第28話 主人公補正が無い奴らの咆哮

 朝、玄関に向かうと目の下にクマを作った茜がいた。心無しかやつれてる?


「よう、どうした? 本でも読んで寝不足か?」

「あ……おはよう。いや、違うよ。えっと……香帆ちゃんは?」

「香帆? あいつはまだ寝てる。何回起こしても起きないって美帆さんが嘆いてたわ。こりゃ遅刻だな」

「あぁ……やっぱり……。じゃあ行こっか? 歩きながら話すよ」


 ん? ホント何があったんだ?

 香帆の寝坊に関係ある事か?


 玄関から出て少し歩いた頃、眠そうな顔をした茜が話し出した。


「実はさ、昨日寝たの三時頃なんだよね」

「三時!? ほとんど寝てないようなもんじゃねぇか」

「うん。二条さんや明乃さん。それと香帆ちゃんからメッセが来て、それに返信してたらそんな時間になったんだ」

「いや、そんなん途中でぶった切って寝ればいいのに」

「そうなんだけどね、寝ようとすると何故かみんなが写真とか送ってくるからちゃんと返さないと悪いかな? ってなってそのままズルズルと……」


 な、なんつー律儀な……。つーか写真?


「写真って?」

「えーっと、プライバシーとかあるから見せれないけど、二条さんはパジャマ姿とか中学の頃の制服かな? 明乃さんはコスプレしたやつで、香帆ちゃんはモコモコした着ぐるみパジャマとかかな?」


 まじか。三人共どんだけ必死なんだよ。でも変な写真とかじゃなくて良かった。いや、でも、待てよ? もしかしたらこのままだとエスカレートして行く? さすがにそれは無いか? とりあえず香帆には後で釘刺しておくか。

 んで、香帆が昨夜なんかゴソゴソしてたのはそのせいか……。あいつ寝る時いつもノーブラにジャージだしな。そんな可愛いの普段着てないし。恐らく撮る為に押し入れから昔のを引っ張りだしたんだろう。体のサイズほとんど変わってないからな……。


「それはなんつーか……お疲れさん。んで、美桜とはどうなんだ?」

「進藤さんとは何回かはやり取りしたよ? 翔平や和野君の話とかで」


 いや、お互いに自分の話しろよっ! もっとアピールしようよ! 二人ともピュアかっ!

 いや、まぁこいつらにはこいつらのペースがあるか。あんまり外から口出ししてもあれだしな。まだ初日だし。うん。


「そうか、よかったな!」

「ありがとね、翔平」


 ……う~ん。ここで満足したらダメなんだけどな。


 ◇◇◇


 そして俺達が学校に着き、教室に入ろうしたその時だ。


「待て! 三枝茜!」

「ま、ま、待てよう……」

「こっちを向け!」

「えっ?」


 知らない声に茜が呼び止められた。俺達が声の方に振り返ると、そこには知らない三人がいた。

 一人はいたって普通の男。特に特徴もなにもない。強いて言えば髪が何ヶ所か尖っている。ウニ? そいつの右側にいる男は少し臆病そうな感じで喋り方もどもっている。髪は……少し茶色でペタンとしてるけど普通だな。そしてウニ頭の左側にいるもう一人の男は不自然なほどに髪が固まっていて、しかもギトギトしている。それ、ワックス付けすぎじゃね? なんだこいつら。


「えっと……何か?」


 茜がそう問いかけると、ウニ頭がビシッと指をさして声高々に言った。


「お、お、俺達だって貴様の様にメガネを外して他人との最後の砦たる前髪を排除し、髪型も変えたのに全然モテないじゃないかぁぁぁぁ!!」


 は?


「何故だ!? 我々も貴様と同じようにしたのに何故モテない!? なぜ貴様だけがそんなに女子にキャーキャー言われてチヤホヤされておるのだ!? 解せぬぅぅぅ!!」


 え?


「ぼ、僕なんか……行ったこともない美容院に勇気だしてい、い、行ったのにぃぃぃ!!」


 おぉ……なんかすげぇ奴らが来たな……。

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