第32話 告白① 好きの言葉

「さて、二人を呼んだ用件なんだが……」


 やっと本題かよ。つかれたわ。

 東雲さんは家でもこうなのか……。

 大変そうだな。


「実は私は図書委員なんだよ。それで貸し出しカウンターに置く花を花瓶で二つ程用意して欲しくね。先生に聞いたら美化委員に頼めって言うから二人を呼んだんだ。まったく……花なら私がいるのにね」

「花? どんなのでもいいの? いつまでに?」

「もう拾ってもくれなくなった……。そうだね。花の指定は無いから任せるよ。期限は特に無いんだけど早めの方がいいかもね。来週の頭には欲しいかも」

「そう、わかったわ」


 なんだよ。真面目に話せるじゃん。最初変な事言ってたけど。

 はい、終わり終わり。解散しよーぜ。


「じゃあちいちゃんは戻っていいよ。深山くん、君には残ってもらうけど」

「え、なんでですか?」

「君にはちょっと私に着いてきてもらうよ。花を入れる花瓶が必要だろう? 職員室にあるんだけどちょっと重くてね。図書室まで運んで欲しいんだ」

「まぁ、それくらいなら」

「なら行こうか」

「じゃあ深山君お願いしますね?」

「りょうか~い」


 東雲さんはそう言って部屋から出ていってしまった。さて、重い花瓶ってどんななんだ? 往復はめんどいから一度で運べればいいけど。


 その後俺も先輩と一緒に部屋を出た。一緒に歩いていると男子生徒が先輩をチラチラ見てるのがわかる。まぁ……見た目はいいもんな。見た目は。


「なぁ深山くん、ちょっといいかな?」

「なんすか?」

「君が朝言ってたことは本心から言っていたのかな?」

「朝?」

「ちいちゃんが可愛くて仕方がないって言ってたじゃないか」


 それか……。そういえばこの人に聞かれてたんだよな。まぁ、答えは決まってるけど。


「当たり前じゃないですか。むしろなんで誰もそれに気付かないのかが不思議なくらいですけどね」

「そうだね。それは私もそう思うよ。それは君の友達の三枝くんにも言えることだけどね」

「!?」

「そんな驚かなくてもいいじゃないか。私は君と一緒だよ。最近、一年で凄いイケメンがいるって聞いて私も見に行ったんだ。行ったというか連れてかれただけだけどね。そこで見た三枝くんと今朝見たメガネの三枝くん。私にはそんなに違いがわからなかった」

「なっ……!」


 この人……クラスとか他の奴と違う!?


「きっと三枝くんはちいちゃんと同じような事を言われてきたんだと思う。君ならわかるだろう? だから私は今朝の君の言葉を聞いてすごく嬉しかったんだ。やっとちいちゃんの可愛さをわかってくれる人が現れたとね。という訳で、これからも私の妹と仲良くしてくれると嬉しいよ」

「わかりました」


 俺はハッキリと答えた。当たり前だ。むしろ今日告白しようとしてるくらいだしな。

 すると突然前を歩いていた先輩が足を止めてこっちを振り向いた。


「うん。それならいいんだ。じゃあ教室に戻ってもいいよ」

「へ? 花瓶は?」

「あぁ、花瓶なら既に図書室に運んであるのさ。連れ出したのは君にこの話をしたい口実みたいなものだ。じゃあ私は行くよ。じゃあね」


 そう言うとクルッと背中を向けて歩いて行ってしまった。

 なんだよ。ちょっとカッコイイじゃねぇか。

 そんな事を思いながら教室に戻ると、茜の机の周りはやたら空気が淀んでいた。何があったんだ? 後で聞いてみるか……。


 ◇◇◇


 んで、あっという間に放課後になった。俺はもうあの空き教室に来ている。

 後は東雲さん来るのを待つだけなんだが中々来ない。

 暇つぶしでもしようかとスマホを出すと、ちょうど東雲さんから、


『ちょっとだけ待ってください』


 ってメッセが来た。

 なんか用事でも出来たかな? 来てくれるなら待つのは全然いいけど。俺はその旨の返事を返す。と、同時に


 ピロンッ♪


 と廊下から音がする。


「わっ……わわっ……」


 東雲さんの声もする。……なにしてんの?

 俺は椅子から立ち上がると入口に向かい、そのままドアを開けた。


「あ……深山君……えっと……」

「来てたんだ。どしたの?」

「ちょっ、ちょっと待ってください!」


 そう言うとまたドアを閉められた。なんで?


「こ、心の準備が必要なんです!」

「あ、はい」


 心の準備とな。これは……期待してもいいのかな? そして待つこと数分。


「し、失礼します……」


 東雲さんが入ってきた。だけど、下を向いていて顔は見えない。さて、気合いいれますか。


「東雲さん」

「は、はいっ!」

「まずはごめん! 昨日いきなりキスしちゃった事を謝らせてくれ」

「あ、えと、はい……」

「それで、昨日のアレは雰囲気に流されたのもあったけど、それだけじゃないんだよ」

「はい……」


 東雲さんはまだ顔を上げないまま、二つのお下げを両手で握っていた。多分俺が今から言うことに察しはついてるんだろうな。それでもちゃんと来てくれたんだから言わないと。


 俺にはラブコメや恋愛モノの主人公のような無駄に長いカッコイイセリフは言えない。ただストレートに言うのみ! よし、言うぞ!


「東雲さ「あのっ!」……ん?」

「あ、あの、あの後お姉ちゃんとはどんな話したんですか?」


 あの後……昼休みのことか。全部話すのはあれだしな。


「いや、妹をよろしくって言われたくらいかな?」

「よろしく!? よろしくされるんですか!?」

「いや、それはこれから次第というか……。それで東雲さん、聞いてくれ」

「あのあのっ! 花瓶ってどんなのですか? それがわからないと花も……その……えと……」


 どうにも話を逸らそうとしてくる。だから俺は東雲さんの両肩を掴んだ。


「東雲さん」

「は、ひゃいっ!」


 すると驚いたような顔をして俺を見上げてきた。メガネの奥にある目は、少し泳いでいるような気もする。

 俺はその目をじっと見つめ、告げた。


「東雲さん、好きなんだ。俺の……恋人になって欲しい」

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