第25話 もう遅いはもう遅い。それももう遅い

 ~翔平がアホみたいにラブコメしてる頃~



 三枝 茜は自身の現状に困惑していた。いや、むしろ迷惑していた。

 ちょっと前の自分では想像も出来ない事態。

 それは……


「三枝君、一緒に帰ろ? 今度は間違えないように食べ物の好き嫌いとか聞きたいな♪」

「茜ちーん! あーしも一緒に帰るよー! なんならまた寄ってく? サービスしちゃうよ?」

「あ、えっと……あぁ、行っちゃった……」


 自身の両サイドをクラスのアイドルである二条綾芽には右腕の袖を。パリピギャルでありながらコスプレ喫茶で働く明乃紫織には左腕を掴まれているということ。

 ハッキリ言って意味がわからなくなっていた。


 二条は茜に助けて貰ったからと言ってくるが、二週間程お礼も何も言ってこなかったのに最近になっていきなりだ。

 茜も別にお礼が言って欲しくて助けたわけじゃないが、こうも露骨に態度が変わると辟易してきていた。


 明乃もそうだ。

 普段の金髪姿と全然違う為に言われるまで茜は気づかなかったが、別に明乃だから助けたわけでもなかった。ただ、無理矢理ホテルに連れ込まれそうになってる姿をたまたま見かけたからだ。

 後になって考えると、何故そんなところに男と一緒にいたのかも不思議に思えてくる。ホントにその男だけが悪いのか? なぜそこで普段と違う格好をしていたのか? と。

 それに店でのサービスと言うが、別に明乃の店での姿であるシオリンだけが目的で行った訳でもなかったのだ。

 茜はただアニメやマンガが好きで、その衣装を着てる子達が見たいだけなのだ。そこによこしまな目的は断じてない。あってはいけない。


 そして現在、目的を果たせなかったことにショックを受けていた。

 茜の視線の先には一人歩く進藤美桜の姿。部活だったはずなんだが、靴を履き替えてる時に一緒になったのだ。

 こんな事は滅多にない為、ちょっと勇気を出して一緒に帰ろうと誘おうとしたのだが……。


 ◆◆◆

「あれ? 進藤さん部活は?」

「あ、三枝じゃん。なんかね、今日は一年は休みだったみたい」

「そうなんだじゃあ──」

「三枝君!」「茜ちーん!」

「あ~えっと……じゃあ美桜行くね? バイバイ」

「あっ……」

 ◆◆◆


 こんな感じである。

 今はただ一人歩く進藤の背中を見送るだけ。


(はぁ、こんなチャンス滅多にないのに……。僕が持ってるラブコメのラノベとかにも似たような状況あるけど、これはなんか違うなぁ。周りの目も凄いし、二人の圧もなんか裏がありそうで怖い。誰かの指図とか? 僕、お金とか持ってないんだけどなぁ……)


 今まで女性に縁が無かった奴がいきなり美少女に寄ってこられたらこう考えるのが普通だろう。

「えっ、そんな! 二人とも可愛くて選べないよ!」

 なんて考えるのはただの馬鹿だ。


 そして、茜がそんな事を考える間に何故か二条と明乃の言い争いが起きていた。


「ちょい二条、あーしは誰に見せたことない姿も茜ちんには見せてんだからね? だからアンタが何かしてきてももう遅いかんね?」

「わ、私なんか凄いカッコよく助けて貰ってるんだから! それにお弁当だって作って上げてるだもん! もう遅いっていう明乃さんがもう遅いよっ!」

「それ言うならあーしなんか茜ちんの好きな衣装着てあげたりしてるかんね!」

「い、衣装!? 三枝君、明乃さんと何してるの!? そ、それなら私だって好きなのなんでも着るもん! ねぇ、どんなのが好きなの!?」

「いや、あの……」


 茜が二人の勢いに戸惑ってる時、更に一人現れた。


「あ~! 茜君、今帰り? ってその人達は?」


 翔平の妹、深山香帆の登場である。


「あ、香帆ちゃん」

「「香帆ちゃん!? 誰っ!?」」


 茜の口から発せられる親しみを感じる呼び方に二人は揃って驚く。

 それを見た香帆は、すぐに状況を察して茜の腕に抱きつくとこう言った。


「香帆は茜君の幼馴染ですよ? ずっと前から知ってるんです。今更茜君の魅力に気づいてももう遅いですよ?」


 ……馬鹿ばっかりである。

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