第73話 The主人公

 千衣子が自分の教室に入ったのを確認してから中に入ると、俺の予想通りの展開になっていた。


 困ったような顔で席に座る茜の隣には美桜がピッタリとくっつき、その前には二条と明乃が立ち塞がっている。

 二条は目の前の光景が信じられないかのような表情で茜を見つめ、明乃は猛禽類の様な視線を美桜に送っていた。

 うわぁ……修羅場だ修羅場。


「三枝くん、私の作ったお弁当美味しいって食べてくれたじゃない!」


 そりゃ作ってもらって不味いとは言わないわな。


「茜ちんだけなんだけど? あーしの秘密知ってるの。茜ちんだから教えたんだけど? 秘密の共有ってなんか特別な事じゃん?」


 はーい。俺も知ってまーす。あれだろ? シオリンだろ? つーかお前が勝手に教えたんじゃん。共有じゃなくて押し付けじゃん。

 この二人ダメだ。独りよがりすぎる。

 何かをしてあげたから、が前提になってる時点でもうダメだ。

 違うんだよ。そうじゃないんだよ。わかってないなぁ。

 それにそもそもお前らさ、茜がイケメンだって分かってからのアプローチじゃん? その時点で負け確定なんだよ。まぁ、言わないけど。

 これは茜と美桜がどうにかしなきゃいけないだろうしな。

 さて、俺は自分の席について千衣子にメッセでも──


「ねぇ深山くん。深山くんが二人をくっつけたんじゃないの?」

「そういえば深山は茜ちんと仲が良かった……」

「……はぁ!?」


 なんで矛先がこっちに向くんだよ! あ、わかった。お前らどうしても自分が選ばれなかった理由を自分以外のとこに持っていきたいんだろ!

 キレていい? これ、俺キレていい?


「ちょっと二人とも。深山は関係ないでしょ」


 俺が文句を言いそうになった時、それまで黙っていた美桜が口を開いた。


「二人とも自分のことばっかり! 茜くんの事なんて何も考えてないじゃない! ホントなんなの? いい加減にしてよ! もうっ! もう……ふぇぇ……」


 美桜はそこまで言って泣き出してしまう。


「…………」

「…………」


 無言になる二人。

 そこで茜が立ち上がり、美桜の背中を撫でながらいつもより低い声で二人に向かって告げる。


「僕はね、美桜ちゃんが好きなんだ。二人のことは何とも思ってないよ。むしろ僕の大事な人を泣かせる人は……嫌いだ」

「っ!」

「茜ちん……」


 茜ぇぇぇぇぇっ! 良く言った! カッコイイぞ! まさにお前が主人公だ!

 さて、このことをちょっと千衣子にも送らないと……お、もう返事来た。えっと、『凄いですね。そういう状況は困りますけど、その台詞は……ちょっと憧れます』


 なるほど。憧れるのか。じゃあ今度二人きりの時に言ってみよう。


 あ、ちなみに二条と明乃は肩を落としながら自分の席に戻って行った。

 そして茜は美桜を連れてどこかに行き、帰ってきたのは次の授業が始まる直前。


 ……なぁ、美桜の顔が赤いけどいったい何してきたんだ? 怖くて聞けないんだけど。



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