第2章 関係進展編
第26話 悪女津賀愛奈
時はあっという間に過ぎて、暦は6月に突入した。
ここ最近の異常気象は本当に異常だ。
6月にもかかわらず、日中の最高気温は30度を超え、むしむしとした蒸し暑さが体に押し寄せる。
教室内はクーラー全開で涼しいのだが、校舎移動で外に少しでも出れば、汗が体中からしたたり出てくる暑さである。
そんな中、今日も俺は西城さんと一緒に空きコマの時間を潰すため、食堂で二人ともスマホをポチポチといじっていた。二人とも喋ることがないからスマホをいじっているのではなく、ちゃんと理由があった。
「こことかどうかな?」
俺は検索したスマホの画面を西城さんに見せる。
「う~ん、週3からかぁ……もうちょっと少ない方がありがたいかなぁ」
「そっか……」
そうして、再び求人サイトでアルバイトの情報を検索する。
西城さんがアルバイト先を探したいが、アルバイトの求人サイトの見方が良く分からないということで、俺が手伝って探してあげているのだ。
今、学生にとってはアルバイト求人サイトは十人十色だ。逆に言えば、求人サイトが多すぎてどのサイトを見ればいいのかよく分からない状態にもなっているともいえる。
基本的にはテレビでCMしている大手求人サイトが無難だろうが、職種や場所によってもサイトによって得意・不得意があるので、気を付けなければならない。
ちなみに西城さんの希望は飲食系以外。つまりは落ち着いた雰囲気で黙々と仕事が出来る環境をお望みみたいだ。まあ、西城さんに居酒屋はちょっと似合わないわな。
かくいい、俺も絶賛アルバイトを探している身だ。正直に言えば、そのまま西城さんと一緒にアルバイト先まで同じにしようかさえ考えている。
二人でスマホをシュッシュと黙々と操作していると、明るい声が俺たちに届く。
「お二人さん! 何してるの?」
顔を上げると、そこにいたのは俺の中学の同級生、津賀愛奈である。
まだ初夏だというのに褐色色に日焼けした肌を晒して、にこやかな微笑みを浮かべてこちらの様子を伺っていた。
「よう、津賀」
「よっ! ねぇねぇ、何してるの?」
そう言って、興味津々といったように西城さんの肩を掴んでスマホの画面を盗み見る。
津賀愛奈と西城さんは、俺たちが入部することにしたサークル。映画製作サークルの『体験会』で顔を合わせて仲良くなった。そして、俺と西城さんが二人っきりになれる空きコマ時間によく顔を出すようになった。せっかくの西城さんとの二人の時間を邪魔しやがって……空気の読めない奴め。
だが、周りから見たら違うようで、オーラがある陽キャラの美少女である津賀愛奈と清楚で可憐な美少女西城さんを手玉に取っているパッとしない男が憎い。という構図に見えるようで、周りからの視線は鋭くて冷たいものだった。
「えっと、アルバイト先探してて、羽山くんと一緒に探してもらうの手伝ってもらってたんだ」
西城さんがスマホの画面に映っている求人サイトを見せると、津賀は納得したような表情になった。。
「なるほど~アルバイトか! 確かに少し大学も落ち着いてきたし、はじめるとしたらそろそろだよね! 美月ちは、何系がいいの?」
「できれば書店とか静かにアルバイトできそうなところがいいかなって」
「なるほど……」
すると、津賀は何か思い出したようにポンっと手を叩き! 何か閃いたような顔を浮かべた。
「そうそう! そう言えば、大学の図書館でアルバイトの募集してたよ? 時給もそんなに悪くなかったし一回聞いてみれば?」
なるほど、その発想はなかった。
俺たちの通っている鷹大には、日本最大規模の図書館がある。
図書館だけで建物まるまる一つ、参考書だけではなく、書店で売っているような文庫本や絵本、はたまた雑誌や漫画まで置いてあるそうだ。
俺はまだ図書館に足を運んだことは一度もなかったが、あれだけ広い建物であるならば、スタッフとしてアルバイトを募集していてもおかしくはないだろう。
ふと俺は、西城さんがエプロンを身に着けて、本を抱えながら棚の整理をしている姿を思い浮かべた。
髪をかき上げながら、本を一つ一つ丁寧に並べていく西城さんの姿……
想像しただけで人気が出ること間違いなし!
俺はそう思った。
「いいんじゃない西城さん! 一回行ってみようよ!」
気が付いた時には、俺は身を乗り出して食い気味にそう言っていた。
西城さんはしばし顎に人差し指を当てて、考える仕草をした後、俺の方を向いて少し恥ずかしそうにしながら小声で呟いた。
「羽山くんがそこまで言うなら……聞いてみようかな///」
思わず、心の中でよっしゃぁ!っとガッツポーズをしてしまった。これでもし西城さんが図書館でアルバイトを始めた暁には、調べものと称して図書館に西城さんの様子を合法的に見に行くことが出来る口実が出来た。
そのままバイトが終わった後、一緒にご飯でもどう? と誘い出して、そのままいい感じに……とまでよからぬ妄想まで考えてしまったが、ひとまず進展してよかった。
「やおやお、ちょっと」
和やかな雰囲気が漂う中、俺を津賀が手招きしてきた。どうやら二人で話したいみたいだ。
「ごめん美月ち、やおやおちょっとだけ借りるね!」
「あ、うん! わかった」
津賀に目でついてこいと言われて、俺は西城さんに一言詫びを入れてから席を立ちあがってついていく。食堂の隅にある地下へと続く階段を下りて、そのまま研究室などがある薄暗い廊下へと出た。
そのさらに奥まったところになぜかある長椅子に津賀は座る。
「何だよここまで呼び出して?」
俺が尋ねると、津賀が長椅子の隣を手で叩いた。どうやら座れということらしい。
促されるままに津賀の隣に座ると、津賀は顔を俺の耳元へと近づけて来て、小声で話す。
「今度の日曜なんだけど、また付き合ってくれない?」
「えぇ……」
俺が怪訝そうな表情で津賀を見ると、意外と顔が近くて思わずドキっとしてしまう。それを読み取ったのかは知らないが、ここぞとばかりに首をちょこんと傾げて甘えるような視線を送ってくる。
「ダメ…?///」
でたぁぁぁ、津賀必殺あざとさ攻撃。俺以外の男子だったら、こんな美少女に間近でこんな可愛らしい表情をされたら一瞬で恋に落ちてしまうこと間違いなし。俺は津賀の性格を分かっているので勘違いはしないが、思わずどもってしまうくらいには効果抜群だ。
「いやっ、そのぉ……」
俺がどぎまぎしていると、今度は少しいじらしい顔で再び語り掛けてくる。
「やおやおが美月ちとくっつけるように、フォローしてあげるからさ」
驚いたように津賀を見つめた。
津賀はしてやったりと言ったような表情で俺を見つめていた。
俺が西城さんと付き合うために、協力者がいてくれるならばそれは心強いことこの上ない。
俺はしばし悩んだが、決心したようにふぅっと軽く吐息を吐いてから、観念するように頷いた。
「わかった・・・・・・それなら付き合ってやるよ」
「ありがと」
悪い笑みを浮かべる津賀愛奈。あぁ…こうやって手軽な男たちと同じように、俺も津賀愛奈という悪女にいいように使われていく運命なんだなと悟った瞬間でもあった。
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