キスの日SS 【ひとりごと】
夕日が射し込むいつもの三階の空き教室。そこで俺と千衣子は隣あって座り、向かい合っている。
そして、目を閉じた千衣子の顔に自分の顔を近づけた。
まずは頬から。
邪魔になる髪は優しく指で避けて、耳にかけてあげる。目の前には柔らかそうな白く、だけどすこし赤く染まった頬がある。
目線をずらすと、そこにあるのは少し
それを無視して、俺はそっと千衣子の頬に自身の唇を触れさせた。
「やっ……!」
押し付けはしないで、ホントに触れるか触れない程度。
「く、くすぐったいですよぉ……」
軽く笑いながらそんな事を言う千衣子を無視して、俺は軽いキスを繰り返す。繰り返しながら少しずつ耳に近づく。ホントに少しずつ。
「っ!? やっ! ダメダメダメっ! 耳はダメっ!」
……気付かれたか。
その時少しだけ開いていた窓から、梅雨が近付いてきたからなのか、少し湿っぽい風が入り込んできた。そのせいで耳にかけた千衣子の髪が風に泳ぎ、一瞬俺の視界が塞がる。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
突然千衣子の体がビクッとなり、両手は胸元で強く握られ、両方の膝は隙間がない程にピッタリとくっつけられていた。その姿は、千衣子の体が心無しか一回り小さくなってるように見えるほど。
理由はすぐにわかった。
俺の視界が塞がったせいで距離感が掴めなくなり、避けるはずだった耳に俺が触れてしまったから。
「だ、ダメだって言ったのにぃ……」
そう言う千衣子の顔は、涙ぐむ──まではいかないけどメガネの奥の瞳は潤み、頬はさっきまでより明らかに紅潮していた。
「ごめんごめん。そんなにダメだったとは思ってなくてさ」
「触られるだけでもくすぐったいんです。美容院とかでも我慢してるんですよ? それなのに触るどころかちゅうなんて……」
「まじか。だけどわざとじゃないぞ?」
「……絶対うそ。深山くん、そういうイジワルなところあるの知ってるもん」
なんてこった。信じて貰えない。まぁ、自業自得なんだけど。
けど、そう言うのならこっちもそれに合わせるしかないよな?
「ほほう? それなら……」
「な、なんです……ひゃあぁぁぁっ!?」
千衣子はさっきよりも体を震わせてたかと思うと、力抜けしたかのように俺に寄りかかってくる。
「ば、ばかぁ〜……」
ちなみに俺が何をしたかと言うと、耳たぶを軽く噛んでやった。
ご期待に答えてイジワルしてあげないとな!
「もう……今日はなんでこんなことするんですかぁ……?」
俺の胸元にポスッと頭を預けながら顔を上げ、小さく首を傾げながらそんな事聞いてくる。
「あれ? 知らない? って俺も今朝知ったんだけどさ、今日ってキスの日らしいんだよ。だからちょっとしてみた!」
「し、知らないですよそんな日! それに……」
「それに?」
「キスの日だって言うくせに、ちゃんとしたキス、まだしてくれてないじゃないですかぁ……待ってたのに。ん」
そう言いながら目と口を閉じて俺からのキスを待つ千衣子。
可愛い。可愛すぎる。本当は俺だって今すぐにでもキスがしたい。だけどたまには焦らしてみるのもいいかな? って思ったんだけども……これはヤバい。焦らされる方も切ないのかもしれないけど、焦らす方もキツい。
だけどもう少しだけ──
俺は千衣子のメガネを外してゆっくりと顔を近づける。お互いの呼吸の音が聞こえる距離。目を閉じてる千衣子にもそれがわかったのか、唇が少しだけ開いて熱い息が俺にかかる。
そして俺は、その唇を掠めてさっきとは逆の頬にキスをした。
「あ……」
耳に聞こえたのは、『なんで?』とでも言いたそうな切なそうな音。
それが聞こえた瞬間、俺は千衣子の体を抱き締めて唇と唇のキスをした。
「んっ……ふぁ……」
千衣子も俺の背中に手をまわして、もっと、もっとでも言うかのように力を込めてくる。
そして唇同士が離れた時、
「イジワルするの……やだぁ……」
そう言いながら今度は千衣子からのキス。
これは……癖になるな。
長い長いキスを終え、帰る支度をして教室のカギをしながら千衣子がこんな事を言ってくる。
「キスの日とか……そんな素敵な日なんてあったんですね」
「ん? あぁ、そうだなー。なんか他にもいろいろあるみたいだけど」
「そうなんですか?」
「メイドの日とかタイツの日とか」
「な、なんですかその日は……」
「着てくれる?」
「着ませんっ!」
「なーんだ」
まぁ、さすがにな。
「でも……」
ん?
「でも……今度はちゃんと事前に教えてくれたら……考えてみないこともなくもない……です……けど……」
「えっ!?」
「〜〜〜〜っ! ひ、ひとりごとですっ!」
━━
というわけで、キスの日SSでした。
楽しんでニヤニヤ、ニマニマして頂けたでしょうか?
面白いな、もっと読みたいな。などと思ってくれたら執筆の力になります。
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そして新作のお知らせです。
【いらっしゃいませ。ご注文は以上でよろしいですか? ……セットで私はいかがですか?】
https://kakuyomu.jp/works/16816452219923043744/episodes/16816452219923390249
宜しければ読んでみてください。こちらも陰キャ幼馴染に負けず劣らず、イチャ甘に仕上がっております。
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