって……」

「だって?」

「お姉ちゃんから言われたんだもん。「きっと義弟君の頭の中はきっと私のパンツでいっぱいだぞ!」って。だからそれを忘れて欲しくて……。翔平くんの彼女は私だから、私以外の人のは見て欲しくないんだもん……」

「あ、あの人は余計な事を……!」

「だからもっと好きになってもらわないとって思って……」

「大丈夫だから。俺は何があっても千衣子だけだから。もう好きの限界ギリギリまで好きだから!」

「ほんとに?」

「ホントホント!」

「良かった……」

「あの人の言うことを真に受けちゃダメだ。わかった?」

「うん。わかった。でも……ね?」

「ん?」

「翔平くんの為ならなんでもするのはホントだよ?」


 …………マジで?

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