第12話 キャー!とかクソォォ!とか

 さて、俺の親友である茜の目の前には、クラスのアイドル(笑)の二条綾芽がいる。


 見た目は……そうだな。The清楚って感じ。

 肩まである黒髪の髪型はハーフアップ。水色のリボンで止めていて、目は大きくなんかキラキラしている。胸はそんなに大きくはなさげで全体的に細身だ。確か成績も良くて、クラス委員もやってるらしい。色々盛りだくさんだ。

 そんな彼女が手を体の前で組んでモジモジして立っている。


 うん、可愛い。可愛いんだけど……なんか違うんだよなぁ。何故か惹かれない。

 完璧すぎて引く。


 さて、そんな彼女が茜に一体なんの用事なんだ?


「えっと……どうかしたの? 二条さん」

「あ、あのね? 前にショッピングモールで私の事を助けてくれたのって三枝君だよ……ね?」

「ショッピングモール?」


 具体的に言わないと茜は思い出さないぞー。いろんな所で助けてるからな。


「うん。確か先々週かな? 隣街の映画館と一緒になってる所でなんだけど……」

「……あ、うん。思い出したよ」


 あぁ、あの時か。助けたクラスの子って二条だったのか。


「あの時はホントにありがとう。後、お礼言えなくてごめんなさい。まさか三枝君だなんて思わなくて……」

「は、はは。そんなに違うかな……」

「そんな事ないっ!」


 そんな事あるだろ。気づいてなかったじゃねーか。


「ううん。ごめん、嘘ついた。本当は昨日の三枝君を見るまでは気づけなかったの」

「はは……」


 まぁ、笑うしかないわな。


「助けて貰った時からずっと思ってたの。カッコイイなぁって。なんであの時お礼言えなかったんだろう? って。それで昨日の三枝君見て、あの時の人だ! ってなって、えっと……その……」


 なんかめっちゃモジモジし始めた。おいおい。一体何言うつもりだよ。


「二条さん?」

「あ、あのっ! 良かったら連絡先教えてくれないかなっ? お礼もしたいし!」


 二条がそう言った瞬間、教室内から「キャー」とか、「くそぉぉ!」とか聞こえてくる。

 いやいや。いやいやいや。なんだ? 何が起きてる!?

 こんな人前の断りずらい状況作って聞くとは策士か!? って俺は思ってたんだけど!


「いや、そんなお礼なんていいよ。そういうのが目的で助けたんじゃないし」


 さっすが茜! よく断った!


「優しいんだね。でもそれじゃ私の気が済まないの。お願い。ダメ?」


 手を後ろで組み、少し前屈みでコテっと可愛らしく首を傾げて尚も食い下がる二条。

 あ、これあれだ。完全に自分の武器理解してるやつだわ。

「二条さんって可愛い~」って言われて「もぅ! そんなことないよぉ~。○○ちゃんの方が肌綺麗で羨ましいよ~」って言うやつだ。多分。


 これはあかん。茜! 断れ! 断るんだ! そんな完璧な女は現実にはいないぞ!


「えっと……じゃ、じゃあ……うん。わかったよ」


 断らないんかぁーい!!


 そして俺の視線の先では、二人でスマホをやたらと振っていた。マラカスと交換してやろうか?


「いやぁ~まさかクラスのお姫様が三枝にアプローチとは。聞いた話だと二条さんさ、今まで彼氏も出来たことなくて、告白も全部断ってるらしいんだよねぇ」


 隣で美桜がそんな事を言う。

 いや、今度はお姫様かよ。アイドルどこ行った。統一しろよ。

 そしてお前のポジションはなんだよ。ギャルゲーの親友キャラかよ。


 はぁ、早く放課後になんねぇかなぁ……。


 俺はそんな事を考えながら窓の外を見る。

 上を見上げると、そこにあるのは空いっぱいの……雲。


「くもりかよ」

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