第2話 陰キャは何故か無駄に強い

 茜が心配そうな顔をして言う。


「香帆ちゃん良かったの?」

「ん? いいんだよ。ほっとけ」

「僕のせいじゃないよね?」


 変に勘がいいな……。


「違う違う。気にすんなって」

「ならいいけどさ。ところでさっきの周回って……前に一緒に始めたゲーム?」

「おうよ! 昨日からイベント始まったからな。今の内に素材集めないと育成がキッツいのよ」

「いいなぁ。僕もやりたかったんだけど、昨日は姉さんがいたから……」

「お? 昨日は訓練の日だったのか?」

「うん、姉さんが夜勤開けの日だったからね。いつものストレス解消だよ……」

「夜勤って事は香澄さんか……。そいつは御愁傷様だな……」


 茜の家はスポーツ一家だ。しかもみんな格闘技系ばっかり。父親はボクシングで、母親は柔道。さっき言ってた香澄さんは空手。

 茜は特に何もやってないんだけど、その三人の相手をしてる内に俺なんかじゃ太刀打ち出来ない程に強くなってしまった。

 つい最近だって、一緒に買い物に行った時、俺がちょっとトイレに行ってる間にタチ悪い連中から絡まれてる女子をあっという間に助けてたもんなぁ。

 あ、そう言えば……。


「なぁ、前にデパートで助けた奴からお礼言われたか? 確かに同じクラスの女子だったんだろ?」

「えっ? 言われてないよ?」

「はぁ!? 嘘だろ!?」

「ホントホント」

「まじかよ……」

「あ、翔平! コンビニ見えたよ」

「ん? おぉ、もう着いたか。茜、お前もなんか買うか?」

「う~ん、ちょっと見てみようかな」

「らじゃ」


 店内に入ると俺は冷蔵棚へ。茜はお菓子コーナーに行った。あぁ、多分食玩付きのが目当てだな? あいつアニメとか特撮好きだもんなぁ。


 それから俺は棚コーヒーを二本取り、ついでに菓子パンも一個持ってレジに行くと、ちょうど隣のレジで茜も会計していた。どっちのレジも女性店員だったのだが、俺の方はにこやかに対応してくれたが、茜の方は終始ブスッとしていた。


 会計を済ませて外に出る。

 コーヒーの蓋を開けて一口飲むと、俺は一言。


「あの店員態度悪くね?」

「え? いつもあんな感じだよ? 翔平のレジにいた子もそうだし。翔平が会計してる時には笑ってたけど、僕初めて見たよ」

「まじかよ。人で態度変える店員最悪じゃねーか」

「まぁ、翔平はカッコいいからねぇ」

「はぁ? 何言ってんの! 俺は茜の方がモテると思うんだけどなぁ」

「はは、そんなわけないよ。でも……ありがと」


 そんな話をしながら学校まで歩いて行く。

 途中で派手な壁の建物の横を通るんだが、そこは誰でも好きに落書きをして良い壁で、誰も人がいない! って時が無いくらいだった。だから毎日のように景色が変わる。俺達はそれを見るのが好きだった。今日も、その絵や絵描きの人を見ながら歩いていたその時──


「きゃっ!!」

「「えっ?」」


 上から聞こえた声に反応した時は既に遅かった。見上げた時にはすでに脚立に乗った女の子がバランスを崩して落ちかけていた。


「危ないっ!」


 茜はすぐにその子の落下地点に回って落ちて来た子を抱き抱える。

 俺は体が固まってしまったが、ここですぐに動けるのが茜の凄い所だ。だが、


「うわぁっ!」


 その子が持っていたペンキが茜の髪に少しかかり、抱き抱えた時の衝撃で落ちたメガネもペンキ溜まりに浸かってしまった。制服が無事なのは良かったな。ペンキ付いたら落ちなそうだもの。ってあれ? ワイシャツが少し破れてるな。


「ご、ごめんなさいごめんなさい!! 弁償しますから!」


 凄い勢いで落下女が謝ってくる。

 結構可愛いな。お辞儀する度に揺れる程胸もでかいっ! 茜、役得じゃねぇか! やったな!


「いえ、大丈夫ですよ。髪は切れば良いですから。メガネも後で洗えばいいし、代わりのコンタクトありますから」


 茜がそう言って少し髪を上げながら笑った。その途端、


「………っ!」


 落下女が固まった。



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