第8話 新歓に現れた美少女
次の日、授業を終えた西城さんと一緒に映画サークルの新歓にやっていた。
映画サークルは、映画を鑑賞するのではなく、実際に脚本・シナリオ構成からキャスティング、撮影、編集をすべて自主的に行う、所謂製作系のサークルだ。
西城さんは高校の時、演劇部だったこともあり、このサークルに以前からものすごく興味を示していた。
「ありがとうね、今日は一緒に来てくれて」
集合場所へ向かう途中、西城さんが申し訳なさそうに言ってきた。
「いやいや、むしろみんな行く予定だったのに、俺と二人だけになっちゃってごめんね」
「ううん、謝らないで。美央ちゃんたちも、それぞれ予定があったんだし、無理には誘えないよ」
そう言って見せるが、西城さんの表情は少し寂しそうな様子にも見えた。
ここは、何かフォローしなくてはと思った俺は、頭を掻きながら言葉を紡ぐ。
「まあ…俺もこのサークルはちょっと興味あったし、雰囲気見てよかったら、一緒に入るか?」
そう言うと、西城さんは驚いたようにこちらを見つめたが、すぐに破顔して明るい笑みを浮かべた。
「うん、ありがとう。その時はよろしくね」
「おう」
今の西城さんの笑顔は、悲しさや寂しさのようなものはなく、むしろ嬉しさが漂っていた。
その表情を見て、俺の心の中には安堵感と同時に胸がキュっと締め付けられるような感覚がした
集合場所へ到着すると、既に多くの学生たちが集まっていた。
係の先輩と思われる人に名前を伝えて受付を済ませ、しばしその場で待機する。
周りにいる新入生たちを見ると、やはり文科系に近いサークルのためか、スポーツ系のサークルと違い、陽気そうなテンション高めの学生というよりは、少し落ち着いた雰囲気の学生たちが多くいるように見受けられた。中には髪を染めて、集団で何か他愛もない話をしてケラケラと笑っている学生たちもいるが、その人たちもどこか運動部のギラギラした雰囲気ではなく、どこか少し落ち着きがある感じがした。
「それじゃあ、新歓に参加する新入生は他の人の迷惑にならないように2列に並んでついてきてください」
眼鏡の痩せ気味の先輩が手をあげながらそう言うと、ぞろぞろと新入生たちが付いていく。俺たちもその波に乗っかる形で列の中に混ざって歩き出した。
「…」
西城さんは、左右をキョロキョロと眺めながらどこか落ち着かない様子だ。
「もしかして、緊張してる?」
「へっ!?///」
顔を軽く赤くして俯いてしまう。どうやら図星だったようだ。
「大丈夫だよ、みんないい人だと思うよ」
「うん…」
「それに…」
言おうかどうか迷ったが、西城さんが言葉の続きを促すようにこちらを見つめてきたので、顔を逸らしながら言った。
「もし、西城さんに何かあったら、俺が守るから」
それを聞いて、西城さんは目を見開いて俺を見つめてから、再び顔を下に向けて
「ありがと…///」
っと恥ずかしそうに呟いたのだった。
何とも言えない甘酸っぱい雰囲気が俺と西城さんの中に漂う中、俺たちは新歓が行われるお店に到着した。店内はバルのような立食形式となっており、中にいくつかのテーブルが並べられているだけで、カウンターのところに料理が多数置かれているだけだった。
てっきり居酒屋のような場所で行うのかと思っていたので、少々驚いたが、こちらの方が移動しやすく、色んな人と交流が出来ると先輩たちが考えたのであろう。
荷物置き場に荷物を置いて、ドリンクを注文してからしばらくどうしたらいいのか分からず戸惑っている新入生の軍団の中で、俺と西城さんも同じようにして待ちぼうけを食らっていた。
「中々始まらないね…」
「うん、そうだね…」
先輩と思われる人たちは、各々先輩どうしで世間話を始めており、新入生たちが割って入れるような余地はない。
すると、店内の音響から幹事の人と思われる人の声が聞こえた。どうやらマイクを使っているらしい。
『え~今から映画製作サークルの新入生歓迎会を始めたいと思います。先輩方は事前に決めておいた配置に各自ついてください。』
は~いと陽気に返事を返した先輩方が、世間話をしていたグループを解体して、それぞれ決められた場所へと向かっていく。
俺と西城さんが囲んでいたテーブルには、茶髪の小柄な女性とジャケットを羽織り、少しホスト感漂う年上そうな男性がやってきた。
「よろしくね~」
「よろしくお願いします…」
かしこまりながら、ペコリと頭を下げる。
「緊張してるよね~」
「はい…」
茶髪の女性は、なりふり構わず手当たり次第にグイグイ新入生に声を掛けては質問を繰り返していた。見た感じ悪い人ではないようだが、質問をされている新入生は面喰ってしまっていた。
『え~皆さん、グラスは持ちましたでしょうか?』
感じの人のアナウンスに、「はぁ~い」生返事を返す先輩たち。
それを確認して、『それでは、新入生の皆さん楽しんでいってください!乾杯!』
「かんぱーい!」
その合図とともに、新歓がスタートした。
最初は、先輩たちの質問に各々が応えていくスタイルで進んでいったが、次第に先輩たちはお酒を飲んでいるため酔いが回ってきたのか、各々好きなことを始めてしまう。
それを機に、徐々に新入生同士での探り探りのおしゃべりが始まった。
やはり気さくに話しかけてくる運動部系サークルとは違い、人見知りする人たちが多いようで、最初は中々会話が弾まないが、話していくうちに共通点などが見つかり、そこから話を掘り下げて会話を発展させて徐々に打ち解けていった。
西城さんは同じテーブル周りにいた二人の新入生と仲良くなっていた。
俺は楽しそうに談笑する西城さんを眺めて微笑ましく思いながら周りを見渡した。
すると、お店の入り口からちょうど一人の女性が入ってきた。
白のシャツにクリーム色のカーディガンを羽織り、下には紺色のジーパンをはいた長い茶髪に軽くウェーブのかかっている美少女だった。
「おぉ!浜屋ちゃんお疲れ様!」
そう言って声を掛けたのは、サークルの先輩たち。その女性は、にこやかに笑みを浮かべて手を振っていた。
小さな顔に、クリっとした瞳、すうっと通った鼻筋に形の良い唇が印象的な見るものを魅了してしまいそうな純白なオーラを放った美少女がそこには立っていた。その美少女を俺は知っていた。
彼女の名前は
先輩たちに歓迎されながら、その純白なオーラを放った美少女の浜屋莉乃は、荷物置き場に荷物を置いて、ドリンクを注文するためにカウンターへと向かっていく。
俺はその姿に目が釘付けになった。
何故あの浜屋がこんなところに!?
しかも、見た感じ先輩たちと仲がいいみたいだし、どういう関係性なんだ?
目の前で起きている光景が、幻ではないのかと信じられないような感じで彼女をじぃっと見続けた。
「羽山くん、どうかした?」
「えっ!?あっ、いや、何でもない・・・うん」
ずっと一点を見つめて固まっていた俺を気にしてか西城さんが声を掛けてきたが、今はそれどころではなく。歯切れの悪い返事を返して再び浜屋莉乃の方を見つめる。
浜屋莉乃はドリンクを注文し終えると、反対側の席の方へと向かっていってしまう。
「ごめん、西城さん。ちょっと待ってて!」
「え!?うん・・・」
そう西城さんに言い残して、俺は浜屋が消えていった方へと向かう。
大勢の新歓に参加している人たちを掻き分けながら進んでいく。すると、一番奥のテーブル席でサークル先輩たちと仲良さそうに笑みを浮かべながら談笑している浜屋の姿を発見する。
俺は意を決して、浜屋の元へと歩みを進めていったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。