第6話 地雷は敢えて踏み貫くもの
なんだろう? なんだかさっきより目が細くなったような?
「名前も……わかってなかったんだ……」
げっ! やべぇ!
「いやほら、俺って委員会の集まり行ったことないし、まだ入学して二ヶ月じゃん? 同クラの奴の名前くらいしかわかんなくてさ! えっと……なんかごめん?」
「し……ち……です」
ん? なんて? 死地!? んな馬鹿な!
「えっと、なんて言った? ごめん、聞き取れなかったわ」
「し、
「あ、あぁ名前ね! うん、覚えた! 頭に刻み込んだからもう完璧! 東雲千衣子ちゃんね……なら、ちいちゃんかな?」
「ち、ちいっ………っ!?」
名前を呼ぶと、びっくりしたように目を開いて頭を横にブンブンと振る。それと一緒にお下げもバッサバッサと荒ぶっておられる。
なんでだ?……って最初から馴れ馴れし過ぎたかも? まぁ、まだそんなに仲良くもないしな。むしろイメージ的にはおそらくマイナスな俺から言われたらそりゃそうなるか……。
「あーえっと、東雲さん? でいいかな?」
すると今度は少し考えるような仕草をした後、コクッと深く頷いた。
ふっ、良かった。まぁ、呼び方は段々に変わって……行ければいいなぁ。
ん? そういえば……
「てかさてかさ、東雲さんは俺の名前知ってたよな? なんで?」
って、委員会が同じなら知っててもおかしくないわな。変なこと聞いちまった。
「深山君は目立ちますから……」
ん? 予想と違う返事だぞ?
「ふ~ん。てっきり同じ委員だからかと思ってたや」
「っ! も、もちろんそれもあります! むしろそれしかないです」
「え? だって、さっき……」
「い、いいから手を動かして下さい。終わらなくなっちゃいます」
「あ、はい」
おおぅ……。シャッター下ろされたわ。もうこの話題はお終いってことか。了解! 焦っちゃダメだ。物分りはいい方よ、俺。
で、その後はひたすら大地との触れ合いの時間だった。
時々爪の間に入る土を取り除きながら作業を続けていく。
この作業、女の子なのに大丈夫なのか? そう思って東雲さんの手元を見ると、そこには青いビニール手袋。俺の手元は生まれ持ったペールオレンジ。
……うむ。きっと一人分しか無かったんだ。そうだろう。そうであって欲しい。
とりあえず終わったらちゃんと手を洗おっと。いつもなら二回プッシュの所を今日は三回プッシュで洗おう。
◇◇◇
「今日はこれで終わりましょう」
無心になって作業してると隣からそんな声が聞こえる。
おぉ、終わりか~! ずっとしゃがんでたせいなのか、立つと腰と膝からポキポキ音が聞こえてくるや。
……ん? あれ? ちょっと待てよ?
今、今日はって言った? 言ったよな!?
「えっと、東雲さん? 今日はって?」
俺は横を向いて、ちょうどビニール手袋を外している最中の東雲さんに質問する。
すると俺の手を見て、メガネの奥で【あっ!】って顔を一瞬するけど、すぐに元の表情に戻った。
おい……。
「はい、明日もやります。まだ終わってないので。それで……えっと……深山さんは明日どうしますか? 大変でしたよね? 嫌だったらもう大丈夫ですよ。けど……」
けど? おや? なんでそんな俯くんだ?
「あの……もし、明日も来てくれるなら……」
来てくれるなら? おっ!? なんだ!?
「ちゃんとビニール手袋用意しておきますから……」
ですよね! だと思ってました! 視線下げたの照れてるとかじゃなくて俺の手しか見てなかったもんな!
とりあえず俺の答えは一つ!
「あーあれだ。明日も来るよ。だってほら、委員会の仕事だろ? ちゃんとやるさ」
「ホントですか!?」
「お、おうよ!」
いきなり顔上げるからびっくりした。可愛い顔でびっくりした!
「じゃあ最後に倉庫から出した物片付けて帰りましょう。今日は……楽しかったです」
楽しかった? そんなに会話した覚えはないんだが……。まぁいいか。
「へーい」
「鍵は私が返してきます。ちょっと忘れ物もあるので」
「そう? じゃあお願いしようかな」
「はい」
流石にいきなり一緒に帰るのはやめとくか。茜の事も気になるし、帰りに茜ん家寄って行くかな。
ってなわけで、片付け完了! 後は手を洗って帰りますか。
東雲さんが倉庫の鍵を閉めたのを確認すると、俺はカバンを肩にかけて声をかけた。
「そういえばさ、そのキーホルダーなんか変だよな? 猫か? それともネズミ?」
「……これ、ウサギです」
「あ、ウサギなの!? のわりには耳短いのな」
「すいません……」
「え? なんで?」
「これ、私が作ったんです……」
「えっと……」
「今日はお疲れ様でした」
軽く頭を下げて校舎に向かって行く東雲さん。
あぁぁぁぁぁあ!! 俺、また地雷踏んだっぽいんですけどぉぉぉ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます