第65話 案外、予期せぬ他人の一言がキッカケになったりする

 店内に入って注文を終えた後、俺は気になっていた事を茜に聞いた。


「で、茜と美桜が撮ってきたやつ見せてくれよ。俺が知ってる限りだと女子と撮るのなんてほとんど初めてだろ? どんななのか気になってな」

「え、僕持ってないよ。美桜ちゃんが持ってるんだ。後で切って分けてくれるって言ってたから」

「よし、美桜見せろ」

「何よその言い方は。まぁ、別にいいけど……」


 美桜はそう言いながらカバンからプリクラを出すと、テーブルの上に置いた。俺はそれを千衣子と一緒に見る。

 うん。予想通り二人とも緊張してるのがわかる。美桜は友達と撮ったりした事があるおかげか、少し慣れた感じでポーズをとったりしてるけど、茜はガチガチだ。


「……まぁ、友達同士ならこんなもんかね……」


 これは茜と美桜には聞こえないように、ボソッと言った俺の言葉。

 だけどそれはしっかりと千衣子の耳には聞こえていたみたいで、それに対してまったく予想もしていない事を俺に言ってきた。しかも、茜と美桜にも聞こえる程の声で。


「え? 三枝君と進藤さんって付き合ってるんじゃないんですか?」

「ちょっ! 千衣子!?」

「えっ!?」

「へっ!?」


 ちょっとぉ! いきなり何を言ってるの!?

 俺は飲んでいた水を噴き出す──ことも無く飲み込み、ゆっくりとグラスをテーブルに置くと千衣子に聞き返した。


「なんで突然そんな話になったんだ?」

「だって深山君がダブルデートって言ってたじゃないですか? だからてっきりそうだと……」


 あ、なるほど。納得。千衣子の中ではデートってのは恋人同士でするものってイメージだったのね。

 そうかそうか。乙女だなぁ~。可愛いなぁ~。

 って今はそうじゃない。


 両片想いの二人がこんな事言われたら、お互い変に否定してこじれる未来しか見えない。

 実際目の前で二人とも固まってる上に、視線は挙動不審だし。なんとかしないと……。でもどうやって? やべぇ。わっかんねぇ……。

 で、色々考えた結果──更に煽ることにした。


「なるほどね。でも千衣子。それは違うんだ。この二人はただの友達で、付き合ってないんだよ。な。これからどうなるかはわからないけどな。だよな? 茜」

「あ、いや、そんな……僕は……」


 ほら! 引き下がらないで男を見せろ!

 俺は心の中でエールを送る。だけどそのエールは別の奴に届いたらしい。


「美桜は……。美桜は、茜君の事をただの友達とは思ってないよ?」


 美桜が勇気出してきた! おい茜! 今だ! 気合いだ! 今言わないと、よくあるアホみたいにすれ違うラブコメ小説みたいになるぞ! そんなの見てる俺達が耐えられないんですけど!?


「あ……えっと……」

「茜君、あの……さ? 美桜ね? 茜君の──」

「待って! それ以上は僕から言うから。えっと、美桜ちゃん──」

「お待たせしました。レンチンエビピラフ、でございます」

「へ? あ、ありがとうございます……」


 大事なシーンで店のマスターが注文した物を持って来やがった。タイミング! マンガかよ!

 なんで今来るんだよ。つーか、レンチンって言ったか? まさかな……。

 はい、仕切り直し。


「えっと……。あ、翔平、悪いんだけどここ出たら少し別行動でもいい?」

「んぁ? いいけど? なんで?」


 俺、すっとぼけ。


「ちょっと美桜ちゃんを連れて行きたい所があるんだ。──それで美桜ちゃん。そういう訳なんだけど、いいかな? そこで伝えたい事があるんだ」

「う、うん……。わかっ──」

「お待たせしました。マルゲリィィタピッツァ、でございます」

「あ、美味しそうですね♪」


 また来やがった。この野郎。巻舌で少し笑いそうになったじゃねぇか。

 俺が立ち去るマスターに視線を向けると、白髪と白髭をたなびかせながら、ニヒルな表情で小さく親指を立てている。

 いやいやいや、グッ! じゃねぇよ!

 そういえば父さん言ってたな。この店で何回も母さんへの告白を失敗したとか。こういうことか。

 タチ悪いわぁ~。


 後、千衣子よ……。そうだな。ピザ美味しそうだな♪ 一緒に食べような♪


 ちなみに今のやり取りの間、ピザが来るまで千衣子は俺と茜達を交互に見て、ワタワタしていてとても可愛かった。

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