第3話 お前ら全員眼科行け

 固まって動かなくなってしまった落下女。

 どうしたんだ?

 まぁいいや。


「大丈夫そうだし、茜行こうぜ」

「そうだね。じゃあ、僕達は学校行くので。翔平、行こう」

「おう!」

「ま、待ってっ!!」


 止められた。


「ねぇ君、そのままじゃ私の気が済まないのよ。その制服、角詠高校よね? そこ私の母校なんだ。だから制服売ってる場所も知ってるの。高校には私からもちゃんと事情説明の連絡入れるわ。だからお願い。弁償させて? 髪もちゃんと直すから。えっと、そっちの子は友達かな? 君は先に行ってていいわよ! この子はお姉さんに任せて! 」


 落下女が胸をドンッと叩く。ユサッと揺れる。なんだコイツ。


「だってよ? どうする?」

「う~ん、確かに、制服破れたの母さんに言ったら怒られて組手やられそうだから助かるんだけど……」

「お前の母ちゃん怖いもんなぁ……。ちゃんと高校に連絡入れてくれるなら良いんじゃね? 俺からも言っておくからさ」

「じゃあ……そうしようかな。あの、お願いできますか? あと、名前確認できるものありますか?」

「あ、あるっ! はいコレ免許証、【東雲しののめ ゆかり】これが私の名前だから。あと十九歳だから! と、歳上はどうかなぁ〜? なんちゃって!」


 いや、茜は年齢まで聞いてないんだが……。


「はい、確認しました。じゃあ一応翔平も先生に伝えといて貰えるかな?」

「おう、ちゃんと言っとくよ」

「うん、ありがと。じゃあ東雲さん、お願い出来ますか? あ、僕の名前は三枝 茜です」

「うんっ! 茜くんね! あと、呼び方は縁さんでもいいのよ?」

「はは、それはちょっと……」


 茜が半ば引きずられるような感じで連れていかれる。いいなぁアレ。絶対胸に腕当たってるだろ……。


 ◇◇◇


 あの後一人で学校に向かい、事情を担任に説明も済ませた。落下女の名前も担任に伝えると、どうやら知ってるみたいだった。「あぁ、アイツか……なら……」とか言ってたから、昔からやらかす人だったんだろう。


 そして、二時間目の授業が終わった所で教室の後ろのドアが開く。

 そこにはパリッとした新しいワイシャツを着た茜が立っていた。あー、眼鏡はちゃんとペンキ落ちなかったんだな。コンタクトにしてやがる。おっ? 髪もペンキ付いた部分をカットして、良い感じにセットしてんじゃん。結構時間かかってんなー? って思ってたけど、美容院にも行ってきたっぽいな。

 そんな茜の姿に俺が感心して声をかけようとすると……


「えっ、あのイケメン誰っ!?」

「カワイイ……むしろカッコいい……でもカワイイ!」

「転校生か? 職員室と間違えたとか? とりあえずイケメンは敵だ」

「キュンキュン注意報発令中……」

「ヤバいっ! まじやばいっ! 惚れそう!」

「あれ? あの人前にデパートで……え、嘘でしょ…… 。また会えるなんて……」


 いや、お前ら何言ってんだ? 馬鹿か? 馬鹿なのか? どう見ても茜だろうが! なんだコレ。悪ふざけか? まったく……。

 とりあえず、あの後でどうだったのか話を聞かないとな。


「おう、おかえり茜! 結構時間かかったな」


 ザワッ! ザワワワッ!!!


 クラス中の視線が俺に集まる。え? なに?


「ねぇ、深山くん」

「なんだ?」


 一人の女子が俺に聞いてくる。


「あの人、三枝君……なの?」

「はぁ? どっからどう見ても茜だろうが」


 その瞬間──


「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」


 教室の中に大絶叫が響いた。


 おいお前ら、頭大丈夫か?

 とりあえず眼科行くか?


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