第77話 結ばれる夜「私を全部……貰ってください」

 風呂に一緒に入るなんてとんでもないことを言った千衣子をじっと見つめると、俺と目を合わせずにキョロキョロと視点が定まらない。まったく……。


「千衣子」

「……はい……」

「俺は一緒に入らないぞ」

「えっ!? なんでですか!?」

「なんでもだ」

「嫌いになったんですか? 私、何かしました!?」


 千衣子は目に涙を浮かべて俺の服を掴んでくる。


「いやいやいや! 違うって。嫌いになんてなるわけないだろうが。超好きだっての。なんでそうなるんだよ」

「だったらどうして? 私、深山くんが三枝君達のことを羨ましそうにしてたから頑張ってるのに……」


 あ、この前からなんか変に積極的だったのはそういうことだったのか。ってことは、あの時言ってた【全部あげる】も、その流れかな?


「千衣子、別にそんなに急がなくてもいいぞ?」

「でも……」

「確かに羨ましいとは思ったけど、だからと言ってすぐに同じような事をしなくちゃ嫌だって訳じゃないし。俺達には俺達のペースがあるからな。頑張ってくれるのは嬉しいけど、頑張るのと無理するのは違うだろ? その証拠にさっきからずっと胸の当たりをずっと隠してるじゃん」

「あ、こ、これは……あぅ」

「ま、ゆっくり進んでいこうぜ。ほんじゃ俺は風呂借りるとしますか……って場所どこ?」

「えと、こっちです」


 千衣子に案内されて脱衣所に入る。戸を閉めてリビングに戻っていく千衣子の足音が聞こえたのを確認してから服を脱いで浴室に。体を洗って頭も洗ってお湯に体を沈めて……


「あぁっ!!! 勿体ないことしたなぁもう!」


 小さく叫んだ。


「これで多分今夜は何もしないで寝るのが確定だよな? やっぱりカッコつけないで一緒に入るべきだったか? いやでも無理させるのも彼氏としてダサいしなぁ。だけど頭を洗ってる時に揺れる胸も見たかったのも事実。だって男の子だからしょうがない。うん。だけど彼女の事を尊重する俺カッコイイ。よし!」


 と、自分の中の色々な事を無理矢理納得させてから風呂から上がった。

 リビングに戻った時には千衣子もいつも通りに戻っていて、それに安心しながら夕飯スタート。

 どれも登下校の時の世間話の中でぼそっと言っただけの好物で、しかも美味い。食べてる間ずっと「美味い!」しか言ってなかった気がする。


「じゃ、私もお風呂行ってきますね」

「おう!」

「テレビでも見て待っててください。あと……」

「ん〜?」

「覗き……ます?」

「なんで!? そこは普通「覗かないでください」じゃない!?」

「ふふっ、冗談ですよ〜う。お風呂行ってきま〜す」


 危なかった……。「覗いていいの!?」って言いそうになるところだった。耐えろ俺。テレビ見て頭の中を切り替えるんだ。落ち着け落ち着け──


「戻りました〜。隣、座りますね?」

「っ!?」

「どうしました?」

「あ、いや、なんでも……」


 ピタとくっついて座ってきたおかげで、柔らかさといい匂いで落ち着けません。

 パジャマ姿可愛い。湯上り姿ヤバい。色気がヤバい。え? こんな可愛い子が俺の彼女とか最高なんだけど。好き。だからもう少し胸元隠して。理性が暴走しそうです。


「あの……深山くんちょっといいですか?」

「どした?」

「そろそろ寝ませんか?」

「眠くなった? 俺はどこで寝ればいい?」

「私の部屋に行きませんか?」

「えっと……それはつまり?」

「他に寝る場所用意してませんから」

「…………」


 この状況で同じ部屋でかぁ……。


「俺はリビングのソファーで──」

「ダメです。一緒に……寝てください……」

「あのな千衣子。俺もそうしたいのは山々なんだけどな? その……えっと……」

「深山くんがさっき私の事を想って言ってくれたのはわかってます。確かにお風呂一緒にっていうのはちょっと無理をしました。だけど……この前言った覚悟は本当です」

「千衣子……」

「深山くん……ううん、翔平くん。お願い。私を……私の好きって気持ちと、ぎゅってして欲しい私自身を全部……貰ってください」


 そう言って千衣子は俺の胸に顔を埋めてきた。

 女の子がここまで言ったんだ。俺も覚悟決めないとな。


「わかった。ほんとにいいんだよな?」

「うん…………いいよ」


 そして俺は千衣子にキスをした。


「んっ……ふぁ……」


 キスをしながらパジャマのボタンに手をかけようとした時、千衣子は顔を離して恥ずかしそうにこう言った。


「わ、私の部屋で……」

「そうだな……」


 そして千衣子を先に部屋に入れ、それを追うように俺も部屋に入ると、ゆっくりとドアを閉めた。







「好き……大好き……翔平くんの全部が大好きなの……」

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