七夕SS 机の下の逢瀬
さて、今日は久しぶりの委員会の仕事だ。
仕事なんだが……
「ん……ぷぁ……。も、もう! 深山くん!? 今日は委員のお仕事がたくさんあるっていいましたよね!?」
千衣子は上気した顔のまま、そう言いながら俺の胸元を押して距離をとる。
「わ、わかってるってば!」
なぜ距離を取られたのかと言うと、さっきまで俺はいつもの教室で千衣子とキスをしていたからだ。
「このファイル全部纏めないといけないんですからね! そ、それにいつこれを受け取りに先生来るかわからないんですから!」
「ごめんってば……」
怒られて謝る俺。だけど納得がいかない。
なぜなら──
「だけどさ、最初にキスをねだってきたのは千衣子じゃないか?」
「〜〜っ! だ、だって……だって、深山くんが……」
千衣子は両胸に垂れているおさげを掴むと、それで顔を隠した。可愛い。
「俺が?」
「顔を近付けるから……が、我慢できないくらいに……」
「あれは千衣子の向こうにある穴あけパンチを取ろうとしただけなんだけど……」
そう言って俺は机の上にある穴あけパンチを指さす。
「ふぇっ!? えっ、あっ、あのっ!」
「そうかぁ〜。千衣子は我慢できなかったのかぁ〜」
「もうっ! いいから早く作業しますよ! こ、こんなことばかりしてるせいで、誰かに見つかって織姫と彦星みたいになったらどうするんですか!」
「だからそれは千衣子の方から──ってそうか。そろそろ七夕か」
「そ、そうですっ! はい、作業しましょう作業!」
七夕。確か、イチャイチャし過ぎて働くなった二人を天の川で引き剥がした的な話だっけ? それで一年に一度しか会えなくなった感じの。よく覚えてないけども。
う〜ん。まさに今の俺達だな。さすがにそれは困る。自重しないと。
横を見れば、千衣子も切り替えて作業してるみたいだし。俺も真面目にやるか。
──やばい。我慢できない。
この、肩と肩が触れるか触れないかの距離。
静かな部屋で作業する紙ズレの音と、ペンを走らせる音だけが響く。
ふと横を見ると、千衣子は少し疲れたのかペンを握った右手は止まり、左手は机の下にある膝の上に置かれていた。
「っ!」
俺は、その手の上に自分の手を重ねた。
「深山くん!?」
と、そこで誰かが教室に入ってくる。
「二人とも終わった? あれ? まだ?」
「せ、先生っ!?」
「ういーっす」
俺のクラスの担任。そして、この委員会の顧問だ。
「深山くん、ちゃんとやってる? 東雲さんに迷惑かけてない?」
「だーいじょうぶですって」
「東雲さん、ほんとに?」
「は、ほんと──ひゃうっ! ですぅ……」
「東雲さん? どうしたの?」
「あ、いえ……大丈夫です……」
「そう? なら出来てる分だけ纏めて持っていくわね〜」
先生はそう言って俺達の目の前に座る。
そして俺は机の下で握ったままの手を……動かす。
「んっ! ……ひぅっ! 〜〜っ!」
千衣子は隣から俺の事を睨んでくる。
さっき、先生と話してる時にも同じことをしたのを怒ってるのかもしれない。
だけどごめん千衣子。これ、めちゃくちゃ楽しいんです。
「んんっ……!」
今度は握っていた手を少し緩めて、人差し指で千衣子の手のひらを優しくなぞる。本当に軽く、触れるか触れないかの感覚でくすぐるように。
「んぁっ!」
「東雲さん?」
次は小指の指先を軽く摘む。
「ふぁ……ひゃい?」
「どうしたの?」
「あ……あっ! いえ、なんでもないですっ!」
「そう? 少し顔赤いけど?」
今度は強く握る。
「んっ! だ、大丈夫で……す」
「ならいいのだけど。よし、とりあえずこれだけあれば大丈夫ね。じゃあ残りお願いね?」
「わっかりましたぁ〜」
「はい……」
そして先生は纏めた書類を脇に抱えて教室を出ていった。
その途端、
「み、み、み、深山くんっ!? な、何をするんですか!?」
「あ、あはは……」
「笑い事じゃないですよぉ!」
「いやぁ……ほら、我慢できなくなっちゃって……」
「せ、先生にバレたらどうするつもりなんですかぁ!? もしそれで深山くんと離れることになったりなんかしちゃったら……私、泣いちゃいます」
「ご、こめんって」
やっべ。やりすぎたか!?
そう思った時、千衣子は両手を俺の頬に手を添えた。
「だ、だから……一回だけちゅうしたら今日はもう終わるまで我慢してくださいね?」
そう言う千衣子のメガネの奥の瞳は俺を見つめて離さなかった。
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