第33話 告白② 彼女実習生
「東雲さん、好きなんだ。俺の……恋人になって欲しい」
俺は東雲さんに想いを告げた。後は返事を待つだけ。どんな答えが来るかわからないから不安はある。けど、みんなそんなもんだろう。答えが分かってたら苦労しないさ。
そんな事を思いながら目の前の彼女を見る。
時折俺と視線が重なっては、口を小さく開いて何かを言おうとするけど、すぐに閉じて視線を逸らされてしまっている。
そしてそのまま数分。風で揺れるカーテンを見つめたまま彼女が話し始めた。俺も同じ方向に視線を向ける。昨日、俺達がキスした場所を。
「あの……。わ、私は……えと……」
「うん」
「昨日のキス、イヤじゃなかった……です。けど……」
彼女はまだ何かを話そうとしていた。だから俺はそれをじっと聞く。
「だ、だけどっ……好きとか好きじゃないとかはまだよくわからなくて……。それなのに、家に帰ってからも何度も思い出しちゃうんです。昼に深山君と会ってからは午後の授業中でも……だからこの教室に入るのにも時間が必要だったんです」
「それは……俺としては嬉しいかな。初めてだったってメッセ来たし、昨日の帰りにバカって言われたから、きっと怒ってるって思ってたんだ」
そう、東雲さんにとってのファーストキスだったんだ。だからどんな事を言われても仕方がないと思っていた。
「あ、あれは自分でもなんで言ってなんで送ったのかもわからなくて……。気が付いたら……でした」
きっと相当混乱してたんだろうな……。多分今も。
「今もまだ感触が残ってる気がするんです……」
「俺も……だよ」
彼女はその白く細い人差し指を唇に当てながそう言う。俺はそれに対して同意した。俺もまだ、東雲さんの唇の柔らかさを覚えているから。
すると、カーテンの方を向いていた彼女が突然俺の方を振り向いて目を合わせるとこう言った。
「あの……深山君は私の事を好きって言ってくれましたよね?」
「言ったよ」
「……私、クラスでも友達いないし、地味とか陰キャ? とか可愛くないとかも言われてるし……それでも……ですか?」
きっとそんなことをずっと言われてきたんだろう。そんな質問をしてくる彼女は、不安怯えが混ざっているような目をしている。けどそんなことは無い。もうそんな目はさせない。君は可愛いんだってことを俺が証明してみせる。
「東雲さんは俺にとって一番可愛い女の子だよ」
「……! そんなこと言われたのは初めてです……嬉しい……」
そう言うと彼女は今まで見たことも無いような顔で微笑んでくれた。
その顔を見た瞬間、俺の背中を何かがぶわっと駆け上がるような感覚と一緒に心臓を鷲掴みされたような錯覚にとらわれる。
……参ったなこりゃ。男が言うのも気持ち悪いかもしれないけど、好きが溢れるってこういう事か。
「深山君」
突然、東雲さんが真剣な顔をして俺を見た。
「なに?」
「告白の……返事をします」
「……はい」
……とうとう来たか。どうなる?
「好きって言ってくれたの凄く嬉しいです。色々考えたんですけど、私もきっと深山君の事好き……なんだと思います。けど……」
あ……これダメな感じだ。マジか……。
「恋人同士とか彼女ってどんな事するのかわからないんです。だから……」
これ以上は聞きたくない。けど聞かなきゃいけない。だから俺はその続きを無言で促した。
「色々教えてくれますか? それでも良かったら……お、お願いします……」
………………へ? なんて? お願いします?
それってつまり……
「おーけーってこと?」
「は、はい……」
「よっっっ……しゃぁぁぁ!!」
「ふあっ!?」
俺の突然の大声にビクッとなる東雲さん。すまんっ! けどこれはしょうがない。喜ばずにはいられないんだもの! やった! ヤバい嬉しいぞこれは!
「東雲さんが、今から、俺の、彼女!」
「そ、そんなハッキリ言われると恥ずかしいです……。あ、あのっ! まだそんな彼女って言うよりは彼女実習生みたいな感じで……その……」
彼女実習生!? なにその初めて聞く言葉。でも……なんか東雲さんらしいかも。
「はは、彼女実習生……ね。いいねソレ。そうだな。俺達らしいペースでゆっくり進んでいこうか」
「よろしく……お願いします」
そう言うと東雲さんはまたさっきみたいに微笑んでくれた。ずっとこんな表情でいて欲しい。いや、俺がさせてあげないとだな。
「ところでさ、その彼女実習生はどこまでなら大丈夫なの?」
「ど、どこまでって!?」
「例えば──名前で呼んでいいとか、手を繋いだりとか?」
「そ、それは……。えっと、なんて呼ぶんですか? 手は……人目がない所で指繋ぎ位ならまだ……なんとか……」
指繋ぎって……。また初耳ワード出てきた。一体どんなのだ? 後でやってもらおう。絶対に。
そして呼び方か……そこはやっぱり──
「千衣子って呼んでもいい? 俺の事は翔平でもしょう、でもいいけど」
「い、いいです……よ? 私の方はまだ深山君でお願いします……。恥ずかしくて……」
「千衣子」
「ひんっ!」
あ、めっちゃ照れてる。目が泳ぎすぎ。あーマジで可愛すぎるだろ。どうなってんのこれ。どんなに耐えてもニヤけてしまう。
「千衣子、俺の事はまだその呼び方でもいいよ千衣子。段々に変わっていってくれたら嬉しいよ。千衣子」
「れ、連呼しないでくださいぃぃぃ~~」
うん、おもしろ可愛い。さて、もう一つ大事な事聞かないとな。
「ところでさ」
「な、なんですか? 今度はなんですか!?」
「キス……は?」
「…………」
あ、固まった。
「千衣子?」
「……きょ、許可制ですっ!」
「許可制かぁ~。ちなみに今は……許可出る?」
俺はそう言いながら東雲さん──いや、千衣子の髪に触れる。昨日みたいに。
すると、くすぐったがりながらも俺の事を見上げ、潤んだ目をしてこう言った。
「い、今は特別の特別に許可します……」
許可いただきました。
俺はそのまま顔を近づけてもう一度気持ちを伝える。
「好きだよ」
「はい、私も今わかりました。きっと貴方の事が好………んっ……」
彼女が言い切る前に唇を塞ぐ。
目を閉じて昨日よりほんの少しだけ、強く押し付けあうようなキス。
そしてすぐ離れる。それと同時に目が合うと彼女は──
「また……今日も思い出しちゃいますよ?」
こんな事言うんだぜ?
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