第34話 指繋ぎ下校

 さて、ついさっき出来たばかりの俺の彼女がいちいち可愛すぎてヤバいんだけど、どうしようか?


 千衣子はキスをした後、唇は離れたけど片手で俺の制服を掴み、もう片方の手は唇に添えられたままでポーっとしている。

 余韻に浸ってるんだろうか? だ、抱きしめてもいいんだろうか? いや、焦ってはダメだ。彼女実習生って言ってたし、変にがっついて避けられたら俺は泣く!


「千衣子? えっと、そろそろ帰ろうか?」

「……え? あ、はい。そう……ですね」


 彼女はそう言うと俺から離れ、椅子に置いていたカバンを掴むとドアに手をかけた。

 ……ん?


「それでは……また明日」

「あ、うん。また明……ってなんで!?」

「ひんっ! な、なんですか!?」


 普通に教室から出て行こうとするから声をかける。すると驚いたような声を出しながらドアの向こうからピョコッと顔を出してきた。……くそぅ、可愛いな。

 ──じゃなくって! いや、なんですか? ってこっちがなんですかなんだけど! あれ? 一緒に帰る流れじゃないのこれ? 俺がおかしいのか?


「えっとさ、一緒に帰るんじゃないの?」

「い、一緒に!?」

「ほら、せっかく付き合えたんだし一緒に帰らないのかな? って思って」

「あぅ……一緒に……恥ずかしいけど……はい。一緒に……はい」


 そう返事をすると、ドアの向こうに隠れてしまった。よしっ! 言って見るもんだな! 彼女と一緒に下校とか夢だったんだ!

 俺もカバンを持って廊下に出ると、廊下の壁に寄りかかる千衣子がいた。

 俺を待ってる彼女の姿!う~む感無量!


「じゃあ帰ろっか?」

「はい」


 俺達は一緒に歩き出す。だけど並んでじゃなくて、千衣子が俺の二歩ぐらい後ろを着いてきている感じ。聞けばまだ学校内で並んで歩くのは恥ずかしいとの事。今の時間じゃもう残ってる生徒も少ないんだけどなぁ。まあ、だんだんにかな。

 そしてお互いの下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。そこでやっと俺の隣に来てくれた。


「そういや千衣子の家ってどっち方面? 俺は歩いて二十分ってとこだけど」

「近くて羨ましいです。私の家は駅から一駅ですね。歩いて来れないこともないんですけど、それだとプラス三十分はかかってしまうので」


 なるほどね。実は近所だった──って事もないか。


「じゃあ駅まで送って行くよ。そこまで一緒に帰ろう?」

「え、いいですよ! 深山君が遠回りになっちゃうじゃないですか……」

「いいからいいから。俺がそうしたいだけ。ちなみに時間は大丈夫? 少しだけ遠回りしない?」

「時間は大丈夫ですけど……遠回り?」


 千衣子が不思議そうな顔をして俺を見上げてくる。だけど今はまだ答えない。


「こっちこっち」

「あ、待ってください」


 歩き出した俺の事をお下げを揺らしながら千衣子がついてくる。俺達が進んだ道は、駅から通ってくる生徒達がおそらくメインで使っているであろう道からは少し逸れた道。

 つまり──人気の無い道だ。さらに高台も経由して、ちょっとロマンチックな演出をする予定だ! こういうの大切だと思うんだよね、俺は。まぁ、俺らが通ってる高校が少し高い所にあるから出来る事なんだが。


「こっちの道は初めて通りましたね。何かあるんですか?」

「ん? ちょっとね。そこまで景色が良いって訳でも無いけど、高台に小さい公園あるんだ」

「楽しみです」


 千衣子は少しウキウキしたような顔で俺の横を歩いている。だけど、足元を見ると少し早歩きっぽく見えたから俺は歩く速度を落として合わせる。

 そうだった。小さい分歩幅も短いんだよな。


「あっ……」

「どした?」

「ふふっ、なんでもな~いで~す」


 なんだ? いきなり凄い機嫌良くなったような……。どうしたんだろ。まぁいっか。

 そうだ! 今ならやってくれるかもしれない!


「そういえばさ、さっき言ってた指繋ぎってどんなの? ここなら人目も無いしさ。ダメ?」

「うぅっ、覚えてたんですね……」

「そりゃあさっき聞いたばかりだからなぁ」


 忘れる訳がない。

 すると、「あぁ……」とか「うぅ~」とか言いながら左手を出したり引っ込めたりしている。


 すると、多分「えいっ」って言いたかったんだろうけど、カミカミで「ふぇい!」っていいながら俺の右手の小指を握ってきた。


「い、今はこれでお願いします……。これ以上は……む、無理っ」


 ──可愛すぎる。ヤバい。好き。可愛すぎて言葉が出ない。あーどうしようこれ。心臓バクンバクンしてんだけど。


「な、何か言ってくださいよぉ! が、頑張ったんですからっ」

「……あ、いや、可愛すぎて死ぬところだった。割りとマジで」

「か、かわっ……!?」


 驚いたせいか、千衣子の俺の小指を握る力が強くなる。

 手、小さいなぁ。柔らかいなぁ。はぁ、幸せ。

 横を見ると、耳まで真っ赤になっているのがわかる。


「ち、ちなみにさ? これが指繋ぎだと、ちゃんと繋ぐにはどのくらいかかる?」

「い、一本ずつ増やしていきます……」


 ……俺は後何回耐えればいいんだ?


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