第68話 自覚あるくせに照れながら「当ててんのよ」の破壊力

 俺達はメガネ屋を出てからペットショップに行った。

 二人でガラスの向こうの可愛らしい動物達に癒されていると、ちょうど触れ合いタイムみたいな時間が始まり、店内の隅にある柵に囲まれたちょっとしたスペースで好みの仔犬や仔猫を抱っこ出来るというもの。

 そのアナウンスがされた途端に目の色が変わる千衣子の姿を、俺が見逃すはずが無い。

 だってずっと見てたからな!

 もちろん動物は可愛い。でも、その可愛い動物を眺める千衣子の姿はもっと可愛い。

 だってさ、ガラスの奥に向かって「こっち向いて~」とか「おいでおいで~」 「あ! 深山くん見てください! あの子あくびしましたよ! や~ん♪」とか言うんだぜ? 俺の胸にトキメキの矢が刺さりまくりだっての。


 そして始まる触れ合いタイム。


 ストレスがかからないように先着五名の一人五分だけらしく、それを聞いた千衣子が急いで俺が立っていた方を向いた時にはすでにその場所に俺はいない。

 任せろ。もちろんしっかり並んでるぞ。ギリギリ五番目だ。


「は、早いですよぉ~」


 俺達の順番になり、千衣子が抱っこした犬が千衣子の胸をグニグニと押してる姿を見て嫉妬に駆られたのは言うまでもない。


「いいなぁ……。俺もまだなのに」

「ちょっ! 深山くん!?」


 いや、言ってたわ。

 おかしい。そういう欲にはまだ早いと思って蓋をしてたはずなのに、溢れて蓋が外れてしまったみたいだ。まぁ、自販機のコーヒーの缶ぐらいの容量しか入らないんだろうけど。


 あっという間の五分が終わり、名残惜しそうに仔犬を離すと、俺達はそのままペットショップから出ていく。


「深山くん? あーいう事はお店では言っちゃダメです。他にお客さんもいるんですよ?」

「はい。ごめんなさい」


 う、やっぱり怒られたか。けどあれはオレが悪かったからな。しょうがない。


「深山くんも男の人だから興味があるのはわかりますけど……まだ早いです」

「だ、だよな? 付き合ってまだそんなに経ってないもんな。嫌だったよな? ホントごめん」

「べ、別に嫌ってわけじゃ……。えと……もっともっと好きがいっぱいになったらその……いいかも知れません……よ?」


 なんですと!?


「はい! ちなみにいっぱいってどの位なんでしょうか!」

「ほぇっ!? ど、どの位って……カ、カスピ海くらい?」

「わ、わかんねぇ……。てかカスピ海って海じゃないの? 海って付いてるし」

「違いますよ~。世界一大きい湖なんですよ? この前やりませんでした?」


 まったくもって覚えてないな。地理はどうも苦手なんだよなぁ。ほかはそこそこ出来るんだけど。


「……よし、次はどこいくか!」

「あぁ~! 誤魔化しましたね? ねぇねぇ、今誤魔化しましたよね?」

「はっはっはっ! そういえばあっちに美味いシュークリームの店があるんだよ。食べに行こうぜ?」

「シュークリームですか!? 行きます!」


 よし、気を散らすことに成功。やはり女の子には甘いモノだよな。美帆さんも香帆も好きだし。


 そしてまた手を繋ごうと腕を伸ばすと、何故かその手は掴まれることは無く、俺の腕が柔らかくて暖かいモノに包まれた。

 横を向くと、俺の右腕に千衣子が抱きついていて、変に必死な顔でそのまま腕を不器用にギュッギュッとしている。その度に肘に柔らかい感触が伝わるんだけど……。


「ち、千衣子? 一体何を?」


 俺がそう聞くと、俺とは目を合わせずに横を向きながら耳を赤くしながらこう言った。


「あ、当ててるのよ? です……」


 そっかぁ~。当ててんのかぁ~。


 ……なにそれ。下手可愛い。

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