第56話 途中で転校してこようとするヒロインは…

 ソレは突然やってきた。


 俺の部屋に鳴り響くノックの音。そしてその扉の向こうから聞こえる声は──


「翔平君、茜君、降りてらっしゃい。野村さんがお母さんと一緒に挨拶に来たわよ」


 美帆さんだった。てか野村って誰だよ。データ取るのが好きそうな名前だな。


「翔平翔平、野村さんってまっちんの事だよ」

「まっちん? ……あぁ! あのイタい奴か! なんでそいつが家に来てんだ?」

「もう忘れたの? この前、挨拶に来るよって言ったじゃん。はぁ……。翔平の頭の中は東雲さんの事で埋まってるんじゃない?」

「そういえばそんな事言ってたな……。ちなみに俺の頭の中が千衣子で埋まってるってのは否定しない。むしろはみ出してくるまである。俺の彼女超可愛い」

「は、はは。そこまで言えるのも凄いと思うけどね」


 だって可愛いからな。

 っと、千衣子の可愛さを再認識してる場合じゃなかった。 客が来てるなら行かないと。


 俺と茜が階段を降りると、玄関には見覚えのあるおばさんとムスッとした銀髪青目の綺麗な女の子がいて、美帆さんと何かを話している。

 ってゆーか……ん?


「なぁ、茜。ほんとにハーフになってるんだな」

「うん。見た目だけね」


 うーむ。流石にここまで変わってると違和感しかないな。ほとんど別人だ。

 お、野村のおばさんが俺達に気付いたみたいだな。


「あーらあらあらあら! 翔平君じゃない! 久しぶりねぇ! 昔からカッコよかったけど更にイケメンになったじゃない! どう? モテモテなんじゃない? あ、茜くんもいるじゃない! この間ぶりね! ついさっき茜くんの家にも挨拶に行ってきたのよ~! そしたら茜くんがいないからこの子が拗ねちゃってね~」

「ちょ!? マザァ!?」

「はは、お久しぶりです」

「ちょうど遊びに来てたんです」


 なんでこいつ母親の事をマザァ呼びなんだ? キャラ作りか? そういえば昔もお母様とか呼んでたな。イタいのは変わってないんだなぁ……。

 けど学校ではどうしてるんだ? でもモデルやってるって茜から聞いたしな。それなりに……なのか? あ、そういえば──


「こっちに戻ってきたってことは、高校もこっちに転校になるんですか?」

「それがね~ちょっと聞いてくれる? 本当はみんなと同じ学校に入れたかったのよ? だけどこの子、顔のレベルと自意識だけは高いのに学力は低くて、転入試験落ちちゃったのよぉ~」

「なっ!?ちょっ! なんでそんな事まで言っちゃうのよぉ!?」


 こいつマジか!? ウチの高校は確かに進学校だけど、この辺じゃそんなに偏差値高くないぞ!? まさかの学力不足で転校系ヒロインの枠が消えるとは!


 いや、ヒロインじゃなくてネタキャラだな……。


「そ、それよりも茜っ! この間の女の子はなんなの!?」

「美桜ちゃんの事?」

「み、美桜ちゃんですって!? 呼び方が変わってるじゃない! 何があったのよ!」

「ん~ちょっと色々? そういえばまっちんはモデルの仕事どうなの?」

「色々ってなによぉぉ! 後、まっちんって呼ばないで! 私はリーサよ! モデルの仕事はたくさん来てるわ!」


 ほう……名前で呼ばれるのは嫌なのか。


「まちこはモデルやってるのか。まちこはモデルとして人気なのか? ん? まちこぉぉぉ!」

「まちこって呼ぶなぁぁぁぁ!!」

「私が付けた名前に文句言うなぁぁぁ!」


 スパーーンッ!


「いたぁぁぁいっ!!」


 あ、これあれだ。香帆と同じ感じだな。

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